9 カール
マリーが部屋を出ていったことで、僕とミーシャとカールの三人になった。
「色々付き合わせて悪かったね。君たちには感謝してるよ。ありがとうね」
「感謝してるのは僕の方だよ。カールがいたから盗まれたものが返ってきたんだし」
「そう言ってもらえると有難いよ。役に立てて良かった。とりあえず外に出ようか。いつまでもここにいても仕方ないし」
「そうだね」
僕たちは部屋を出て階段に向かって歩く。
途中、相変わらずカールは孤児院の子供たちに人気で声をかけられたが、階段を降りるとそれも無くなった。
そのまま孤児院も出ると、これからどうしようということになり、とりあえず冒険者ギルドに三人で向かうことにした。
ギルド職員にお金と袋を取り戻したことを一応報告に行くためだ。
ちなみに孤児院の子供に盗まれていたという話は、今はまだしないでくれとカールに言われた。
ギルド職員から町の人へ話が広がってしまうと困るのだろう。
僕は快く了承した。
その後しばらく黙って歩いていたが、ミーシャがカールに話しかけた。
「そういえばカールは子供たちに慕われてるのね」
「まあ僕も孤児院で生活していたからね。みんな兄弟みたいなものだよ」
兄弟か。
そういえば僕もミーシャも一人っ子なので兄弟はいない。
ミーシャを含め幼馴染が何人かいるだけだ。
カールを見てると兄弟とはいいものなのかもと思える。そんなことを考えているとカールが告げた。
「君たちは旅の冒険者なんだよね」
「僕は冒険者だけどミーシャは違うよ。まあ僕もまだ駆け出しの冒険者なんだけど。旅をしてるのはその通りかも。今は王都を目指してる」
「そうなんだ。僕も冒険者だけど正直あんまり冒険者っていう実感は無いんだ。冒険者って言っても活動は、北の洞窟で鉱石の採集をするだけだったし。まあこの町の冒険者はほとんどがそうなんだけど。僕も含めて多くの人は危険を侵さないみたい。そもそも戦う力が無い人も多いし」
「北の洞窟に危険は無かったの?」
僕も疑問に感じたことを、ミーシャが尋ねた。
「危険はほぼ無かったよ。魔物はほとんど出なかったんだ。出たとしても洞窟の奥の方でたまに出るくらいで、その時は一部の冒険者が戦って倒してたよ。強い魔物が出ることもいままで無かったし」
「カールも戦ったの?」
僕が聞くとカールは気まずそうに笑い。
「実は僕、まだちゃんと魔物と戦ったことないんだよね」
「えっ、そうなの?」
僕は驚いてカールの顔を見る。
パーティから脱退だ、とか言われてた時に、カールも色々自己アピールしてたから、経験があるものと思っていた。
「ちゃんと戦ったことはない……、ってことはちゃんとしてない戦いならあるの?」
ミーシャが疑問をぶつける。
「それが今日の朝に初めて冒険者パーティに加入して、北の洞窟で魔物と戦おうとしたんだけど、正直怖くてまったく何も出来ず気付いたら戦いが終わってた」
「……。そうなのね」
ミーシャが少しいびつな笑顔で相槌を打った。カールは何かを察したのか弁解するようにいう。
「初めてだったし仕方ないんじゃないかな。うんうん。それに僕、これでも魔法の才能があるんだ。エクスプロージョンっていう上位魔法が使えるんだけど。結構凄い魔法なんだ。だから戦いに慣れれば戦力になると思うんだよね」
「そんな魔法、どうやって覚えたの?」
僕は好奇心を刺激されてカールに質問した。
「孤児院に冒険者を呼んで、講習を開いてもらうっていうイベントがあるんだけど。そのイベントに呼ばれた魔法使いの冒険者に教わったんだ。その冒険者が講習の最後にとっておきの魔法を見せてやるって言って、町の外まで行って見せてくれたのがエクスプロージョンの魔法なんだ。僕のすぐ傍で魔法を使ったから魔力共鳴が起こってさ。その時何となく僕にも使えるかもって思ったんだ。それで呪文を教わりながら唱えてみると僕にも使えたんだ。あの時はその冒険者も驚いてたよ」
「そんなイベントがあるんだね」
「うん。孤児たちの中にも冒険者になりたいっていう子が結構いるんだ。自分の憧れてる職業の冒険者が来たら自由に講習に参加できるんだ。そういえばルイはシーフの講習を受けてたよ。その時に教わった技術を今回悪用しちゃったのかもしれないね」
「冒険者の講習はよくあるイベントなの?」
「いや、滅多にないよ。冒険者を呼ぶのもお金がかかるからね。町の支援金が減ってからは一度もないし、減らされる前も年に一度くらいの頻度だったよ。冒険者の講習イベントがあっても、目当ての職業の冒険者が来てくれないこともあって、僕が教わることができた魔法使いの冒険者は結局さっき言った人だけだったよ。僕が魔法使いの冒険者に憧れるようになったのが三年ほど前だから、それ以降に孤児院に来た魔法使いの冒険者は一人だけってことだね。もっと小さい時から興味を持って教わっておけば良かったよ。そうすれば今より使える魔法の種類が増えてたかもしれないのに。今は二種類しか使えないから。初歩の魔法のファイアーボールと上位魔法のエクスプロージョンだけじゃ、使い勝手が悪いのかもしれないね。朝に加入した冒険者パーティを昼にはクビになっちゃったし」
カールが苦笑する。
「その冒険者パーティにどういう経緯で加入することになったの?」
気になったのかミーシャが質問する。
「普通に魔法使いの冒険者を募集してたよ。なんか最近、仲間の魔法使いがパーティを辞めちゃったとかで、新しい魔法使いの冒険者が欲しいって言ってた」
「そうなのね。それじゃカールが抜けちゃったから今は魔法使いがいないのよね。ねえレイン。私はよく分からないけど、魔法使いのいないパーティって何か困るの?」
僕は父が語っていた話を思い出しながら告げる。
「困るというか、一般的にはバランスの良い編成にした方がいいって言われてる、って父さんが言ってた。その方が幅広い事態に対応できるんだって。でもバランスの悪いパーティ編成でも悪いわけじゃなくて、直面する事態によってはバランス型より優れている場合もあるとも言ってた。ちなみにその冒険者たちはどんなパーティ編成なのカール」
「僕が抜けたんで今は、戦士、戦士、シーフ、僧侶の四人だね。北の洞窟の調査に向かっているはずだよ」
「戦士が二人いるんだね」
「攻撃型の戦士と守備型の戦士って言ってた」
「そうなんだ。魔法使いはいないけど、僧侶はいるからとりあえずは大丈夫じゃないかな。シーフが飛び道具も使えるはずだから近接一辺倒ってわけじゃないし。だから魔法使いがいなくても特に困らないんじゃないかな。まあ僕もパーティ編成について詳しい訳じゃないけど。カールから見て魔法使いの利点って何だと思う?」
「やっぱり最大火力が高い事じゃない? 範囲魔法が使えるのも利点だし。あと相手の魔物の弱点となる属性の攻撃ができることかな」
「なるほど。確かにそうかも。魔法使いのことは魔法使いが良く理解してるみたいだね」
「そういえばレインって冒険者としての職業は何なの?」
「僕は剣士だよ」
「剣士か。いいね」
「ちなみにミーシャは薬師の卵だよ」
僕がカールに説明すると、その内容が不服だったのかミーシャが訂正するように告げる。
「私はもう立派な薬師なんですからね」
そんなミーシャにカールは言う。
「ミーシャは冒険者じゃないって話だけど、冒険者にはならないの? 旅をするなら冒険者になってた方が色々と得だと思うけど。なっても不利益はないし」
「そうなのよね。この町の宿屋が冒険者割引ってのをしてて、私はそれを受けられなくて損してるのよ。薬師でも冒険者ってなれるのかしら」
「大丈夫だよ。冒険者になるのに職業に制限はないよ。特にこの町じゃ無職の人でも冒険者になれるし、問題ないよ。必要なのは成人してることくらいだね」
「そうなの? なら考えてみようかしら」
などと話しているうちに冒険者ギルドが見えてきた。僕たちは話をしながら冒険者ギルドへと入っていった。




