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 一見すると兄ちゃんは細身だが生身のそれは随分と逞しい。初めて目にした時僕はびっくりしてその硬く盛り上がった腕や胸に触れさせてもらった。筋肉というものだという。


 僕のもいつかそうなるのかな。棒切れのような自分の腕や平らな胸を弄りながら僕は呟く。たぁくんはならないよ。兄ちゃんは言った。一生そのままだ、と。可愛い可愛い男の子のままだ。そう言って僕を腕の中に抱く。


 その腕の中からひょっこりと顔を出して僕はなおも尋ねる。いくつの頃からそうなったの、と。さあてな、と兄ちゃんは言う。僕に頬ずりをしながら。


 僕は兄ちゃんの歳を知らない。ケーキに刺されたローソクは何本だったか。太いのが二本だけ刺されていた。兄ちゃんは答えないのだ、兄ちゃんの話はいいよ、といつも言う。だから名前も知らなかった。


 名前なんてなくていいさ、なんて時に言ったから、この人にも、この人にも名前があるよ、なのに兄ちゃんだけ名前がないの、と僕は尋ねた。兄ちゃんは笑った。そうだよ、と言った。変だよ、と僕は言った。絵本の中の子供達を一人ずつ指差しながら食い下がった。今日はどれにする、と兄ちゃんに聞かれて選んだ絵本であった、本棚にずらりと並ぶ本の中の一冊だ。膝の上に乗せてもらって読み聞かせをしてもらっていた。寝る前には必ず読み聞かせをしてもらう。


 結局兄ちゃんにだけは名前がないらしい。腑に落ちないことだらけだ。時に僕は言った。雨に当たっても誰も死なないよ、と。絵本にしても童話にしても、その世界の中では時折雨が降り、そして雨に打たれても誰一人として死ななかった。


 幻想の世界だからだ、と兄ちゃんは言う。雨に当たったら死ぬ、と。


 ふーん、と僕は言う。いつしか兄ちゃんの腕の中で眠りに落ちている。



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