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これはね、雨って言うんだよ。いつの日か、兄ちゃんは僕にそう言った。
当たったら死ぬ、とも。
窓には雨というものの細かな粒が大勢張り付いていて、その向こうに広がる外の世界というやつを僕はじっくりと観察した。道というものの脇に立つ、木というものを。傘というものを差して歩く、人というものを。
窓の外は恐ろしいんだ。僕の肩を抱き、共に窓の外を眺めながら兄ちゃんは言う。いつ雨が降ってくるか分からない、と。
僕の喉がこくりと鳴る。ふっと、兄ちゃんの笑った声が降りた。
ここにいれば安心だからね。そう言って兄ちゃんは僕の頭を撫でる。ゆったりと、丁寧に。
おまえは死ぬまでここにいるんだ。
兄ちゃんの声が耳元で揺れた。
僕は十四歳だという。それはケーキに刺されたローソクの数で知った。
面白いことをしようか。兄ちゃんは言う。生クリームをその細長い指に絡めながら。その綺麗なアーモンド形の目を楽しげに笑わせながら。
兄ちゃんのやることは何だって面白かったし、随分と気持ちが良かった。今回などは生クリームの冷ややかさと兄ちゃんの舌の熱さとの対比が絶妙で、それは僕の目に涙さえ浮かばせた。
我慢しなくていいんだよ。兄ちゃんは言う。ここには兄ちゃんとたぁくんのほかに誰もいやしないんだ、と。
泣いているかのような僕の声が雨音に混じる。それは誰の耳にも届かない。
外から中を覗き見ることのできないフィルムが窓に貼ってあって、そこを滑り降りる雨の筋が歪む視界に入った。
雨だけは見ているのか。僕らを、じっと。
この行為そしてこの気持ちの良さは一体何なのだろうかと思いながら来る日も来る日も兄ちゃんと二人で続けてきた。今日も、明日もこれをする。