1 ロマールの町
朝からシルド村を出発した僕とミーシャは、大草原を歩き、夕方になってロマールの町に到着した。
僕の予定ではもう少し早く到着するはずだったが、途中で何度もミーシャが珍しい薬草を発見し採集を行ったので、遅くなってしまった。
「やっと着いたー。ここがロマールの町なんだね」
僕が町の入口で、周囲を見回しながら呟くと、すぐ後ろのミーシャも嬉しそうに続ける。
「私、シルド村以外のところに来たのは初めて。なんだかワクワクするね」
僕は「うんうん」と頷く。やはり初めての場所は良い。どんな出会いが待つのかと期待してしまう。
だがいつまでも町の入口で立ち尽くす訳にもいかない。
僕はゆっくりと歩き始めて、町へと入る。
「ねえ、レイン。これからまずはどうするの?」
ミーシャが僕の後ろを歩きながら尋ねてくる。
「まずは宿の確保をしないと。冒険者ギルドにも行ってみたいけど、それはもう明日かな」
「そうね。もう夕方だし。それに私もう足が疲れちゃった。早く宿で休みたい」
「じゃあ、とりあえず宿の場所を町の人に聞いてみようよ」
僕らは近くを歩いていた一人の男性に「少し聞きたいんですけど」と声をかけて、宿の場所を聞いた。
「あー、それなら……」
男性は快く答えてくれて、僕たちは「ありがとうございます」とお礼をいってから、教えられた方へと歩き始めた。
町並みに目を向けながらミーシャと二人で歩く。
「やっぱり町っていうだけあって、僕たちの村と比べてだいぶ町並みに違いがあるみたいだね。どの建物も僕たちの村の民家より立派に見えちゃう」
僕がミーシャに話しかけると、ミーシャも頷いた。
「そうね。それに町の人が着てる服も少し良い物みたい」
確かに、ミーシャの言う通りだ。
目に映る範囲の人々を見るだけでも、衣服の品質が上がっているのが分かる。
僕らの村では結構ボロボロで薄汚い衣服を身に纏う人が、大人でもいたけれど、この町ではそういった人は今のところ見かけない。
華やかまではいかないけれど、みな清潔感のある恰好をしていた。
などと思っていたが、ミーシャがぼろい恰好をした子供を見つけた。
「ねえ、レイン。あの子を見て。あの子は何だか私たちの村と同じような感じの恰好ね」
確かに僕たちの村の子供はほとんどが、ぼろい服を着ていたからミーシャの言うことは間違っていない。
しかしその子は僕たちの村の子供とは違う特徴も持っていた。
「随分、痩せてるみたいだけど、貧しい家の子なのかな」
僕の呟きに、ミーシャが「そうかも」と返す。
ちなみに僕たちの村は基本的に自給自足をしていて、食料に困ることはほとんどなかった。
酷い不作の年もあるにはあったが、そんなのは数えるほどしかなかった。
村には痩せ細った子供なんて一人もいなかった。
だからその痩せた子供を見た時に、少しショックを受けた心持ちだった。
だからといって僕に出来ることもなく、そのまま通り過ぎた。
しばらく町並みや町の人を眺めながら歩き続けると、冒険者らしき男性を見かけた。
前方を同じ方向へと歩いていて、彼の背中越しに普通の人ではない感が出ていた。
「ねえ、ミーシャ。あの人、帯剣してるし冒険者じゃない? 凄いなー。あんなに太い腕してるし、前衛職の人だね、きっと。かっこいいなー」
僕が目を輝かせて言うと、ミーシャもどこか興奮気味に、
「本当ね。町では普通に冒険者が居たりするのね」
「そりゃ冒険者ギルドがあるくらいだからね」
「私たちの村に冒険者が来ることなんてほとんどなかったから、新鮮な感じね」
「そうだね」
僕らの村は辺鄙な田舎村過ぎて、確かに冒険者が寄ることはほとんどなかった。
極稀に世界中を回っているような旅人みたいな冒険者が訪れるくらいだった。
まあその中の一人が僕の父でもあるのだけど。
僕たちがその冒険者の方を見ながら歩いていると、彼は前方の建物の中に入っていった。
入口のそばに立て看板が立ててあるのが見える。
「ねえ、レイン。さっきの人、町に住んでる普通の人って感じはしなかったし。もしかして宿かもしれないわよ」
「町に住んでる冒険者って可能性もあるけど。とりあえず建物の前まで行って、あの立て看板の内容を見てみよう」
建物の前まで歩き、僕らは立て看板を覗き込んだ。そこには一泊の宿泊料金などが書いてあった。
「宿みたいだね」
「やった。やっと休める。もうへとへと。足が疲れたわ、私」
ミーシャが安心した表情を浮かべて、胸を撫でおろす。
「なんか冒険者割引ってのがあるみたいだよ、ミーシャ」
「えー、ずるーい。私は割引を受けられないじゃない。レインだけ、ずるい」
「ずるいって言われても……」
ずるいずるいと連呼するミーシャを「仕方ないじゃん」と宥めつつ、僕は「とりあえず入ろう」といってミーシャと共に、建物内に入る。すると正面に宿の受付の人がいて僕は声をかけた。
「宿に泊まりたいんですけど」
僕が声をかけると受付の女性が愛想よく、何泊の予定か、何人か、食事をどうするか、などを聞いてくる。
ミーシャと相談しながら質問に一つ一つ答え、その後お金を支払うと、部屋へと案内された。
部屋の隅にベッドが二つ設置されている。どうやら二人部屋のようだ。
「やっと座れるー」
早速ミーシャが背負っているバックパックを床に置いて、手前のベッドに腰を下ろす。
そしてベッドの品質を調べるように、手で触れたり、体重をかけたりしていた。
そんなミーシャの様子を眺めながら僕も部屋の隅にバックパックを置き、奥側のベッドに腰を下ろした。
「ゆっくり休めそうなベッドね」
ミーシャの品定めが終わったのか、そんな感想を漏らした。
「ねえ、ミーシャ。明日からの事なんだけど」
「なーに」
「明日はとりあえず冒険者ギルドに行って、何かいいクエストでもあったらそれを受けてみたいと思うんだけど。その間、ミーシャはどうする? 一緒に行く?」
「うーん。そうね。一緒に行くわ。ここで待つのも特にすることなくて退屈だし、それに私も冒険者ギルドを見てみたい。それとレインはどんなクエストを受けるつもりなの? 私が邪魔になるようなクエストなら大人しく待ってるけど」
「多分、最初だから採集クエストを受けるんじゃないかな」
「それなら私もお手伝い出来そうね。薬草の知識とかだったら私も役に立てるよ。任せて」
その後、しばらくして食事が運び込まれてきたので、二人で感想を言い合いながら食べた。
ちなみに食事は朝夕だけ宿の人にお願いしている。お昼は町の中で店を探して食べようと思っている。
食事が終わり、何もすることがなくなり、冒険者ギルドはどんな所だろうと二人で話し合っていると、ミーシャの口から欠伸が漏れた。
「眠い?」
僕が聞くとミーシャは頷いて、
「うん、ちょっと」
「もう、寝る?」
「そうね。私、今日は疲れちゃったみたい」
「沢山歩いたからね」
僕が理解を示すと、ミーシャは扉の方を指さして告げた。
「ちょっとレイン、私がいいって言うまで部屋の外で待ってて」
言われた僕はそうしないといけない理由が分からなくて、「どうして?」と馬鹿なことを聞いてしまう。
「着替えるからよ。早く出てって。それともレインは私が着替えるところを見たいのかな」
「すぐに出ます」
僕は大慌てで部屋から飛び出した。心臓がドキドキしている。その鼓動は急いで部屋から出たからなのか、それ以外の何かなのか僕には分からなかった。




