表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/50

閑話 すり抜けた愛しい君

 ポーラは風のように自由で、奔放で、いつだって僕は彼女を追いかける事に必死だった。


「アルテュール様!!」

「え?は?えっ!?ポーラ!?」


 叔父上がポーラの事をずっと想っていたのを知った彼女の表情は、みるみるうちに元気を取り戻し、頬は薔薇色に染まっていた。


 その表情を見た時、僕は叔父上には敵わない事が嫌でも解ってしまったのだ。


 がばりと身を起こした彼女は、窓から上半身を大きく乗り出す。そうして何が起こっているのか解らずにぽかんとしている叔父上に対して、彼女はにやりと悪戯っぽく微笑んだ。


 その笑顔は、いつだってとんでもない悪戯をする時によく見せる顔だ。僕は彼女の次の行動は予想がつくけど、きっと叔父上は予想もつかなくて慌てふためくのだろう。


 僕からポーラを奪っていくんだ。少しは困ればいい。


「しっかり受け止めてくださいね!」


 そう言うや否や、彼女は予想通り窓に足をかけ、そのまま叔父上目掛けて勢いよく飛び降りる。まさか飛び降りるとは思ってもみなかったであろう叔父上の顔色は真っ青だ。


 それでも流石は元騎士団長というべきだろうか。咄嗟に両手を広げた叔父上は、彼女を難無く受け止めて、そのまま抱き締めてしまうのだから、僕はつい目を逸らしてしまった。


 彼女は元々、叔父上みたいな筋肉質な男が好みだ。小さい頃から、優しい王子様よりも格好いい騎士に憧れていたから。


 寧ろ自分が騎士になりたいんじゃないかと思うくらい活発で、公爵令嬢だというのに悪戯ばかりしていたし、邸から脱走する事は数知れない。


 ただ、その全てをオランジュ公爵は承知していたのだ。彼女は上手いこと抜け出せたと今でも思っているけど、本当は抜け出せるように侍女達がお膳立てしていたし、抜け出した先ではいつだって彼女にバレないように護衛騎士がつけられていた。


 それだけ彼女は公爵家の皆から愛される存在なのだ。あの家の人達は、全て承知で彼女が彼女らしくあれるようにずっと見守ってきていたのだから。


 その内の一人に僕はなりたかった。いや、ずっとそうあろうとしてきたし、これからも彼女を一番に守れるのは僕なんだと勝手に思い込んでいたのだ。


 僕だって、叔父上には敵わないけど、彼女に好きになってもらえるようにずっと鍛えてきた。彼女が飛びついてきても、一緒に倒れ込まないくらいには鍛えられていたというのに。


「ふふっ……あはは!」


 軽やかな彼女の笑い声が聞こえる。あんなに楽しそうな彼女の顔を見るのは久しぶりだ。


「ポーラ!どうして君はそう無茶をするんだ!怪我でもしたらどうするんだ!?」

「アルテュール様が絶対に受け止めてくださるって確信があったからですよ。現にこうして受け止めてくださったでしょう?」

「そんなの当たり前だろう!君が怪我でもしたら一大事ではないか」

「怪我なら傷薬ですぐに治りますよ?」

「それでも、だ。君が痛い思いをするのは、俺には耐えられない」


 幸せそうに笑うポーラと、怒ってはいても決して彼女を離そうとはしない叔父上。そしてそれを、ただ上から見下ろす事しか出来ない僕。


 さっきまでは触れて、抱き締められる距離にいた彼女が、今はこんなにも遠い。手を伸ばしたところで、僕の手はもう届かない。


 どうしようもない未練だ。


「シモン!」


 不意に彼女が僕の名を呼び、視線が重なる。晴れやかな彼女の表情が曇らないように、僕は必死に笑顔を浮かべた。


「ありがとう、シモン!あなたがいなかったら、私はずっと勘違いして逃げ続けていたわ!」

「君は単純で、思い込みが激しいんだよ。本当、馬鹿ポーラ」

「本当に私が馬鹿だったわ。あなたの気持ちに全然気付いていなかったのだもの」


 その言葉に、僕はつい苦笑を漏らす。


 本当にどこまでも鈍感で、僕をいつだって振り回す、誰よりも愛おしい幼馴染。どうしてこんな彼女を好きになってしまったのかと思わなくはないけど、それでも僕は、きっとこの先もポーラの事を忘れる事なんて出来ないのだろう。


「……虫がいいのも解っているの。でも私は、これからもずっとシモンの一番の友達でいたいわ!アルテュール様の次に大切な人は、シモン。あなたなんだもの」

「っ……本当、そういうとこだよ。結局、僕は君のお願いには弱いんだ。でも、暫くはそっとしておいてよね!一応、振られて傷心なんだから!」


 それだけ言うと、僕はばたんと勢いよく窓を閉め、そのままずるずるとその場に座り込んでしまった。


 どうにか彼女の前で泣くのだけは耐えられたけど、流石にもう限界だったから。


「っ……ふ……ぅぅ……本当、馬鹿ポーラ……」


 僕の意思とは関係なく、瞳からは涙が溢れて止まらない。


 ここまで大きく育ってしまったポーラへの恋心を、今更どうする事もできず、ただただ恋しくて苦しい。それでもいつかは、彼女と笑って話せる日がくるのだろうか。


 いつかこの先、ポーラ以外の人と結婚して、子供ができて、この時の事を懐かしい思い出話にできる日が。


 ただ今は、そんな日が来る事なんて想像もできず、暫くは喪失感でいっぱいになるのだろう。


『うわぁ!本当シモンってば天才よ!こんな美味しいもの、食べた事がないわ!』


『あはは!引っかかったわね!勉強ばかりしてないで、遊びましょうよ!』


『ありがとうシモン!本当にあなたは私の一番の親友よ!』


 目を閉じれば、思い浮かぶのはいつだって楽しそうな彼女の笑顔だ。僕の想いは届かなかったけど、彼女がずっと恋していた叔父上と幸せになってくれるのなら、笑顔でいられるのならそれでいい。


 でも、もしもまた今回みたいに叔父上が彼女を悲しませるのなら、たとえ何があろうと僕は彼女を助けに行くのだろう。


「あぁ、でも、ポーラが叔父上と結婚したら、義理の叔母上になるのか……叔母上とは呼べないな……」


 僕にとっては、彼女はずっと幼馴染で大好きな女の子のポーラなのだから。


 どれだけ泣いていたのか解らないものの、ようやく涙が止まった所で、僕は大きな溜息を漏らした。目が腫れぼったいけど、護衛の騎士達はきっと何も見ない振りをしてくれるだろう。


「さぁ、嫌でも王都に戻らないといけないな。父上と母上には、また揶揄われるんだろうけど」


 ここに来るにあたって、父上と母上にはポーラが修道院に行こうとしている事、それなら彼女を王太子妃にしたい事を伝えていた。


 父上は面白そうな様子だったし、母上は「ロマンス小説みたいね!」と目を輝かせていたけど、結局ポーラは叔父上の隣に収まってしまった。


 王城に戻った時の事を考えると憂鬱にもなるけど、僕はようやく重くなった体を起こすのだった。






読んでくださってありがとうございます!


作者のやる気に繋がりますので、面白かったと思って頂けたら下にある☆を押して評価やブクマを宜しくお願いします!


次回は月曜日の更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ