表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

新年の月曜日

「スーパーブルーマンデー」


 常に金欠の慢性貧乏、大学1年生の相田候人(アイダコウト)は年末年始の冬休みを

「アルバイト料が割高でお得だ」の信条に則りバイトに勤しんでいた。

普段自堕落な生活を送っているコウトにとってそれは精神的にかなり堪えるものであった

が、バイト先から手渡された給与明細に記載された数字を見て心を癒していた。

さあ、懐が温まったところだが明日は今年最初の登校日だ。バイト代の使い道を考えて

いた至福の時も束の間、現実に引き戻されるコウトだった。


1/7(月)


コウトの通う大学は下宿先のアパートを出て徒歩約15分、田舎の地方大学に通う独り暮らしの

学生にとっては珍しい程の近さではない。学生の中には家から歩いて5分なんて結構

いたりする。この前、ある朝起きれないモノグサ学生がカップラーメンにお湯を入れてか

ら家を出て、講義室についてから食べるといった事をしたツワモノがいた。もちろん強烈

なスープの臭いを漂わせていた為、周囲からは


「クセぇんだよ」


「朝っぱらからそんな胸やけするもん食ってんじゃねえ」


と散々に罵倒され常習化するには至らなかった。

まあ、至らなくて本当に良かった。


コウトは朝食を食べない(起きれない為、食べる時間がない)通学路の途中で出会った

友人に向けて現在の心境を言葉にして発した。


「よう、だりぃな」


ワンパターンなセリフだ。いや、もう悪習になりつつあると自分でも思っている。


「よう、だりぃな。まさにブルーマンデーってやつだな。自分で大学行きたいと言ってなんだけど

このゲンナリする感覚は高校も大学も変わんねぇな。」


この友人Aもコウトに負けず劣らず自堕落な独り暮らしを送っている。下宿先アパートは

コウトよりも近く大学まで歩いてわずか10分。「類は友を呼ぶ」という言葉があるが最近

その意味が親身に理解できる気がする。以前、それをこの友人に言ってみたらこう答えて

きた。


「お前が朝から勉強熱心な大学生になったなら、俺は予習大好きな大学生だと思う」


要するに、「ムリだ」と言いたいらしい、回りくどいこと極まりない。

そんな言葉遊びをしてると本当に不可能な気がしてくるから不思議だ。


朝、起きれないかだって?当然だろう朝なんだから。


 そうこうしてる内に俺達は校門を通って目的の講義室についていた。朝市の講義は「社会学基礎」

理系大学の基礎教養なものだからやっていることはお遊びに過ぎないのだろうが、大学1年の俺には

まさに大学生という感じで嫌いではなかった。


1/7 AM8:30 大きさ15m四方程度の中教室の教壇に一番近い入口から「社会学基礎」の

教授が入ってきた。大学には決まりきった挨拶や出席確認は無く講師によって様々な講義進行の

形をとる。

教授にしては若い30代中盤のこの方は出席確認が嫌いな様で、聴講する学生をひと通り見回した後、

今日の活動内容を簡潔に説明し始めた。


「皆さんおはようございます、では早速今日の活動内容を説明します。本日は再来週のグループ発表『文書から読み解く社会文化』の発表テーマ選定と資料集めをしてもらいます。

皆さんにとっては現代社会をテーマにして読み解くにはあまりに資料が膨大すぎて難しいと

思いますので、中世、近代の文書からピンポイントの事象を読み解きまとめることをおすすめします。

では時間が惜しいですのでグループ毎で図書館での資料集めとグループ考察、とりまとめに取り掛か

ってください。後、次週は発表準備に取られてしまうのでできるだけ資料集めと何をテーマにするか

位は確実に完了させて下さい。以上です。』



 俺のグループメンバーは俺、友人A、B、Cで4人と言っておこうか。ちなみに友人Aは今日の朝、

話をしたあいつだ。無作為なグループ決めでこいつと一緒になるあたり、偶然というものに

若干恐怖を覚えるが深く考えたらだめだ。


 つづいて友人Bだがこいつはなんというか一言で言うなら「バカ」だな。ちょっと判らないと

すぐに思考を放棄して思った事をすぐに口に出す。ついでに軽いお調子者といった感じだ。

この前なんか『筋力』という漢字を『すじにく』と発言しやがった。日頃から思考が飛んでる証拠だ。


 最後に友人Cだがなんと工業理系科に数少ない女だ。だがちょっと考えてほしい、見た目はともかく

男だらけのこんな科に平然と在籍しているヤツが普通の女なわけないんだ。

ちょっと会話して判ったねキツイんだよ。べつに嫌味とか意地悪言ってくるわけじゃないんだけど

発言に一々容赦がない。もう覚えちゃいないけど、この前「そこまで言うか?」って事まで

言われたからな。女は現実的だなんて良く言われてるけどここまで極端な人間も少ないんじゃ

ないだろうか。





俺たち4人は図書館の地下書棚B2Fに来ていた。唯でさえ図書館は一種の静けさがあるの

に地下のこの狭い空間に本棚がひしめいている光景には圧倒されるものがある。1mも無い

中央通路の両側にスライド式の本棚が壁の様に蒼然と並び通路をより狭く感じさせる。

すでに他のグループの人間が本の品定めを行っているのが見える。あれ?これって下手に

誰かが見てる棚の反対側の本を見ようとするとどっちかがスライド棚に潰されちゃうんじ

ゃないか。なんてこった、この図書館って複数の人が同時に同じジャンルの本棚を調べる

ことを想定してないぞ。気を付けないと下らん事故に巻き込まれてしまう。俺が不安を感

じているとグループメンバーから声が掛った。


「ところでテーマっていつの時代にするの?」


友人Cが俺達全員に聞いてきた。すると間髪いれずに友人Bが返事をした。


「やっぱ、戦国時代だろ、おもしろそうじゃん。」


はぁ、こいつすでに思考してないな。戦国時代なんて俺らが理解できる文書が早々あるわ

けないだろうが。第一、日本統一もされてな・・・


「日本国内で争ってた時代のもので私らが簡単に取りまとめできる様な文書無いと思うけどね」


友人Cがバッサリと駄目出し斬りをしてくれた。でもさっさと目星くらいは付けた方がいいかなと

思ってこう発言する。


「まあ、ここは江戸時代あたりだろ。明治時代でもいいけどちょっと複雑かもしれんし」


「えー江戸かよ。みんな知ってる文化ばっかじゃね?遠山の金さんとかさ。ははは」


友人Aが即座に切り返してきた。すまん友人A、ジョークなのか本気なのか俺には判断できねえ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ