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34 建国祭1

 私がどれだけ思い悩んでいた所で、時間はあっという間に過ぎ去っていくもので、とうとう建国祭の日を迎えてしまった。


 午前中は王城で開かれる式典に参加しなくてはならず、この数日はその為の衣装合わせに追われていたのだ。お母様とアンナを始めとした侍女達があれやこれやと私に着せたがるものだから、私は完全に着せ替え人形と化していた気もするのだけれども。


 そんな苦労を重ねて、ようやく決まったドレスは、アルテュールと色とデザインを合わせた明るいライムイエローの華やかなドレスだ。リボンよりもレースを多めに使用した甘くなりすぎないデザインで、パニエによってふんわりと広がる裾がいっそう美しく見せている。


 一方のアルテュールは、少し深みのあるライムグリーンの礼服だ。王族として参加する式典という事もあり、胸元に付けられた騎士団長時代の勲章の数々がとても目を引くのだけれど、本当にこういうきっちりとした礼服姿をしていると、整った顔立ちと逞しい体格がより際立っていつもよりも増して素敵に見えるのだからずるいと思う。


 そんな装いに身を包んだ私達は、式典の開始までにと用意された貴賓室でじっとその時を待っていたのだけれど、どうしても視線は彼の姿を追ってしまう。


「うん?どうしたんだ、ポーラ。そんなにじっと見詰めて」


 私の視線に気付いたアルテュールが、きょとんとした不思議そうな顔で私を見下ろすものだから、自然と笑みが溢れてしまう。きりっとした真剣な表情はもちろん素敵なのだけれど、遠くから見ているだけだった頃には見られなかったこういうどこか気を許した表情は、それだけで愛おしく感じるものなのだ。


 だからこそ、彼がまた戦争に行ってしまうような事態には絶対にさせられないとも改めて思わされる。


 そんな思いはぐっと胸の奥に押し込んで、私は何でもない顔をして笑みを浮かべた。


「そういう格好をしていると、やっぱりあなたは王族らしく見えると思ったのよ。でも騎士服姿も素敵だったし、顔が整っていると結局なんでも着こなしてしまうのよね。どんな格好でも見惚れてしまうんだもの」

「見惚……そ、そうか……」


 口元を手で覆いながら、少しだけ視線を逸らした彼の頬はほんのりと赤く染まっている。


 アルテュールは出会った頃から顔が整った美青年だったし、こんな褒め言葉には慣れたものだと思うのだけれど、容姿を褒めると大概照れた様子になるのはなんだか可愛らしくもある。


 照れているのを誤魔化すように、こほんと一つ咳払いをした彼は、私へと気遣わしげな視線を向けた。


「俺の事よりもポーラ、君の事だ。最近何か思い悩んでいるのではないか?明るく振る舞っていても、時折沈んだ表情をしていると、俺だけでなくオランジュ公爵家の皆が心配している」

「そ、れは……その、式典に参加する準備がいつもよりも忙しかったから、疲れていただけよ」


 実際、準備で疲れていたのは本当の事だ。王城で開かれる建国祭の式典は、伯爵以上の高位貴族の殆どが招待されているのだけれど、成人前の子息子女はその限りではない。


 王太子であるシモンも、これまでは成人していなかったものだから、式典には参加していても何か特別な役目がある訳でもなかった。だからこそ私達はいつも式典では端の方にいて、その後のお忍びで街の出店を回る計画ばかり立てていたのだ。


 ただ今回の私の立場は未来の大公妃としてだ。席だって今までみたいに端の方にいる訳にもいかず、前方の貴賓席が用意されていたし、任されている役目もある。


 今までみたいにただ楽しく参加していればいい、という訳にもいかないものだから、ドレスは今まで以上に気をつかうし、装身具もアルテュールが用意してくれた豪華なものだ。


 他にも式典の予行練習があったり、当日の入退場の確認だったりと、思っていたよりもやる事がたくさんあって、それを思い出せばまた一つ溜息が漏れた。


「式典が始まる前からたくさんやる事があるのだから、王族って想像以上に大変だわ」

「建国祭は一番重要な式典だから、こればかりは仕方ないな。他の催しはここまで大変ではないぞ」

「そうである事を願うわ……」


 建国祭は、ブラーヴ王国が建国した日、つまり初代国王陛下がこの地に蔓延っていた魔物を討ち果たした日を祝うのと同時に、初代国王陛下の御霊を供養する日とされている。


 初代国王陛下は類稀な武力の才と特別なスキルに恵まれ、生き残った魔物達は彼の力を恐れて現在のように森の奥深くへと逃げていったのだという。


 遥か昔の事で肖像画などは残っていないものの、彼の子孫である国王陛下、アルテュールとシモンの姿を見れば、整った顔立ちだったのだろうという事は容易に想像できる。


 伝承によれば、彼は楽しい事を好む方だったようで、そんな彼の御霊を慰める為にも、人々はこの日に歌い騒ぎ、魔物の脅威から救ってくれた彼に感謝を捧げ続けているという訳なのだ。


 その為、式典では国王陛下の御言葉の後、この日の為に作成された剣を捧げ、それを使用した剣舞が奉納される。これは毎年騎士団から選ばれた優秀な騎士が行うのだけれど、今年はアルテュールが行う事になっている。


 それというのも、剣舞に使用する剣を渡す役目がいつもなら王妃様が行われる所を、今回は私が担う事になった為だ。もともとこの役目は王女様がいらっしゃればその方がされるものだった為、私へと回ってきたとも言えるものだ。


 なにせ特に演説する必要はなく、捧げられた剣を恭しく持って剣舞を行う騎士へと手渡すだけなのだから、幼い王女様でも立派に務められるような御役目だ。これなら私でも出来る筈だと思い、承諾はしたのだけれど、いざその時が近付いてくると緊張はする。


 これさえ終われば、後は大人しく席に座っていればいいのだから頑張ろうと自分を鼓舞していた所で、コンコンと部屋の扉がノックされた。


「アルテュール大公殿下、ならびにポーラ妃殿下。そろそろお時間になりますのでご案内致します」


 頭を下げる侍従に頷き、私達は彼の後について足を進める。式典という事で、会場となっているのは王城の一角にある大聖堂だ。


 ここは王族が挙式を挙げる時に使用される他、今回のような式典にも使用される。その地下には王族のみが行く事ができる霊廟があり、歴代の王族が静かに眠っているそうなのだけれど、当然ながら実際に見た事はないから本当かどうかは定かではない。


 大聖堂は回廊を抜けた先にあり、既に招待された貴族達は中に入っているからか、回廊自体は静かなものだ。こつこつと靴音が響く中、角を曲がった所で丁度出くわした人影に私も相手も目を丸くする。


「シモン!?」

「ポーラ!?」


 ほぼ同時にお互いの名前を言った私とシモンは、驚きながらもそのあまりのタイミングの良さが可笑しくて、思わず二人共に噴き出してしまった。


「ふはっ……ははは!何その顔。相変わらず間抜け面なんだから」

「悪かったわね、どうせ間抜けな顔よ!」


 良かった、いつも通りだ。


 今までと変わらない態度をとってくれるシモンに、私は笑いながらも少しだけ目元が潤んでしまう。


 セレストのお茶会では結局直接顔を見て話せていなかったから、今日はどんな顔をしたらいいのかと思っていたけれど、変わらずに友達として接してくれるシモンが泣きたいくらいに嬉しかった。


 じわじわと目元から涙が溢れそうになるけれど、泣いたらせっかく綺麗にしてもらったお化粧が台無しになってしまう。ぐっと堪えていれば、隣にいたアルテュールが優しく肩に力を込めてくれているのが解る。


 見上げた彼の目元は、優しく細められていて、それにも余計泣きそうになってしまえば、私の目元に軽くハンカチが当てられた。


「ほら、式典前になんて顔してるの。泣き虫ポーラ」


 そう言うシモンだって、少しだけ目元が潤んでいる。私は彼からハンカチを受け取ると、ぎゅうっとそれを握り締めた。


「だって……!これはシモンもアルテュールも悪いのよ……!」

「僕のせいにしないでよね。全部叔父上のせいでしょ」

「おい、なんで俺のせいになるんだ」

「言っておきますけど、ポーラが泣くのは大概叔父上絡みなんですからね。次泣かせたら、父上から聞いた叔父上の恥ずかしい話を言いますから」

「待て、俺の恥ずかしい話とは何の事だ!?」

「今言ってしまっていいんですか?叔父上がまだ幼い頃――」


 二人のやり取りはなんだか可笑しくて、私はくすりと笑みを漏らす。涙はまだすこしだけ滲むけれど、式典前の緊張感はすっかり消えてしまっているみたいだった。






読んでくださってありがとうございます!


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