ギルド公認の決闘
オズワルドの一声で騒然とする冒険者ギルド。
今、正にありすがゴメスに掴みかかられようとしている。入口付近に立っていたクラウンはそれを見て仕方なさそうに声を上げた。
「【看破】のスキル持ちの職員はいないのか?どのギルドでも一人や二人は必ずいるだろう。」
クラウンの横に立っていたボルボは余計なことしやがってという顔をしている。
ゴメスが手を止めクラウンを睨みつけたその隙にありすはハイドを盾にするように後ろに移動した。
職員を見渡した副ギルドマスターのクレメントは、ずっと俯いて受付に立っている男性に視線を送る。
「確かレントは【看破】持ちだったよな?ずっと見ていたと思うが、どうだ?どちらが嘘を吐いているんだ?」
「そんなもんは明白だろう、クレメント!ワシらが嘘を吐くとでも思っているのか!!それにお前だ!たかが冒険者風情で何をしゃしゃり出て来とるんだ!」
顔を真っ赤にして異常に興奮しているオズワルドはクレメントの胸ぐらを掴みつつもクラウンにも矛先を向けた。
クレメントはオズワルドを気にする様子もなくレントに問いかけている。固く拳を握ったレントの額には薄っすらと汗が滲んでいた。この場にいる全員が固唾を飲んでいる。
「も、申しあげます、クレメント様。ご、ゴメス様が偽りを、、、、。」
「ふざけるな!貴様は何を言っとるんだ!ゴメスが嘘を吐くわけがないだろう!お前もこの女に絆された口か!」
オズワルドはレントに駆け寄りカウンター越しに手を伸ばした。
間一髪レントはしゃがみ込み回避する。オズワルドは怒りに任せて掌でカウンターを叩き、ありすを指差す。
「お前たちは騙されているのだ!この女は魔族だぞ!私にもいかがわしい魔術を使ってきおった!このゴメスのお陰で免れたのだぞ!」
ぎゃんぎゃん吠えまくっているオズワルドを見るありすの目が死んでいる。
その目はオズワルドに対する軽蔑と拒絶を物語っていた。
「わ、私は今日久しぶりに出勤を命じられました!そちらの女性とは面識がありません!今はオズワルド様が嘘を吐いていらっしゃいます!!」
カウンターの下で頭を抱えているレントが大声で叫んだ。
上司に対しての不満の表れであろうか、カウンターに隠れてだが確実にオズワルドを非難している。
「おのれ!下っ端職員の分際で!!」
オズワルドはカウンターに身を乗り出しレントに対して手をバタつかせて罵詈雑言を並べ立てていた。
ギルドマスターらしからぬ態度に他の職員も冒険者たちも呆れ返っている。そんな中、ゴメスだけはここからどう逃げ出すかを必死で考えているようだった。今の立ち位置からは出口は遠い。二階に上がって屋根伝いに飛び出すか、修練場へ向かう通路から職員用の階段を使って裏口へ逃げるかだろう。
「そんなにご自分の職員が信じられないのでしたら自警団の【看破】持ちを連れて来ましょうか?」
「ふん!どうせこの女に入れ込んでる男だろ!」
オズワルドはハイドに対しても攻撃的な態度に出た。
ハイドはこめかみを押さえながらため息をついている。何を言っても堂々巡りで嫌気がさしているようだ。
混沌とした状況の中、ゴメスがそっと右足に重心をかける。修練場から逃げることを選んだようだ。
「だったらよ、魔族女とそこの坊主頭がさしで殺り合えよ。勝った方が真実を語ってるってのでいいだろ?どうせどっちも折れやしねーんだからよ、命掛けるしかねえんじゃねぇか?」
いきなりボルボが芝居がかった口調でとんでもない提案をした。
入口にもたれかかって腕を組み、ニヤニヤしながらありすを見ている。自分の事を言われたゴメスは周囲の注目を再び受けたために逃走の機会を失った。
まさかの展開にクラウンは動揺しボルボに詰め寄る。
「おい、ボルボ!なに勝手に決めてるんだ!」
「ちょうどいいじゃねぇか。魔族女を剣士として連れ回すんだろ?これくらいの事出来ねぇでどうするよ。クラウンは甘めぇんだよ。」
微塵の罪悪感もないボルボは笑ってクラウンを軽く突き飛ばす。
その後ろに見えるありすの顔はまるで般若のようだった。ボルボに対して中指を立てている。
「よ、よおし!それはいい考えだな!こんな小娘相手にゴメスが負けるわけなかろう。ワシの名に懸けてギルド公認の決闘だ、決闘!勝者の言う事が真実だ!意義は受け付けないからな!」
急に生き生きしだしたオズワルドは腕を高らかに上げ宣言した。
野次馬たちも盛り上がりギルドに歓声が上がる。ハイドは手で眼鏡を覆うように顔を伏せ首を振っていた。




