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異世界艦隊日誌 外伝  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
7/13

N&M造船所  その2

翌日の夕方。

星野模型店の近くにある喫茶店には、錦戸と前田の二人以外にも、彼らに声を掛けられた者三人が集まっていた。

一人は艦船模型をメインに制作している山添豊。

普段はあまりしゃべらないものの、好きな事に関しては饒舌になるタイプで、その艦船に関する知識と徹底した資料を基に再現する事細かなディテールの技量によって製作された模型は、派手さはないものの同好会の展示会では誰もが足を止めて見入るほどの出来栄えだ。

もう一人はキャラクターモデルを中心に制作している前川俊。

そのキャラクターモデルの元になった作品を愛するあまり、まだ初心者にもかかわらず高難易度のガレキにも手を出し何とか形にしてしまうほどで、そういった事が続き今やモデラーとしての腕もかなりのものになったという人物である。

彼曰く『愛は全てを超越する』という事らしい。

そして、最後の一人は、車をメインに制作している西川加也。

スポーツカーや今の車にはあまり興味がなく、彼が好むのは古い車だ。

特に今ではほとんど見かけないような古い車の模型を作り、その走っている情景を再現するジオラマ製作を趣味としている。

そんな三人は、錦戸、前田の二人が座っているテーブルの向かいに座っている。

なお、二人掛けの長椅子の為、もう一人はマスターが椅子を用意してもらった。

そして、それぞれ頼んだ飲み物、まぁ、全員が『オリジナル』だった、がテーブルに運ばれ、それぞれ好みで砂糖を入れたり、ミルクをいれたりした後、錦戸が口を開いて前日前田と一緒に話して決めたことを話していく。

三人とも黙って話を最後まで聞いていたが、話が終わって真っ先に口を開いたのは前川だった。

「面白そうじゃないか。キャラクター物でも艦船とか宇宙船みたいなものもあるし、実際にある兵器を出す作品もあるからなぁ。自分としてはそういうものの延長として考えればいいだけだから、全然問題ないよ。だからやってもいいかな」

次に声を上げたのは、西川である。

「そうだな。偶には違うものを作ってもいいかなと思っていたんだよ。それに第二次世界大戦の艦船だよね。それなら尚更いいな」

その言葉に、錦戸が聞き返す。

「第二次世界大戦の艦船ならいいってどういうことだ?」

「いや、最近のあまり凹凸のないつるりとした艦船はあまり興味がわかないんだ。少しぐらい武骨でごつごつした感じが好きなんだ」

そう言われて錦戸は西川の作ってきた作品を思い出す。

確かに華やかさはないし、どちらかと言うと不格好な車が多かった印象だ。

それはそれで味があるし、彼の作るジオラマはそれ故に他のカーモデルとは一線を画すほど素晴らしかった。

それで納得いったのだろう。

錦戸は何度も頷く。

だが、いの一番に声を上げると思っていた山添は黙ったままだ。

元々あまりしゃべらない男たが、艦船模型の話でここまで黙り込むのは珍しいというか、異常だ。

だから、前田が慌てて聞く。

「気がのらないのか?」

だが、その問いに、山添は「いや、そういう訳じゃないんだ」という歯切れの悪い返事を返すだけである。

その返事に、錦戸がムッとした表情で聞き返す。

「じゃあ何だってんだよ」

「おいおい、落ち着けよ」

前田が慌てて錦戸をなだめる。

その二人の様子に、申し訳なくなったのだろうか。

山添が困ったような表情で口を開く。

「多分、この面子では艦船模型をきちんと作ったことのあるのは私だけだと思うんだ」

その言葉に、前田が答える。

「ああ、そうなるな。遊びで作った者はいるかもしれないが、きちんとやったことはない者ばかりだと思う。だからさ、頼りにしてるんだが……」

その言葉に、山添は嬉しそうな表情をしたものの、すぐに複雑そうな表情になった。

「だからなんだよ」

「えっ、どういうことだ?」

「いや、私は好きなことに対してはいろいろ口出しするタイプじゃないか。だからさ、せっかくみんなやる気になっているのに、色々言って水を差さないかって思って……」

そう言われて、四人はそれぞれ顔を見合わせる。

確かに山添は、強いこだわりと頑固なところがあった。

実際に模型製作時には、かなりの資料を集め、事細かな部分まで突き詰めて制作している。

だが、それが合わないものもいる。

趣味だから気楽に作ろうというタイプの者達だ。

そんな彼らに山添が良かれと思っていろいろ横からアドバイスするのだが、それがうざいらしい。

そういったトラブルが何回か続き、それが原因で彼と距離を置いている者もいるほどであった。

そして、それは本人も気が付いており、どうも気にしていたらしい。

そして、山添の話は続く。

「後もう一つ問題がある。私は製作スビートが遅いんだ。一つの模型を、半年、一年かけて制作している。だから、今回の依頼、十五隻だと一人三隻割合になると思うが、期間中に完成させられそうに……」

だが、そう言い終わらないうちに前田が笑った。

「そりゃ、山添のは1/350や1/200の大型モデルで、その上、資料で細かく調べてエッチングだけでなく、無いものは自作してまでこだわりぬいて作るんだからそうなるに決まっている。でも今回はそれよりも小さな1/700だ。それにエッチングは使わないし、ただ作って塗装するだけだ。だから、大丈夫だって」

そして、その後に錦戸が続く。

「それにさ、みんなで協力すれば何とかなるさ。だからやろうぜ。お前の知識とか技術を頼りにしてんだからよ」

その言葉に、前川、西川の二人も頷く。

その言葉と全員の視線を受けて、山添は困ったような、照れているような複雑そうな表情をして頭を掻いた。

そして全員の顔を見ると苦笑を浮かべて口を開く。

「何かある時はきちんと言ってくれ。好きなことに夢中になると周りの事が見えなくなるから」

そう言った後、山添は頭を下げた。

「こんな私に声を掛けてくれてありがとう。こんな私でよければ参加させてくれ」

その言葉に、四人は歓声を上げる。

こうして、五人で今回の依頼を受ける事となったのであった。



一頻り盛り上がった後、今度はそれぞれどんな感じの模型にするか話し合う事にした。

「私は、指定通りのオーソドックスな色で仕上げようと思ってるんだ。勿論、出来る範囲内で細部の違いは出すけど……」

まずそう言ったのは山添だ。

彼にとって、艦船模型は、あくまでも実物の縮小したものという認識なのだろう。

その言葉に、「山添らしい選択だな」といって前田が笑う。

そしてそのまま言葉を続けた。

「なら、こっちは迷彩塗装で行こうかな。確かいろいろ迷彩した艦船とかあったよね?」

そう聞かれて、山添が答える。

「ああ。色んな色合いの迷彩塗装があるんだが、緑系の迷彩とかどうかな?」

「おっ。いいね。さすがに砂漠や泥系の迷彩はないだろうし、こっちとしてもなるべく戦車に近い迷彩がありがたい」

「なら、今度艦船の迷彩の資料を貸すよ」

「ああ、たのむよ。そういったものがあると助かる」

前田の後には錦戸が続く。

「じゃあ、俺も迷彩にするか。もっとも、俺がやりたいのはこういったやつだけど……」

そう言ってスマホに映っている画像を全員に見せる。

そこには、自衛隊の洋上迷彩した機体の模型の写真が写っていた。

「おおっ。かっこいい……」

前川の口から思わず声が出る。

「だろう?ほれ、つぐみちゃんの旦那さんの作ったF-2が無茶苦茶かっこよくってさ。一度ああいった迷彩やってみたかったんだよ」

「面白そうだな、それも……」

山添が感心したように言う。

「よし。なら俺はもっとシンプルにしてやるか」

そう言ったのは前川だ。

「シンプルって?」

周りからそう聞かれ、西川はニタリと笑った。

「白だよ」

「白?!」

「そう。白とかかっこいいじゃないか。青い洋上に浮かぶ白い艦船。見えるだろう?」

「確かに絵になるが……どうなんだ?」

前田がそう言って話を山添に振る。

「そうだな。北方海域では、白の迷彩とかあったみたいだし、それに記念とか式典用に白く塗られたりした艦艇がない事もないし、いいんじゃないかな」

そうは言ったものの、ある事に気が付いたのだろう。

釘を刺す口調で言葉を続けた。

「でもさ、部分部分とはいえ赤とか、黄色とか、青とか使うなよ?」

その言葉に、前川はギクリとした表情になった。

「やっぱ……駄目?」

「ああ、それは却下だ」

そのやり取りで、前川が何をやろうとしていたか察したのだろう。

残りの三人が苦笑を浮かべる。

指摘されなきゃ某アニメの木馬を再現するつもりだったなと……。

「そうか……。残念」

ガクリと肩を落とす前川。

それが可哀そうになったのだろう。

錦戸が助け舟を出す。

「ならさ、白をベースに、いろんな感じの白系で色々やったらいいんじゃね?」

その言葉に前川が顔を上げる。

「それって……」

「応よ、白といっても色々違いがあるじゃねぇか。明度を変えたりとか……。それを使ってやればいいんじゃねぇか」

「なるほど。それだと白一色と違い情報量も増えるし、より立体感が出ますね」

西川が感心したように言う。

「スケールの尺度が大きいから面白いものになりそうじゃないか」

山添もそう言うと、前川が俄然やる気になったのだろう。

「確かに、それかっこいいかも……。よし。やってやる。白尽くし塗装でやってやろうじゃねーかっ」

おおーーっ。

前川を除く残りの四人がノリで拍手と声を上げる。

それを受けて前川が照れたように笑った。

その流れを受けてだろうか。

残った西川がニタリと笑った。

「じゃあ、俺は黒系で行くかな」

「黒系ってことは……」

「応よ、前川のと対になるような感じに仕上げてみょうかと思ってる」

その言葉に、前川がうれしそうな声を上げた。

「おっ。いいね。進行状況をSNSで上げてくれよ。見せあいながら進めようぜ」

「いいな。それでいこう」

楽しげに笑いつつ、それぞれが進め方を話していく。

こうして、鍋島長官が委託した輸送艦の模型製作依頼は本格的にスタートする事になる。

そして、その多彩なそれでいて丁寧に作られた模型を見て、鍋島長官は次回の制作依頼を出来ればという言葉付きではあったが彼らを逆指名するのであった。


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