2 冒険者ギルド
翌日。宿のベッドで目を覚ました僕は、まだ眠るミーシャを起こさないよう静かに部屋を出て、宿の外へ向かう。
早朝の鍛錬をするためだ。外に出る途中、宿の人とすれ違ったので「おはようございます」と挨拶して外に出た。
僕は周りの人の邪魔にならない場所を確保して筋力トレーニング。腕立て伏せをしたり、腹筋、背筋のトレーニングをする。
それが終わると持ってきた剣の素振りだ。剣を鞘から抜いて、しっかりと手に持ち、振り下ろす。僕がしばらく鍛錬に集中していると、ミーシャが起きて出てきた。
寝る時の服じゃなく昨日の昼間の服に戻っている。僕がいない内に着替えたのだろう。
ミーシャは宿の入口の前で一度「んーっ」と伸びをして、周辺に目を向ける。
すぐに僕を発見し、近くまでゆっくり歩いてから声をかけてきた。
「いい天気ね」
空には雲一つない青空が広がっている。
「そうだね。気持ちの良い朝だね」
「レインは朝の鍛錬かな」
「うん」
「見てていい?」
「いいよ。面白いものじゃないけど」
「ありがとう」
ミーシャが地面に腰を下ろして楽な姿勢を取った。僕はミーシャに見られながら剣の素振りを続ける。
近くで人に見られてると思うと、少し緊張感を感じる。それから何分くらい続けたか分からないが、僕が一通りの型の素振りを終えると剣を下ろした。剣を鞘に戻す。
「お疲れ様」
ミーシャがそう声をかけてくれる。
「ありがとう。でも見ててもそんなに面白くなかったんじゃない?」
「ううん。そんなことない。それにかっこよかったよ」
「そうかな。へへ……」
僕は嬉しくて照れてしまう。女の子にかっこいいと言われて純粋に嬉しい。デレデレしちゃう。
「ふふ」
そんな僕を見ながらミーシャは優しく微笑んだ。
「魔法の練習もするの?」
「それは止めておくよ」
村にいた頃は、決まった木に向かってウインドカッターを打ちまくってたけど、さすがに別の町に来てまでそれをやると、迷惑な冒険者のレッテルを貼られてしまうかも。
村では怒られなかったけど、この町でもそうだとは言い切れない。
「朝の鍛錬は終わったから一度部屋に戻ろう。朝ご飯を食べ終わったら冒険者ギルドに行ってみようよ」
「そうね」
僕たちは宿の部屋に戻り、朝食で出たパンとスープを食べてから、冒険者ギルドに向かう準備を行った。
荷物は持っていくか置いていくか迷ったが、心配なので持っていく。バックパックを背負って準備完了。
「それじゃ出発しよう」
僕が宣言すると、ミーシャも好奇心にあふれた表情を浮かべる。
「冒険者ギルドってどんなところなんだろうね。楽しみだね」
僕らは宿を出て冒険者ギルドがある方へと歩き始める。ちなみに冒険者ギルドのある場所は、宿の人に聞いて教えてもらった。
ここから北の方に歩いて行った場所にある比較的新しい建物らしい。
他の建物より綺麗な外観をしているとのことだった。
というのも数年前に新しく建て替えられたらしい。
宿の人が「それだけ儲かっているのかしらね」と話していた。
しばらく歩くとそれらしい建物が見えてきた。
「あそこじゃないかな」
僕がその建物を指さすと、ミーシャも「そうね」といって頷く。
僕たちがその建物の入口まで来た時、ちょうど中からぞろぞろと人が出てきた。
冒険者のパーティーだろうか。僕たちは彼らの進行の邪魔にならないように脇に退いた。
「おい、新入り。道案内は頼んだぞ」
そう言ったのは大剣を背に担いだ、頬に傷のある大男だった。大剣を獲物に選んでいるだけあって筋骨隆々な体をしている。パワー系の戦士といったところか。
「は、はい。任せてください」
こちらは若い少年だった。僕やミーシャと同年代くらいに見える。
結構、線の細い体をしているので前衛ではないだろう。
新入りと大男が呼んでいたから、ただの道案内ではなく彼もまた冒険者だと思われる。
魔法使いか僧侶か。何らかの後衛職についているのだろう。話をしていたのは彼らだけだったが、その後ろにさらに男性が二人と女性が一人続いていた。
僕は冒険者を田舎者丸出しで、じろじろ見ていたが、彼らの方はそんな僕のことを気にかけることもなく去っていった。
「やっぱり冒険者ってカッコいいな」
「もう、レインったら、そればっかり」
僕は去っていく冒険者の後姿を憧れを抱いて眺めていたが、ミーシャに「早く中に入りましょ」と言われ、我に返った。
とりあえず入口を通って冒険者ギルドの中に入る。
部屋の奥にギルド職員と思われる女性がカウンター越しに座っていた。
部屋中を見回しても他に人は見当たらない。
ギルド職員の女性が入ってきた僕たちに気付き、顔を上げて微笑んだ。
僕たちはそのまま真っすぐギルド職員の前まで進み、ドキドキしながら声をかけた。
「あの、僕、冒険者なんですけど。今日初めて冒険者ギルドに来たから、その色々とよく分かってなくて。とりあえずクエストを受けてみたいんですけど、どうしたらいいですか?」
「クエストですね。それならあちらの壁に依頼内容を書いた羊皮紙が張り出されていますので確認してみてください。とはいえこの町ではあまり依頼の種類は多くありませんが。何か受けたいものがあれば、私に言ってくださいね」
僕は早速、説明された壁の前まで移動して、依頼内容を確認した。
依頼は全部で5種類だけだ。採集クエストが3つに討伐クエストが1つ。最後の1つが緊急クエストとあった。
とりあえず採集クエストの内容から見ていく。
どうやら採集場所によってクエストが分かれているようだ。
まずは西の草原地帯での薬草の採集。
次に南の湖周辺での薬草の採集。もう一つが北の洞窟内での鉱石の採集だ。
それぞれの場所で採れる薬草や鉱石などが色々と羊皮紙に書かれている。
最初はやはり薬草の採集だろうか。
薬草の事ならミーシャに教わりながら採集する事が出来る。
それに草原や湖周辺なら朝や昼に採集に向かえば危険も少ないだろう。洞窟内に入るのは少し怖いなという心理が働いてしまう。
なので北の洞窟内は今回はパスだ。
そこまで考えて他の二つのクエストにも一応目を通そうと羊皮紙を覗き込む。
討伐クエストの方は町周辺に現れた魔物を何でもいいから駆除して、それぞれに指定された体の一部を持ち帰ると報酬を得られるみたい。
このクエストの特徴はわざわざ最初に引き受けなくても、いつでも魔物を駆除して、体の一部を持ち帰ればいいみたいだ。
一応覚えておこう。そして最後の緊急クエストと書かれた依頼に目を通す。
どうやら調査系のクエストのようだ。北の洞窟内にて、魔物が活性化中、調査を求む、と書いてある。
北の洞窟は鉱石の採集のクエストがある場所だ。
魔物活性化中とのことだが、やはり北の洞窟は避けて正解のようだ。
一通りのクエスト内容を見終わり、僕は受けるクエストを一つに絞った。一応、ミーシャとも相談する。
「ねぇ、ミーシャ。僕、このクエストを受けようと思うんだけど」
「最初だし、それでいいんじゃない」
僕の冒険者としての初クエストは西の草原地帯での薬草の採集に決めた。
僕はギルド職員の前に戻り、受けたいクエストの内容を告げる。
「あの、西の草原地帯の採集のクエストを受けたいんですけど」
「草原地帯の採集クエストですね。かしこまりました。それではこちらに署名と冒険者ギルドカード番号をお書きください」
「わかりました」
僕は自分の名前を署名した後、カバンから取り出した冒険者ギルドカードを見ながら、番号を記入した。
「これでいいですか?」
「はい。大丈夫です。そちらのお嬢さんも同じクエストを受けますか?」
ギルド職員がミーシャを見ながら尋ねる。
「あ、いえ。彼女は冒険者ではないんです。ただの僕の付き添いで」
「なるほど。ではこのクエストのさらに詳しい情報をお聞きになりますか?」
「お願いします」
それから採れる薬草の種類やその特徴を見本の薬草を見ながら教わったり、報酬についての具体的な話を聞いた。
どの薬草をどれくらい採ったらいくらになる、という話だ。
僕はどの話も興味深く耳を傾けた。
今まさに自分は冒険者として活動しているんだという実感が湧いていた。
ギルド職員の話がひと段落すると「何か質問はありますか?」と聞いてきた。
僕は「ありません。大丈夫です」と力強く答えた。
そう答えたのは別に話を全部覚えたからではなく、薬草のことならミーシャに聞けばいいやと考えていたからだ。
報酬についてはミーシャの知識でもこの町の相場は分からないかもしれないが、大体の価値なら分かるだろう。
ということで薬草のことならミーシャにおまかせだ。
僕はちょっとずつ覚えていけばいいだろう。
「採集した薬草を入れる袋はお持ちですか?」
「いえ、持ってません」
「では少しお待ちください」
ギルド職員が席を外し、部屋の奥に引っ込んだ。帰ってきた時には大きな麻袋を手にしていて、それを僕に差し出した。
「こちらをお使いください」
「ありがとうございます」
僕は礼を言って麻袋を受け取り、手にしたそれに目を向ける。
大きな麻袋でこれなら沢山薬草を入れられそうだ。
「クエストの説明は以上になります。無事の帰還をお待ちしております」
そう言って、ギルド職員は話を終わらせた。僕は会釈をしてその場から離れ、冒険者ギルドから出た。




