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異世界艦隊日誌 外伝  作者: アシッド・レイン(酸性雨)


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アランパラ・ドラウザス少尉の選択  その3

ナパナ・ラパウト駐在官一行が村に来てから実に三日が過ぎた。

その間、懸念していたアカツキ・タチバナというフソウ連合出身の武官は私に接触してこなかった。

あの時感じたのは、私の思い違いだったのだろうか。

そんな事さえ考えてしまうほど、彼からは何もなかった。

身構えていた分、拍子抜けもいいところだが、問題はあった。

そう。彼からの接触はなかったのだが、その代わりにラパウト駐在官が私の事を色々と聞いて回っているらしい。

まぁ、自分の管理する村に余所者としか思えない男が住み着いているのだ。

気にならない方がおかしいだろう。

つまり、責任者としての義務を果たしているのだ。

彼は良い管理者なんだろうなと思う。

私に引け目がなければそう素直に思えただろうが、こっちは脛に傷を持つ身である。

もうほどほどでいいじゃないかとも思ってしまうのだから、人は勝手なものだ。

もっと、自分がサネホーンの関係者だと知っているのは、ジュエンのみで、村人は誰も知らない。

民間船の記憶喪失の遭難者という設定で話をしている。

本当なら、そんな事はしたくないのだか、そんな事をしてさえも今の生活を失いたくないと思ってしまっていた。

それにそれで何とかするとジュエンは言い切った。

そして、彼女はそれをどうやら何とかしたみたいだった。

今では知ってる範囲内では、聞き込みみたいなものは無くなったようだ。

もっとも裏でやっているのかもしれないが、そんな事をいつまでも気にしていたらやってられない。

そんな訳で、今日も私は村の男達と一緒に沖合に漁に出ているし、ジュエンも自分の仕事を熟している。

彼女の仕事は、村の特産品となっている独特の生地を織ることで、その腕前は村一だという。

なんでも彼女の母親も村一の織り子で、直々に指導を受けていたらしい。

もっとも、彼女の両親は病気でなくなってしまい、今は一人で生活していたらしい。

そして、そんな時に私が彼女の家に転がり込んだ。

もしかしたら、彼女を狙っていた村の男もいたかもしれない。

だが、そんな話は全く聞かないし、私の対しての嫌がらせといった事もない。

皆で協力して生活し、楽しみ、悲しみなどを共有する。

そんな素朴で控えめな生活。

それは祖国やサネホーンとは大きく違う。

だが、それは私にとっては素晴らしい生活であり、ジュエンと村の人々によって、私は今最高の生活を送っているといってよかった。

しかし、そんな幸せの中、私は忘れてしまっていた。

自分がとんでもない運が悪い男だという事を。

そして、こういった時に限ってその運の悪さが発動するという事を。



それを見つけたのは偶々だった。

ナパナ・ラパウト駐在官一行が村に来たから一週間以上が経ち、彼らの存在も日常の一部と化した時である。

村人に近くの森の中に祖国でも使っていたハーブがあると聞いてそれを探すために森の中に入った時であった。

近くの茂みの中でハーブを探していた時、それを見つけたのだ。

軍靴と思しき足跡によって踏み荒された地面といくつもの吸殻を。

もちろん、村人の中には煙草をたしなむ者もいる。

だが、彼らはこんなところで隠れて吸う事はない。

その上、彼らはほとんどが素足がサンダルのようなものを履いている。

靴なんて誰も履いていない。

もちろん、私もだ。

そして、よりその吸殻を吸い、ここにいた連中の正体をはっきりさせる証拠は、煙草の吸殻であった。

その吸殻を私はよく知っている。

その煙草の吸殻は、一種類で統一されていた。

『ビハンドム』という煙草の銘柄であり、言葉の意味は『やってられねぇぜ』といった意味を持つサネホーンが兵士達に支給する代表する煙草でもあった。

そして、それとナパナ・ラパウト駐在官一行が村に来た時に聞いた話が結びついた。

戦いに負けたサネホーンの敗残兵が近隣の村を荒しているという話に。

もちろん、サネホーンの兵士全てがそうだとは思わないが、海賊やそれに準ずる行為を平気でやる連中は、間違いなく多いだろうし、それを容認している上官も多い。

そう、以前の上官のように。

そして、これらの状況証拠からわかる事は一つ。

次はこの村が狙われている可能性が高いという事だ。

ごくりと唾を飲み込み、周りを警戒する。

もしかしたら、周りにいるかもしれないと思って警戒したのだ。

しかし、近くに連中はいない様子だ。

恐らく偵察に来た連中は、報告に戻っていったらしい。

よし。直ぐに駐在官に報告すべきだな。

そう判断して駆け出そうとした時、それは不味いのではないかと気が付いた。

これを報告して、彼らはどう思うだろうか。

新参者の確信をもった報告。

そして疑問に思うだろう。

なぜ、それがサネホーンの残党だと判断したのかと聞かれるのではないかと。

そうなると言わなければならないだろう。

煙草の銘柄の事などを。

それは、自分はサネホーンの関係者であると言っているようなものではないだろうか。

もちろん誤魔化していう事は出来る。

だが、私にそれが出来るだろうか。

やっと疑惑を誤魔化せたというのに。

それに襲撃される可能性があるだけだ。

襲撃されるわけじゃない。

そう思おうとした。

しかし、その思考を打ち消す。

村が襲撃される可能性は限りなく高いはずだ。

そしてそうなったらどうなる?

私を受け入れてくれた村人たちに被害が及ぶのだ。

そして下手すれば殺されてしまう事があるかもしれない。

もちろん、ナパナ・ラパウト駐在官や彼の部下の兵士達はそうさせないと抵抗をするだろう。

だが、それでも被害は出る。

そして、もしその毒牙にジュエンが襲われたらどうなる……。

そう思った瞬間、背筋が凍った。

そして、彼女を失いたくない。

彼女を不幸にしたくない。

その思いが沸き上がったのだ。

自分の事はどうでもいい。

彼女だけは、守らないと……。

それが今の自分の幸せを失う結果になろうと、それはそれでいいじゃないか。

だって、彼女の為だもの。

私を助け、救ってくれた彼女の為に。

そう決心すると、私は駆け出す。

ナパナ・ラバウト駐在官の元に。

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