28 気の進まないパーティー
「セレスト王女殿下主催のパーティー?それに参加するの?私とあなたが?」
それはお父様、お母様、お兄様との家族全員揃った夕食も終わり、あれから毎日続けているアルテュールとの寝る前の触れ合いの時間での事だった。
何故よりによってセレスト王女殿下主催のパーティーなのかと疑問符ばかりが浮かぶ中、アルテュールは少しだけ溜息を漏らした。
彼は今日、国王陛下と面会してきたのだけれど、この浮かない表情を見る限り、これはどうやら訳有りみたいだ。
それでも、セレスト王女殿下とは何もなかったというのは理解しているけれど、彼が初めてエスコートした存在だというのがどうしても私の中で彼女を苦手だと認識してしまっているらしく、彼の口から彼女の名前を聞くのは複雑な思いがどうしても込み上げてしまう。
私の微妙な表情を見たアルテュールは、本当に申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「君の気が進まないのはよく解る。だがこれは、王命みたいなものなんだ」
「あぁ、なるほど。もう参加するのは決まっている事なのね……」
きっとそのパーティーには参加しなくてはならない何らかの理由があって、国王陛下にお願いされたのだろう。どうしても避けられない事なら、後はもう私の覚悟だけという事なのだ。
ふぅと私は一つ溜息を漏らすと、ぎゅっと拳を握り締めた。
「……解ったわ。それならうんと素敵なドレスを用意しないといけないわね!勿論あなたもよ!」
「うん?俺もなのか?」
きょとんとした表情をしているアルテュールは、いつもよりも幼く見えるのがどうにも可愛らしくて、私は堪らず小さく呻き声を漏らしてしまう。
体はがっしりとして逞しいし、騎士団で稽古をつけている時なんて本当に格好いいものだから、こういう素の表情との差で余計に可愛らしく感じてしまうのかもしれない。
そんな気持ちを誤魔化すように、私はこほんと咳払いをすると、私を膝に抱える彼をじっと見詰めた。
「いい?あなたが私に公開プロポーズをした事で、あなたとセレスト王女殿下との噂はほぼ無くなったわ。でも、一度出た噂はささいなきっかけで再燃するものなのよ。だからそんな事も考えられないくらい、私とあなたが仲良しだって事をアピールする必要があるの!」
実際、噂があった王女殿下のパーティーに、アルテュールと婚約者である私が参加するとなれば、人々はこの三角関係を面白おかしく噂する可能性は高い。
それに、正式に婚約しているとはいえ、私とアルテュールは今はお互いに信頼関係を築いていく途中の友達関係だ。そんな大切な時期を、変な噂で台無しにされたくはない。
そうならない為にどうすればいいのか。
それは私とアルテュールが、セレスト王女殿下の入り込む隙がない程に仲が良く、幸せそうな様子を見せつけるというのが一番効果的だろう。
「だから私とあなたの服は、色味を合わせたものが一番だと思うの。お互いの髪や瞳の色を取り入れるのもいいわね。それだとあなたが贈ってくれた夜空色のドレスは理想的なのだけれど、あれはプロポーズの時に既に着ているし、季節的に明るい色合いのものがいいんじゃないかしら」
「成程……君に似合うドレスなら何通りも思い付くんだが、自分のものはあまり深く考えた事がなかったな。確かにお互いに色味を合わせるというのは良いと思う」
真剣な表情で頷いてくれる彼に、私もこくりと頷き返す。頷くと揺れる彼のルビーレッドの髪を眺めながら、想像するのはその鮮やかな色のドレスだ。私のシルバーブロンドを思わせる銀糸で刺繍を施せばきっと素敵だろう。
ただ、彼の鮮やかな髪は黒などの暗めな色の方が圧倒的に似合うのだ。色味を合わせるのなら、もう少し色味を抑えた赤になるだろうか。
そんな事を考えていた所で、肝心のパーティーの日にちをまだ聞いていなかった事に気付く。日にちが先なら、イリスの街の仕立て屋に頼んだほうが、領地の人々の為にもなるのだけれども。
「そういえばパーティーはいつなの?先の話なら、アスター領に戻ってから依頼したいわ」
「それが……10日後なんだ」
「10日後!?そんなにすぐだなんて、今から依頼しても間に合わないわ……」
既製品を買うか、手持ちのものでどうにかするしかないのだろうかと少し気落ちした私の手に、彼の手がそっと重ねられる。
私が顔をあげれば、彼の瞳は眩しそうに細められた。
「心配するな、ポーラ。俺がいつも頼んでいる仕立て屋なら、採寸しなくても俺と君のサイズは把握しているし、10日もあれば十分最高のものを仕立ててくれる」
「本当!?それならあなたにお願いしても大丈夫かしら?」
王家御用達の仕立て屋がどうして私のサイズまで把握しているのかは引っかかるものの、そんな短期間で仕上がるのなら願ってもない事だ。
私がそう言えば、彼はなんだかとても嬉しそうにこくこくと頷くと、蕩けるような笑顔を浮かべるものだから、私の心臓は否応無しに鼓動が速くなってしまう。
「あぁ、任せてくれ。君の美しさを最高に引きたててくれるドレスを依頼しておこう」
「私のドレスだけではなくて、揃いであなたのものも仕立ててもらうのを忘れないでちょうだいね」
これでひとまずはパーティーへの備えは大丈夫だろうとホッと息をついた所で、気になるのはパーティーに参加する理由だ。
セレスト王女殿下はカラン王国の友好使節団を率いて滞在しているのだから、参加するのは友好国の王族として当然の義務だからなのだろうか。それにしても王命のようなものというのだから、他に理由があるような気がしてならない。
そもそも王都に来たのは国王陛下から内密の話があるというのだから、きっとこれはそれに関わったものなのだろう。
理由を私が聞いた所で、機密事項ならアルテュールを困らせてしまうだけだ。そう思ったのだけれど、彼は私の頬を優しく撫でながらぽつりと呟いた。
「……兄上の許可が出たから、君にも伝えておかなくてはならないんだが、今回のパーティーに参加する目的はセレスト王女と内通している我が国の者を探る事にある」
「えっ!?」
内通だなんてどうにも穏やかではない話なものだから、私は驚いて目を丸くしてしまう。しかも国王陛下の許可が出ているとは思わず、二重の驚きだ。
「カラン王国とは友好関係にあるから、親しくするのは構わないんだが、こちらの情報を徒に流出させるというのは問題なんだ。しかもそれが王族個人の情報であれば尚更な」
「王族の個人情報……それが、セレスト王女殿下に知られてしまっているという事?」
「あぁ、その通りだ。ポーラは彼女が我が国にやってきた目的はなんだと思う?」
その問いかけに、私の脳裏にまず浮かんできたのは忘れたくても忘れられないアルテュールとセレスト王女殿下の婚姻の噂だ。国同士の結束を固めるという意味では、王族同士の結婚という手は古くから行われてきた事なのだから。
でもカラン王国とは以前から同盟関係にあるのだし、今更王女殿下を嫁がせなくてもいいような気もするのだけれども。
「うーん……やっぱり王族の誰かとの結婚なのかしら?でも政略結婚なんてしなくても、カラン王国とはずっと友好関係が続いているのだし、今更な気もするのよ」
「だが、カラン王国に何らかの問題が起きていて、結婚によって我が国との関係を強めておきたいのだとすればどうだろう。何せカラン王国も、あのアリストロシュ帝国と隣り合っているのだからな」
「あっ……!」
その言葉に私はハッとして顔をあげる。
アリストロシュ帝国とは幾度も戦争を繰り返してきた間柄だ。それはカラン王国も同じなのだけれど、国力としてはカラン王国はこのブラーヴ王国よりも小さい。
だからこそカラン王国は、結婚によってこちらと更に強固な絆を結び、アリストロシュ帝国の脅威に備えようとしているのだろうか。
「え……まさか、また戦争が起きるというの?」
ひとたび戦争が起きてしまえば、民の生活は危険に晒されるし、戦争に出向くのは騎士達だ。
アルテュールは騎士団長を辞してはいるけれど、国同士のの戦争となれば、士気を高める意味で王族が先頭に立つ必要がある。それが出来るのは、今の王族の中ではアルテュールだけだろう。
そう頭では理解していても、もし彼がまた戦場に行かなくてはならないと考えてしまえば、私の顔色はさっと青褪めてしまう。
それに気付いたアルテュールは、私をぎゅっと抱き締めてくれた。そうすると彼の規則的な心臓の音が伝わってきて、少しだけ落ち着ける気がした。
「まだ推測の段階だから心配しなくていい。出来るだけ戦争にはならないように、兄上も考えられているから。とりあえずはセレスト王女について探る、というのが目的だな」
「解ったわ。私も出来る事はしてみるわね!」
ぎゅっと拳を握り締めた私を愛おしげに見下ろした彼だったけれど、少し逡巡した後、真剣な表情でそっと口を開いた。
「……実は本来、このパーティーでセレスト王女は俺にエスコートを依頼してきたんだ。俺には君がいるから勿論断ったんだが、代わりに全ての事情を知った上で、エスコートはシモンがする事になった」
「えっ……」
その言葉に、私の心はなんとも言えない不安な気持ちでいっぱいになってしまうのだった。
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次回の更新は月曜日です。




