ハーブパラダイス
結局こちらから声を掛けて助けを求めた。
いきなり襲われたこと、モーガンの意識が無いこと、必死になって撃退したことを話した。必死だったと強調したのだがタジマルの状態を見てちょっと胡散臭がられたのは言うまでもない。だが同じ広間にいた冒険者も出て行くことを拒否したらタジマルに問答無用で斬りつけられたことから一応は信じてもらえたようだ。モーガンの容態については一命を取り留めているものの意識が戻っていない。冒険者の中の一人から高級なポーションを貸してもらい応急処置をしている状態だ。
この洞窟で大口の依頼を受けていた冒険者がたまたま襲われた冒険者の知り合いで、荷馬車でローブッシュまで送ってくれることになった。
洞窟の入口で見た荷馬車は彼らの物だったようだ。正義感の強い冒険者たちに感謝。よく戻ってきてくれたものだ。私だけならモーガンを運ぶことすらできなかっただろう。ちなみに御者台で待っていた冒険者の目の前にタジマルの腕が落ちてきたそうだ。めちゃくちゃビビッてちょっと漏らしたらしい。
依頼も放ったらかしで私たちに付き合ってくれている冒険者たちには何かお礼をせねば。高級ポーション代っていくらなのだろう、胃が痛くなってきた。
ローブッシュに向かって馬車を走らせている時に聞いたのだが、この世界には病院が無いらしい。
とにかく何でも薬草やポーション頼みなのだそうだ。もちろん欠損は治らない。それを治せるのは神族、もしくは高度な回復魔法や治癒魔術の使える者のみ。一応タジマルが使ったかもしれない回復の巻物もあるが、これもバカ高いそうだ。ちなみに惜しげもなく提供してくれた高級ポーションは通常五万ベリはするらしい。盗賊団討伐報酬から色を付けて返してあげよう。
タジマルはというと、気絶させてから止血をして木の板の上に乗せて馬車で引き摺っている。
板なんかいらないのではと言ったのだが、そこは優しい冒険者たちが全員反対したのだ。市中引き回しの刑でもよくない?頭をぶつけようが肉が卸されようが知ったこっちゃない。さすがにそれは人道的ではないと諭された。割りとスピードを出していたから板がひっくり返る度に馬車を停めて仰向けに戻していた。そんなやつよりもモーガンの方が心配なのに。膝枕をしてあげて頭陀袋なんかをかき集めてクッションにしている。本当に親切な冒険者たちに出会えてよかった。
そんな彼らは薬草集めの依頼を受ける専門のクラン、ハーブパラダイスのメンバーだった。
世間では略して“ハブパラ”というらしい。なんじゃそりゃ、有名なん?っていうか、クランって言う概念あったんだ。
彼らはパーティーであれソロであれ色々な地方で活動しているらしい。もちろん野良で採取依頼を受けている冒険者もいるが、彼らがいなければポーションは万年枯渇状態になると言っても過言ではないそうだ。クランに入っている者は皆一様に正義感が強く、人助けに労を厭わない。入団の審査基準がなんとも厳しそうだ。
だからこういうことには慣れているらしい。
冒険者同士の殺し合いはギルドで禁止されているが、見えないところでは意外と蔓延っているという。特に洞窟やダンジョンなど人目のない所では気を付けた方がいいと言われた。先ほどの広間でもタジマルによって殺されていた冒険者がいた。ご遺体は後で自警団に連絡を入れて回収してもらうそうだ。なるほど口封じをすれば犯罪可能な訳か。だったらそんな奴等にこそ『クズ判定』を下してやろうではないか。
みなさま、メリークリスマス。




