殺せないんじゃなくて、殺さないの
髭面の左手に掲げられた巻物が薄っすらと発光している。
「時間切れだな。所詮お子ちゃまには殺しは出来ねぇってか、ははははは!俺を仕留めなかったこと、後悔するぜ。右手の仮は必ず返させてもらう!普通には殺さねぇよ。殺してくれって思うくらいの苦痛を与えてやるからな!」
巻物が強烈な光を放ち、辺りが一瞬ホワイトアウトを起こした。
目くらまし要素もあるのだろうが私には何の意味もない。
「あははははは!!!馬鹿め!、、、さあ早く帰って、、、、え?どうなってやがる!」
辺りを見まわしうろたえる髭面と目が合った。
まさかという表情で視線を自分の左手の方へとずらしている。
「は、はぁ?う、うわあああああぁぁぁぁぁがあぁぁぁぁ!!!」
巻物と一緒に消えたのは髭面の左肘から下だけだった。
もちろん巻物がそういった仕様だったからではなく、私が切り落とした結果だ。おそらく脱出の巻物だったのだろう。髭面の左腕だけが洞窟の外のどこかへ消え去ったと思われる。
自爆するようなタマじゃないのは分かっていたし、攻撃系のアイテムであれば既に使っているはず。それにあの怪我で逃げ回るとは考えにくいことから、アイテムは脱出系だと踏んでいた。
これで両手が使えないし悪さは出来ないだろう。喚く髭面の腹を蹴飛ばし壁際に追い込む。髪の毛を掴んで壁に叩きつけ上を向かせ、鼻の下に刀を当てた。
「殺せないんじゃなくて、殺さないの。ねぇ、お金が入るってどういうこと?あんた誰なの?」
脅しのつもりが勢い余って小鼻の辺りまで刀を食い込ませてしまった。
不細工な顔が余計に不細工になっている。まるで鼻血を流しているみたいだ。左腕からも血が止まらないようなのだが失血死されたら困るな。こういう時、火系の呪文とかを使えたら切った部分を焼けるのに。
「や、止めろ!た、た、タジマル、タジマルだ。」
あ、なんか言ってる。
取り敢えず髪を掴んでいる手を放し、刀を引っ込めてやった。
「タジマルって確か盗賊の名前じゃない。捕まえた中には居なかったのね。じゃあタジマル、お金って何?次は耳とかにする?」
「やめ、やめ!」
耳をつまんだだけで過剰に腕をぶんぶん振って抵抗している。
さっきまでの威勢のよさはどこへ行ったのやら。そう考えたら案外小物なのかもしれない。腕を斬り落とされても鈍感なやつだし、そんな漫画みたいに気付かないものですかね。それなら耳くらいもう平気でしょ。
「止めるわけないじゃない。今までこういう事してきた側なんでしょ?遠慮しないで。それとも足にする?殺してくれって思うほどの苦痛ってどんなものかしらね。」
「マジで、マジで止めてくれ!」
「やだ~、みっともない。こんな状態だったら生きててもしょうがないでしょ?洗いざらい白状して楽になったら?」
這ってでもこの場を離れようとするタジマルに興覚めしてしまった。
大物だったらひと思いにやれとか思い残すことはないとか言わない?こんな奴にモーガンが刺されたと思うと無性に腹が立ってきたので匍匐前進もままならないタジマルの膝の裏を刀で突き刺してやった。タジマルの叫び声と共にSE音が“ピコーン”と鳴る。何となく落ち着いた気分になれた。
何度目かの膝裏攻撃でお皿が割れたような感触がしたときにタジマルからモーガン襲撃の全貌を聞くことができた。
どうやらタジマルとギルドマスターはつるんでいるらしい。ゴメスというあのハゲもだ。盗賊団はわざと捕まえられないようにしておいて、依頼料を不当に吊り上げてから下っ端の首を切り、お金をせしめようという計画だったらしい。そこへ私たちが捕まえてしまったものだから計画変更、私たちを殺害して依頼料を全額着服することにしたそうだ。
こういったことを何度も繰り返していたらしい。なるほど、確かトマホークが全滅した時もギルドに預けているお金は何かしらギルドの方で使用すると言っていた気がする。ギルマスが関わっていればやりたい放題ではないか。だからあんなバカ高い悪趣味な調度品を揃えることが出来たのかと納得する。
全てを確認した上でタジマルをどうやって料理するかなと考えていたら通路から複数の足音が聞こえてきた。
“こっちです、多分襲われてますよ“そんな声もする。先ほどこの広間で見かけた冒険者が他の者を呼んできたようだ。襲われたのは確かだが、この現場を見ると私の方が悪者感半端ないだろう。どうしよう、隠れたりしたら怪しまれるだろうし、それにモーガンの事も気になる。私がタジマルと遊んでいるうちに目が覚めているかもしれない。




