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母の病気を治すため、森に薬草を採りに行く話  作者: さまっち
第三章 ロマールの町
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8 ルイ

 無事にギルド職員に貰った袋は僕の元に戻ってきた。

 だから僕としては問題はなくなったけど、カールやマリーにとってはそうではないらしい。

「ルイには話を聞かなければなりませんね」

「そうですね。ルイは今、上の階にいるんですよね。僕も話をしたいんですけど」

 そんな会話を二人でしている。

 僕とミーシャは部外者なので後は二人に任せて帰ろうと思ったけれどカールに止められる。


「君たちももう少し付き合ってくれないか。ルイはお金を盗んだことを認めないかもしれない。その時、実際にぶつかって相手を見ている君たちがいた方が、ルイも言い逃れが出来ないと思うんだ」

 確かに僕は相手の大体の容姿や声を覚えているので、役に立つかもしれない。

 だから僕は「わかった」と返事をした。

 ミーシャにもそれでいいか確認するつもりで僕が視線を向けると、頷いてくれる。


「それじゃ、ルイと話をしに行こう」

 カールがそう宣言し、みんな移動を始める。

 マリーは足が悪いようなので杖をついて歩き始めるが、速度がゆっくりなので僕たちに先に行くように促した。

 そのことにカールも慣れていて「分かりました」と一言告げて、すたすたとマリーを置いて歩き始める。

 僕とミーシャはカールについていくだけだ。


 階段を上り二階へと進む。

 すると子供たちが生活しておりカールの存在に気が付くと、笑顔を浮かべて群がってきた。

「カールお兄ちゃんだ」

「ほんとだー」

「遊ぼ遊ぼ」

 カールはそんな子供たちに優しい目を向けて話す。


「ごめんね。今日は遊びに来たんじゃないんだ」

「ええー」

「つまんないー」

「やだー」

 子供たちが駄々をこねるがカールが優しく「また今度ね」といってなだめ始める。

 子供たちが落ち着いたところで「誰かルイの居場所は分かるかな? ルイと話がしたいんだ」とカールが切り出した。


「はいはーい」

「分かるー」

「あっちだよー。案内するー」

 どうやら子供たちがルイの場所まで案内してくれるそうだ。

 子供たちがカールの両手を左右から引っぱって連れて行こうとする。

 その時、カールの手を取り損ねた子供の一人が僕とミーシャの方を見ていった。


「カールお兄ちゃん。後ろにいるお兄ちゃんとお姉ちゃんはだあれ?」

「レインとミーシャだよ。二人は冒険者なんだ」

 正確にはミーシャは冒険者ではないけど、間違いを指摘しないでおいた。

「そうなんだー。カールお兄ちゃんと一緒だね。あ、わかった。冒険者パーティってやつだね。カールお兄ちゃんが冒険者パーティに入ったって噂を昨日聞いたよ。ほんとだったんだー」


 その言葉にカールの手を引っ張っていた二人も反応する。

「そうなんだ。おめでとー」

「おめでとー」

 キラキラした目で祝福する子供たちに対し、カールは少し困った様子で答える。

「いや、レインたちとはパーティじゃ無いんだ。今日は訳あって一緒にいるだけで。彼らとは別にパーティに入る話は確かにあったけど、それも駄目になっちゃったから今はまだソロだよ」


「ふーん、そうなんだー」

「残念だね」

「元気出してー」

「ははは」

 カールの乾いた笑いが響く。

 その後は子供たちも何かを察したのか、カールに深く事情を聞く事はなかった。

 とりあえず子供たちの案内で孤児院内を進む。

 そしてある部屋に入ったところで子供たちが中の人に声をかけた。


「ルイ。カールお兄ちゃんが呼んでるよー」

「何。カールお兄ちゃん」

 その時ルイは僕たちに背を向けていたので、何の警戒もなくこちらに振り向いた。

 間違いなくあの時、僕とぶつかった少年だと声と見た目で分かった。

 そしてルイの視線が僕を捉えた瞬間、げっ、という感じに固まった。

 そんなルイにカールは相変わらず優しい口調で話しかける。

「ルイ。ちょっと話があるんだ」


「な、何かな。カールお兄ちゃん」

 ルイの目が泳いでいる。

 そして明らかに僕の存在が気になるようで、ちらちらと僕の方を見てくる。

 こんな分かりやすい反応をされると、盗った犯人を目の前にしても怒りがあまり湧かない。

「とりあえずここは周りに人がいるから、場所を移そうか」

「う、うん」

「ついてきて、ルイ」

「わかった」


 それからカールは案内してくれた子供たちに「案内してくれてありがとう。ルイと内緒の話があるから君たちはついてこないでね」と言って追い払う。

 子供たちは「えー」「けち」「気になる」と不満を口にしながらも、渋々離れて行った。

 そしてカールが歩き出す。ルイは大人しくカールの後をついていく。

 僕とミーシャはさらにその後ろからついていった。

 いくつかの部屋を覗き、誰もいない部屋を見つける。

「この部屋を使わせてもらおう」


 部屋に入る前に、そばにいた子供に「マリーさんが来たら、この部屋で僕たちが話をしてるって伝えてくれる?」とカールが伝言を頼んでいた。

「じゃあ入ろう」

 カールが入室を促して、四人が部屋の中に入った。

 最後に部屋に入ったカールが扉を閉めて、それからルイに問いかける。

「聞きたいことはあるけど、その前に何かルイの方から話すことはあるかい?」

 カールの問いに、ルイは無言でうつむく。

 少し待っても話し始めないので、自分から白状するつもりは無いということだろうか。

 まだ自分のしたことがバレてないと思っているのか、それとも自分から白状する勇気がないだけか。


 とにかくルイは自分から話さなかった。

 カールが少し寂しげに「そっか」と漏らした後、続ける。

「ルイから話すことは特にないということだね。それじゃこちらから聞くけど……」

 そしてカールが核心的な言葉を告げる。

「ルイ。君は今日、こちらのレインとぶつかった時に、お金を盗んだよね。そのお金を孤児院への寄付ということにしたんだよね」


 その言葉を聞いたルイは雷でも打たれたようにビクッと体を震わせた。

 一度、真っ青になった顔を上げたが、すぐに全てを観念したかのようにうなだれた。

 だがまだルイの口から自分が盗んだという言葉は出ていない。

 カールもそう思ったのかルイに対してゆっくり話しかける。

「黙ってちゃ、何も分からないよ。ルイの言葉が聞きたいんだ。僕に本当のことを教えてくれるかな?」


 カールの言葉にルイが意を決して話し出す。

「僕……」

「うん」

「カールお兄ちゃんの言う通り、僕が盗んだお金を寄付としてマリーさんに渡したんだ」

「よく言えたね」

 ルイの言葉を聞いたカールは相変わらず穏やかにそう告げた。

 その時、ちょうど部屋の扉が開いてマリーが入ってきた。

 それを見たルイがまた顔面蒼白になる。


「カール。ルイとの話はどうなっていますか?」

「今ちょうど、ルイがお金を盗んだことを認めたところです」

 それを聞いたマリーはルイへと視線を向けて問いかける。

「ルイ。どうしてそのようなことをしたのですか?」

 ルイが少し逡巡した後、意を決して話し出す。


「僕、聞いたんだ。孤児院にお金が無くて、このままじゃ潰れちゃうかもしれないって。僕、孤児院に潰れてほしくなかった。それで少しでも役に立てたらと思って……」

「人のお金を盗むようになったのですね」

「はい」

 マリーは少し考え込んでから告げた。

「孤児院は私が何としてでも潰れさせませんよ」

「でも最近はもともと少なかったご飯の量もさらに減ってきて、僕の目から見てもかなり危ないんじゃないかって気がして……」


「確かにルイの言う通り、最近は金銭的に非常に厳しく、子供たちに食事も満足に提供できていないかもしれません。しかし私はここまで厳しいのは今だけ。一過性のものだと思っています。主な原因は北の洞窟で採集が出来ないことによる寄付をしてくれる人の減少ですが、これはその内冒険者が原因を取り除くことで元通りになることです。ルイもカールも知らないかもしれませんが、北の洞窟で採集が困難になる状況は今回が初めてではありません。これまでに何度かあることです。その度に冒険者たちによって問題を取り除かれました。採集が再開すると寄付金の減少が元に戻ることも経験上分かっています。だから今は苦しくても私はそれほど悲観していないのです」


「それじゃ孤児院は無くならないんですか?」

「無くなりません」

 それを聞いたルイは少し安心した表情を浮かべる。

「もしかして僕がしたことは余計だったのでしょうか?」

 その言葉に答えたのはカールだった。


「余計なんてものじゃないよ。ルイがしたことは孤児院にとっても非常に危険なことなんだ。いいかいルイ。孤児院の子供が町の人からお金を盗んだなんて話が広まったらどうなると思う? 町の人から不信感を持たれてしまうだろう。悪感情を持ってる対象に寄付をしようなんて普通は思わない。だから町の人からの寄付が減ってしまうんだ。ルイがお金を孤児院のために盗んでも、長い目で見たら逆の効果しか無いんだ」

「そんな……、僕そんなつもりじゃ」

「悪気がなくても、最悪の結果が出ることもあるんだ、ルイ」


 カールの言葉を聞いてルイはうなだれた。

 その様子を見ながらカールが告げる。

「マリーさん。カールには罰を与えなければなりませんね」

「そうですね。町の人に迷惑をかけたのです。何か町の人への奉仕活動を与えるのが良いかもしれません。具体的なことは考えておきます。それに今回のことを町の人たちに公表するのか。するとしたらいつ、どのようにするのか、を考えないといけませんね。忙しい日々が続きそうです」


「ごめんなさい、マリーさん」

「ルイ。私に謝るのは間違っています。あなたがまず謝るべきなのは別の人でしょう。分かりますね」

 マリーの言葉を聞いたルイは僕に向けて頭を下げた。

「ごめんなさい」

「まあ僕の盗られたものは返ってきたんで、問題ないかな。君を許すよ」

「ありがとう」


 その後、カールが「ルイ。今後は一切、町の人からお金を盗まないと誓える?」

「うん。誓うよ、僕」

「そっか。それならいい。今、出来る話し合いはこれくらいかな。マリーさん他に何かありますか?」

 マリーが首を振ってこれ以上、言うことが無いことを示す。

「じゃあ、ルイ。もう下がっていいよ。お疲れ様」

 ルイは最後に会釈をしてから部屋を出て行った。


 残った人たちを一度見回してカールが言う。

「マリーさんもお疲れ様でした。最近のマリーさんはお忙しいのに、問題が起こってさらに仕事が増えてしまって、お体が心配です」

「そうですね。確かに忙しいですが、問題が起こった以上無視することは出来ません。私や孤児院の運営を手助けしてくれる職員たちで再発防止のために話し合う必要もあるでしょう」

「お仕事は沢山あるでしょうけれど。程々になさってください」


「あまり周りが心配しないよう配慮はしましょう。それでは私も部屋に戻ります」

 マリーは最後に僕とミーシャに向かって言う。

「今回はルイがお二人に迷惑をかけてしまって本当に申し訳ありません」

「いえ、本当に大丈夫ですから」

「それでは失礼します」

 そういってマリーもゆっくりと歩いて部屋を出て行った。

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