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プロローグ

自動ドアが開いた途端、雨上がりでもないのに湿った暑い風が吹き付けてきた。

むわっとした空気に思わず顔をゆがめる。風圧で髪もぼさぼさになったがモデルのように髪をかき上げ、何事もなかったかのように颯爽と歩き続ける。


午後九時を回った金曜の繁華街。

ちょうど飲み会が終わるくらいの時間だからか、あちこちで二次会三次会に向かう団体が奇声をあげてご機嫌な様子だ。

そりゃ金曜日ですもの。ハナキンよ、ハ・ナ・キ・ン!

繁華街と言ってもその入り口あたり、つまりは駅出口周辺での光景。そのまま真っ直ぐに歩いて行けば居酒屋やカラオケ、ゲーセンなどがひしめく歓楽街。


私もその一人かって?冗談。

私は残業。奇声生物どもと一緒にしないでいただきたい。しかも役立たずの同僚オッサンの尻拭いでの残業だ。

どうして普通に仕事が出来ないのだろうと思う。別に出来るヤツを求めてはいない。普通の理解力がある人材が欲しいだけだ。


ここ数年、私は同僚や部下に恵まれてない。

私が出来過ぎるから仕方ないとは思うのだが、そこは自分の物差しで人を測ったりしない。適材適所というものがあると思うからだ。私も別の仕事だったら鈍くさくしか立ち回れない可能性はある。

だから妥協して普通に仕事が理解出来る同僚が欲しいだけなのだが――何故か配属されてくるのは救いようのないバカなオッサンばかりなのだ。

姥捨て山ならぬジジ捨て山か!





他の私鉄に乗り換えるために連絡橋に向かう。

ギターを弾いたり歌を歌ったり、何かのパフォーマンスに人の輪が出来ている。あからさまな客引きではないがお色気たっぷりで男性会社員を誘っているお姉さんやエア壁ドンでギャルを逃さないと頑張るお兄さん。そして一般人によるナンパや逆ナンが繰り広げられている。

ここを通らないと私のメイン電車の駅にたどり着けない。正直言ってうるさいしウザいし目障りだ。他の道が出来てくれることを切実に思う。市長!作ってくれ!市長にそんな権限あっただろうか。知らんけど。


「はぁぁぁぁぁ~」


ここを通るだけで一日の疲れがどっと出る。

パソコンに長時間向かって仕事しているのは苦にはならないのだが、残業で自分の時間が潰れてしまうのが嫌なのだ。今の部署は残業が不規則にあるので習い事などが出来ない。以前はフィットネスクラブに毎日のように通っていた。ほぼ筋トレですけれども。


『何か目指してるんですか?』


キラキラした目でインストラクターに問われたが、鈍くさいからスタジオには入れないとは口が裂けても言えない。

自慢じゃないが超が付くほど運動音痴なのだ。学生の時必死で走れば笑われて、必死で泳げば沈んでいき、必死で球に喰らいついては顔面キャッチ――これではどうしようもない。だから締めはエアロバイクを一時間。そのお蔭で止めてしまった今でも素晴らしいプロポーションを保っている。しかも歩く姿勢がとても綺麗で(もちろん意識して歩いているからね)会社の先輩にも誉められたことがある。





「すみません、今一人?帰るところ?よかったら一緒にカラオケでもどう?」


はい、今日は二回目、この手のナンパ。

一回目は会社の最寄駅だった。


「背が高くてスタイルいいしすごい美人さんだから、もしかしてモデルとかやってる?撮影帰りとか?」


・・・・・・・。

いいえ、残業です。尻拭いです。下手打った同僚オヤジは定時でとっとと帰りました。みるみる自分の心がダークになっていくのがわかる。でもそんな感情は一切表に出さずに、満面の笑みを浮かべる。


「ごめんなさい。家で主人と子供が待っていますから。」

「!!」


そりゃ絶句するでしょうよ。

大概のナンパ野郎はこの言葉で固まり、霞のように消えていく。

常識っていうものがあるのなら(まぁ、私の思っている常識だけど)人妻子持ちには足を踏み入れない。これで食い下がってくるヤツはよっぽどのヤリ魔かアホかそういうプレイを好むヤツ――つまりは関わるとろくなことが無いヤツらなのだと思う。

これでもしつこいようなら正直に断る。完膚なきまでに叩きのめすぐらいの言葉で。まだそれは幸いにも実行されたことが無い。何を言うかはヒミツだ。


「うわぁぁ、あれで子供いるの?詐欺だぁぁ。」


遠くで撃沈された男性が嘆いているのが聞こえる。

まぁ、仕方ない。声掛けた相手が悪かったと学習したことだろう。だいたい二十代半ばの青二才が私に声をかけるのがそもそもの間違いなのである。





そう、私こと栗崎ありすは今年、いやつい先日誕生日を迎え四十ウン歳になってしまったのです!

嗚呼何ということでしょう。数字だけ見れば「ババァ」の部類ではありませんか!身長168㎝、体重50㎏ちょい、胸は上向き・大きさ中の上、そして自分で言うのもなんなのだが超絶美人なのである。だから本当に見た目は二十代半ばなのだ。もちろん皺もない。これは事実だ。なので雨霰のようにナンパに遭う、ウザいくらいに。でも旦那も居なければ子供も居ない。もちろん離婚バツイチではないし、死別もしてない。


ではなぜ独身なのか?

それは“男を見る目がないから”なのだ。それでいて私は“あげまん”体質らしく、付き合った男は必ず出世する。と同時に別れると没落する。傍目から見れば面白いとは思う。とにかく付き合った男はことごとくダメ男。あの頃は押しに弱かったせいか断ることが出来ない性格だったからか自分の好みでない男性と付き合ったり、告白して付き合ったものの“なんか違う”を感じたが自分から言い出した手前別れを切り出せないこともしばしばあった。しかしどうしても嫌な部分は見えてくるものだ。


結構我慢した。

友達にも話したが、よく我慢してるねって賞賛されたほどだ。

その我慢が限界にきて別れる。私の“限界にきて”というのが一般人からしたら相当な我慢だったと思う。しかしながらお蔭様でDVは無かった。浮気とかされたし、仕事バカもいたし、私を溺愛しすぎてキモいヤツもいた。

なんだかんだ言って、私はセックスでイったことが無い。気持ちいいとは思わなくはないけど、イかない。自分でしたらなんとなくはわからなくもないけど、とにかく交わってイクことはない。今までのヤツらが下手くそなのか?そう思った事もあるが付き合った誰とも出会えなかった。イクふりをして今まで誤魔化していたけれどもうそれも面倒臭くなった。性欲もない。だからがっついてくる男子は苦手である。昔から手を繋ぐだけで満足なのだ。心を満たしてほしい。なのに身体を求められる。嘘っぱちな言葉を並べて、ヤッたらそれで放置状態。その後のまったりとした微睡みなどがない。相手はスッキリしたという感じなのだろうか?


最近になってようやく悟った、遅いけど。

男性は狩猟民族で子孫を残すために種まきをする。色々なところで。だからもう男は信じないし頼らない。もちろん友達として絶大に信頼を置いている人はいるのだが結婚とか子供とか、ぶっちゃけどうでもよくなった。正社員だから定年まで働けばいいことだし、生活するに不自由は感じてない。逆に今更他人と一緒に暮らすのはかなりしんどい。自分のライフスタイルが確立されている今、見知らぬ人と終始一緒に居るなんて考えられないのだ。


若かりし頃、早く会社辞めて結婚して温かい家庭を築くんだ!などと息巻いていたけれど、所詮結婚なんて勢いなのだと思う。

実際に誰かが言っていたし、雑誌や漫画などにもそういう意味のことを年配の人が言っている場面が多々あった。あの頃理解できなかったのだが、今になってようやくわかる。歳を取るというのは怖いものだ。


じゃあ何を楽しみに生きているのかって?

よくぞ聞いてくれました!

アニメです。漫画です。ゲームです!二次元万歳!ビバ二次元!二次元しか愛せない。

第二次二次元マイブーム到来中!!



お読みいただきありがとうございます。

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