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異世界艦隊日誌 外伝  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
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三島晴海の選択  その1

それは唐突だった。

マシナガ本島の海軍本部での定例会議か終わり、それぞれが思い思いに動こうとしていた時で、私もやっと終わった会議に肩の荷が下りた気持ちで資料を片付けていると鍋島長官と東郷大尉が私の側までやって来た。

その様子は普段とは少し違い浮かれているように見える。

何かあるな。

そう警戒する私だが、表面には出さない。

いつもの笑顔を浮かべて二人の方に視線を向けた。

そんな私に鍋島長官は微笑みつつ口を開く。

「今月の二十五日は予定があるかな?」

その言葉に、やっぱり仕事がらみかと思って思わず警戒する。

鍋島長官という人は、飄々としているくせに抜け目がない。

実際、彼に代表の地位を譲ったはずなのに、以前よりも忙しくなっている。

まぁ、飛行艇なんて便利なものがあるおかげでより忙しくなってしまったともいえるかもしれないが、それでも十分に彼のせいだと言える。

それほどまでに、彼はやり手で、その調整に私はより動き回る羽目になってしまっているのだから。

だから、どうしても警戒し伺った言葉が自然と口から出た。

「えっと、何か?」

その言葉に、鍋島長官は苦笑を漏らす。

「いや、そんなに構えないでくれ。なに、今月の二十五日にクリスマスパーティを開こうと思っているんだ。だから、よかったら三島さんも参加しませんか?」

「えっと……クリスマス……ですか?」

鍋島長官の言葉に、思わず聞き返す。

鍋島長官の世界にはそう言った習慣とか文化があるかもしれないが、こちら側ではそう言った事はない。

勿論、大晦日や新年はあるが……。

そんな私の気持ちが判ったのだろう。

鍋島長官はにこやかにクリスマスについて説明しだす。

「僕の世界にあるキリスト教のイエス・キリストの降誕を記念する祭なんだ。もっとも、僕の国では、その意味よりも家族や親しき人達とパーティを開いて楽しむイベントとなっているけどね」

どうやら要は宗教関係のお祭りらしい事が判り、私は物珍しさもあり興味がわいた。

しかしだ。

今の私は、フソウ連合の魔術師と巫女を統括する三島家の当主である。

他の文化、それも宗教が絡むものに参加してもいいのだろうか。

それに、私の代で大規模な召喚と結界の変革という大きくしきたりを変えてしまっている。

実際、分家からは異論が出て問題になりかけた。

だが、それでも実行できたのは、母の意向のおかげだ。

当主の座を私に譲ったとはいえ、未だに母は三島一族の中でも強い発言権と勢力を持っている。

これ以上、母に負担はかけたくないし、立場的には参加すべきではないという気持ちも強くある。

だから、ついつい困ったような顔になったのだろう。

「三島さんは、何かご用事がありますか?」

そう聞かれてしまう。

いや、用事はないんだけどね。

興味もあるし、参加はしたいとも思うんだけど……。

でもね……。

やはりここは曖昧な返事で誤魔化そう。

そう判断し、口を開こうと思ったら、近くにいた山本大将と新見中将が笑いつつ会話に入ってくる。

「なかなか面白そうではないか」

「ふむ。向こうの世界の文化も興味深いですな」

その物言いには、自分らも混ぜろという気持ちが駄々洩れであった。

そんな二人に、東郷大尉が胡散臭そうな表情で睨むように見つつ口を開く。

「要はお二人はうまい酒とご飯を食べたい口実にしたいだけではないのですか?」

その言葉に、二人は互いに見合わせた後、苦笑を浮かべる。

どうやら図星だったようだ。

「いやいや、そんなつもりはほとんどないぞ。まったくないとは言わんが……」

「そうそう。向こうの世界の酒や料理はうまいと聞いてはいたが、そんなつもりは……あんまりないぞ」

その言葉に、東郷大尉は呆れた顔になり、鍋島長官は苦笑を浮かべている。

私も恐らく呆れ返った表情になってしまっているだろう。

それには自信ある。

なんせ、それは言っちゃ駄目だろうっていう見本的な返答を聞いてしまったのだから。

この二人、軍人としては一流だが、どうやら酒やうまい食い物が絡むととてつもなくポンコツになるのではないだろうか。

そんな風に思えてしまう。

そう言えば、お二人共結婚を決めたのは奥さんの料理がうまいからだという話を聞いたことがある。

それでたっぷりとうまい料理で調教されてしまったというべきだろうか。

やはり、男を確実にモノにするには胃袋を握った方が強いのかもしれないな。

そんなことを考えてしまう。

もっとも、私にそんな男は今の所いないし、私は料理は全くダメなのだが……。

そんなこと思っていると、さすがに見かねたのだろう。

鍋島長官が笑いつつ助け舟を出す。

「勿論、お二人も招待いたしますよ」

そんな鍋島長官の言葉に、ほっとする二人と反対に少しむくれる東郷大尉。

「全く甘いんだから……」

そんな事を言いつつも、本当に仕方ないわねっていう感じの思考が漏れ漏れですよ、本当に……。

そんなことを思って油断していたら、今度は矛先がこっちに向いた。

「この二人も参加するし、他にもいろんな人も招待します。だからよかったら三島さんも……ね?」

そこまで言われてしまえば、はっきりと断りにくい。

仕方ない。

私はそう思いつつ口を開いた。

「実家に戻って母と確認してから返事をするっていうのでいいかしら?」

私がそう言うと、東郷大尉は私の立場を思い出したのだろう。

「そうですね。わかりました。今週中に返事をいいですか?」

「ああ。それぐらいなら大丈夫だと思う。返事は大尉に伝えればいいかな?」

私の言葉に、東郷大尉がにこやかな笑顔で答える。

「はい。私にお願いします」

「わかりました。近々返事をするわね」

私はそう言って資料をまとめるとその場を何とか切り抜けたのであった。

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