20 エピローグ
ダークフラワーが討伐された翌日。
町長が演説を行い、その事実が町の人々に伝えられた。
情報は人から人にも伝わり数日後には町中の誰もが知ることになった。
北の洞窟が安全になり、町はお祭り騒ぎとなった。
皆が魔物の活性化の原因が取り除かれたことを喜んだ。
それを成し遂げた町の外から来た冒険者達を称えた。
具体的な冒険者の名前は公表されていないので、僕やカールやレオナルド達の名前が話題に上ることはない。
それでも冒険者達の活躍が町中で噂されているのを聞くと僕は誇らしい気持ちになれた。
レオナルド達は翌日には町を出たのか、報酬を貰った時を最後に姿は見かけなかった。
ダークフラワーの討伐後、徐々に北の洞窟に向かう人も増え始めた。
初めは念のため洞窟内の安全確認のために向かう人が、ちらほらいただけだ。
彼らが洞窟内の安全を証明した結果、本格的に鉱石の採集に復帰する人たちが現れ始めた。
元の活気を取り戻すのもそう遠い未来の話ではないだろう。
カールとは非常に仲良くなって毎日一緒に行動している。
もう完全に友達だ。
先日、カールと僕の二人で北の洞窟に鉱石の採集にも行ってきた。
貴重な体験が出来たと思う。
ちなみに一人残されたミーシャは薬屋さんとの交渉に成功し、調合設備を使わせてもらっていた。
出来上がったのがダークフラワーの根から作った粉末状のお薬だ。
魔物の体の一部から出来てるので、摂取して大丈夫かなと心配だが、毎日飲まされてる。
ミーシャが作る薬は相変わらず激マズの味で、飲むのが大変だ。
効果の方は飲み始めの頃は分からなかったが、最大魔力量が増えてた。
そのことに気付いてからカールにも激マズ薬を薦めた。
薬自体は沢山あるからだ。
カールも初めは半信半疑だったし、魔物由来の薬ということで抵抗もあった。
だが実際に試して効能を感じてからは嬉々として飲んでいる。
それだけ最大魔力量は魔法使いには大事なのだろう。
飲み過ぎて突然、自分の体や精神が魔物化したらどうしようと不安はあるが、角や尻尾が生えてくる気配はない。
今のところ副作用はないようだ。
それからミーシャの冒険者ギルドカードが発行された。
受け取ったとき「これで私も冒険者割引が受けられる」と嬉しそうだった。
この町に来てから色んな事があったけど、どれも大切な思い出だ。
そして僕はそろそろこのロマールの町にお別れを告げなければならないのかもしれない。
居心地が良くてまだこの町に居たいと思う気持ちもあるけど、ここが僕の冒険の終わりじゃない。
これから先、沢山の人や町との出会いが僕を待っている。
だから僕は決断した。
近いうちに次の町に出発しようと。まずはそのことをミーシャに話そうと思い、宿の部屋で夕食を取った後に切り出した。
「ねえミーシャ。そろそろ次の町に行こうと思う」
「そうね。ずっとこの町にはいられないし、そろそろ出発時かもね」
ミーシャの同意を得ることが出来たので、後はカールとギルド職員に挨拶が必要だろう。
明日も朝から冒険者ギルドでカールと待ち合わせしてるので、その時に町を出ることを告げよう。
「ギルド職員のお姉さんとも話をしたいから明日は早めに冒険者ギルドに行こう」
「わかったわ」
最近は朝から冒険者ギルドを利用する人が増えている。
遅くなると混んでしまうのでギルド職員とゆっくり話が出来ないかもしれない。
だから早めに行こうというわけだ。
ギルト職員とは僕たちが町を出ることを告げるだけじゃない。
王都へ向かうため、次の町の情報を教えてもらわないと。
その日は僕とミーシャで町を出発するために必要なことを話し合い、早めに就寝した。
翌日。早めに起きた僕は日課の鍛錬だけはきっちりこなし、宿の部屋で早めの朝食。
そして冒険者ギルドにやってきた。
開いてるか少し心配したが、問題はなかった。
冒険者ギルドに入るといつものギルド職員が座っていた。
最近は冒険者ギルドを利用する人が増えて、職員も複数人で対応していた。
だがまだ他の職員は来ていないようだった。
「おはようございます」
「おはようございます。お姉さん」
僕とミーシャが挨拶すると、ギルド職員は微笑みを浮かべ挨拶を返してくれる。
「おはようございます。レインさん。ミーシャさん。今日はお早いんですね」
「はい。少しお話がしたくて早く出てきました」
「私とですか?」
「そうです。実はそろそろ次の町に行こうと思っているので、それを伝えようと思って」
「そうなのですね。それは寂しくなりますね」
「ええ。それで最終的に王都へ向かいたいんですけど、次はどの町に向かえば良いか聞きたくて」
「それならこの町から東にあるサントリアの町に向かえば良いでしょう。レインさん地図はお持ちですか?」
「はい。一応、持ってます」
村で購入した村周辺の地図がある。
安物の大雑把な地図だ。
僕は念のためバックパックからそれを取り出してギルド職員に見せた。
「この地図なんですけど」
「少し拝見しますね」
地図を見ると、ギリギリ右の端にサントリアの町の存在を確認することが出来る。
この地図はシルド村周辺地図なので王都の場所は確認できない。
シルド村から大体、北東に位置することくらいしか僕は知らない。
「大丈夫そうですね」
地図を確認したギルド職員がそう呟き、
「でも次の町で新しい地図を購入する必要がありますね」
「そうですね。ちなみにこの町からサントリアの町まで歩いて一日で着きますか?」
この地図の書き方だと大丈夫そうに見えるが、安物の地図がどれだけ正確なのか分からない。
「朝早く出発すると、夕方までには着きますよ」
それならミーシャが道中で薬草の採集を始めても、夕方過ぎくらいには着くだろう。
一安心だ。
「サントリアの町に向かうのに何か注意することはありますか?」
「そうですね……。サントリアの町の周辺に流れている川で、魔物がちらほら出現していると最近情報が入っています。その川を渡らないといけないので、注意が必要かもしれません。この町から歩いてサントリアの町へ向かう場合、体が疲れている状態で戦闘に入るので特に注意した方がいいでしょう」
「分かりました。情報ありがとうございます」
「お役に立てたなら、嬉しく思います」
「それじゃ、また後で採集クエストの受付をするので、その時はよろしくお願いします」
「かしこまりました」
僕は一度話を終わらせた。
その後はカールが来るのを待つ。
少し早く来過ぎたかもしれない。
ミーシャと二人でのんびりしながら冒険者ギルド内で待つ。
しばらくするとギルド職員が二人増え、そのあたりから冒険者ギルドを利用する人が来始めた。
今は職員が三人体制で対応しているのかもしれない。
そうこうしている内にカールもやってきた。
「「おはよう。カール」」
僕とミーシャが挨拶すると、カールも笑顔で返してくる。
「おはよう。レイン。ミーシャ」
僕たちは挨拶を済ませると、早速、薬草の採集クエストの受付を済ませる。
鉱石の採集でなく薬草の採集を選ぶには理由がある。
鉱石の採集に行く場合は自前で道具を用意しないといけない。
前回二人で行った時は、カールに予備の道具を借りた。
だが三人分の道具は無いとの事だ。
まあ仮にあったとしても力仕事なのでミーシャには無理かもしれない。
そうなると鉱石の採集に行ってもミーシャはすることがない。
なので薬草の採集クエストの方に行くようにしている。
他の理由として純粋にミーシャが薬草の採集に行きたがるというのもあるけど。
そういうわけで僕たちは薬草の採集をするために南の湖に向かうことにした。
そこで湖でも眺めながら僕たちが町を出ることをカールに伝えようと思う。
☆
南の湖に着いた。手頃な場所にバックパックを下ろし、僕はカールに言った。
「ねえカール。話があるんだ」
「話?」
カールが何だろう、という感じの表情を浮かべて僕を見た。
僕は一呼吸おいてから告げる。
「僕たちそろそろ次の町に出発しようと思う」
「えっ、そうなの?」
カールが少し動揺した様子を見せる。
「うん。いつまでもこの町にいるわけにはいかないから」
「いつ出発するの?」
「明日には出発しようと思う」
「急だね……。いやそうでもないか。旅の途中に寄っただけって考えると、むしろ滞在していた方か」
「ミーシャの冒険者ギルドカードの件があったからすぐには出発できなかったってのもあるけど」
「確かにそうだね」
カールはそう言って湖の方に視線を向ける。
つられて僕も湖の方を見る。今日も美しい景色がそこに広がっている。
しばらく無言で湖を見ていたが、カールが呟く。
「うん。わかった」
そして僕の方を向いてカールは続けた。
「正直、とても残念で悲しいけど、仕方がないね。レインたちは王都を目指して旅してるんだから」
「僕もカールと別れるのは悲しいよ。村の外で初めて出来た友達だから」
「そう言ってくれると嬉しいよ。友達になってくれてありがとう」
「こちらこそありがとう」
僕たちは握手を交わした。そしてカールはミーシャの方に向いて言う。
「もちろんミーシャも僕の友達だからね」
「ありがとう。私も嬉しいわ」
カールとミーシャも握手を交わす。そして頃合いを見て僕は告げた。
「それじゃ、この町で最後の薬草の採集を始めよう」
カールとミーシャも頷いて、薬草の採集を開始した。
☆
お昼になって冒険者ギルドに戻り、報酬を受け取った後、三人で昼食を食べた。
三人で食べる最後の食事ということで僕はゆっくり食事を楽しんだ。
食事を済ませて店を出ると、カールが言った。
「レインたちはこのあとどうするの? 明日の出発の準備かな」
「そうだね。明日の道中で食べる食事を買わないと」
「そうなんだ。僕はちょっと今日は用事があるから帰るよ。明日の朝はレインたちを見送りに行くから。朝一にレインたちが泊まっている宿まで行くよ」
「ありがとう。カール」
「それじゃ、また明日」
そういってカールが帰っていった。
「カールが用事で帰るって珍しいわね」
「そうだね。今まで一度もそんなこと無かったから……。大事な用事なのかな」
正直、今日はカールと一緒に一日を過ごそうと思っていたから拍子抜けだ。
でもまあ用事があるっていうなら仕方がない。
僕はミーシャと二人で、明日の準備をするために、商業区を見て回った。
必要なのは食べ物なので、携帯食になるパンや干し肉を探して購入した。
その後は二人で適当に町を散策してから宿に戻った。
そこで宿の利用が今日までで明日には出発することを宿の人に告げた。
最後の夕食を宿の部屋で取った後はゆっくりとくつろいだ。
そして明日に事も考えて早めに就寝した。
翌朝。まだ日も昇りきらない時間から僕は目が覚めて、一人で宿の外に出る。
薄暗い中、日々の鍛錬を行っているとミーシャもあくびをしながら出てきた。
「おはよう。レイン」
「おはよう。ミーシャ。眠そうだね。もう少し寝ててもいいよ」
「ううん。大丈夫」
そういってミーシャは腰を下ろして僕の鍛錬を眺め始める。
僕も集中して鍛錬を続けた。鍛錬が終わるとミーシャが声をかけてくる。
「この町も見納めね」
「そうだね。次の町はどんなところだろう。次の町でもいい出会いがあったらいいね」
「そうね」
僕たちはしばらく町の景色をぼんやり眺めていた。
気付けば朝の日差しが感じられるようになっていた。
「今日も天気は良さそうね」
ミーシャが空を見上げて言う。
「晴れて良かったね」
僕も空を見上げて言った。旅立つには絶好の日だった。
そんなことを考えていると僕たちに声がかかった。
「おーい」
僕たちは声がした方に視線を向けた。
カールが僕たちの方に向けて走ってくる。
そして僕たちの前で止まった。僕はカールに声をかける。
「おはよう。カール」
「おはよう。レイン。ミーシャもおはよう」
「おはよう。カール」
「早いね。カール。もう少しゆっくり来てくれても良かったのに」
「あんまり遅くても迷惑かなと思って、早めに来て宿の前で待ってようと思ったんだ。それより僕、レインに頼みがあるんだ。聞いてくれるかな」
「頼み? 何かな」
「昨日、レインたちに町を出発するって聞かされた時、急だったから踏ん切りがつかなかったけど。昨日、帰ってからよく考えたんだ。僕はどうするべきか。僕は決断したよ。もし叶うならレイン、僕も君たちの旅に連れて行ってくれないか。僕も冒険者として旅に出たい。僕と冒険者としてのパーティを組んでくれないか。それが僕の心からのお願いだよ。もう荷物の整理も済ませてきた。僕もいつでも出発できるよ」
確かにカールの背にバックパックが見える。全ての準備を済ませてきたのだろう。
それだけでカールの本気を窺うことが出来た。
僕は一度ミーシャと顔を見合わせる。
僕だけで勝手に決めていい問題では無い気がするのでミーシャと相談する。
「ミーシャはどう思う?」
「私はレインの旅に無理矢理ついて来た身だから、レインが決めればいいと思うよ。そう思うけど私の意見も言わせてもらうなら、戦力が増えるのはいい事じゃない? 私の安全もそれだけ確保されるってことだと思うから。私は連れていくことに不満は一つもないよ。レインはどう考えてるの?」
「僕はカールが一緒に来てくれるなら純粋に嬉しいよ。カールの魔法も頼りになるし、初めて出来た冒険者の友達だしね」
僕の言葉を聞いたカールが顔を輝かせる。
「それじゃ。僕も連れて行ってくれる?」
その言葉に僕は力強く頷いた。
「分かった。一緒に行こう。これからもよろしくね。カール」
「ありがとう、レイン。僕、嬉しいよ」
こうして初めての仲間が加わったのだった。




