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あるひとつの技術があるとしたら

 最初に、この文章で伝えたいこと。

 今の、この『現実』でできる「内政チート」「知識チート」はないのか?


 西暦3020年の標準的な大学生が、大規模な機械を持たず情報だけで今、この2020年前後の日本にやってきて、話を聞いてもらえる場を手に入れて、できることは何かないのか?

 現在の知識がある学生が、織田信長のところにタイムスリップするように。

 古代ローマの騎兵隊があぶみや正しい馬具を使っていないような、前提技術なしで簡単に実現可能な見落としは今、『現実』には何もないのか?



『小説家になろう』などに「内政チート」「知識チート」などという分類がある。


 まず「チート」。英語では試験のカンニングは「cheatingチーティング」という。チート、ずる。

 ロールプレイングゲームで、キャラクターの力などをめちゃくちゃに高くしてプレイすることもチート。某RPGで「ゆうて~ぺぺぺぺ~」を入力して高レベルで始めた序盤のように、こちらの素手一発でどんな敵も即死。

 普通の「チート」小説のパターンとして、現代の普通の人間がトラックにはねられるなどして死に、神が死因となった善行(事故は子供をかばってだった、など)の褒美、死を管理する仕事のミスの詫びなどで、剣と魔法の異世界に転生させる。

 そのときに、転生する地の標準的な人として生まれるのではなく、魔力や剣術などで桁外れの数値を最初から与えている。それで普通の物語では苦闘と努力を繰り返す若い時分から、すべて楽勝で物語が進む。


「知識チート」は、直接的な力ではなく現代人の、標準的な知識そのものを用いる。

 ごく平凡な中高生でも、標準的な日本人は現代日本語を読み書きできる。ローマ数字文明から見ればものすごい計算を筆算できる。

 国語・数学・理科・社会・英語・家庭科・技術・保健(=医学・公衆衛生)のすべてで、かなりの水準の事を学んでいる。


 剣と魔法の世界、あるいは日本の戦国時代で、現代では当たり前と言える知識を用いることで国に莫大な利益をもたらし主人公は出世する。それが「知識チート」「内政チート」である。



 ここで注意すべきこと。

「知識チート」をするためには、技術の積み重ねを理解していなければならない。

『冷たい方程式』の作者トム・ゴドウィンの短編に、バイキングの時代にタイムスリップした鉄鋼技師の話がある……何もできずささいな理由で決闘となり死んだ。彼が学び従事していた技術は、巨大すぎる近代製鉄産業のほんの一部に過ぎない。

 前提となる技術、前の段がなかったのだ。

 現代的な溶鉱炉を作るには、その超高温と化学条件に耐える耐熱煉瓦が必要だ。

 その耐熱煉瓦を作るには、多くの種類の土石を世界中から集める交易網が必要、そのためには……

 ほかにも熱風炉のための動力や耐熱送風機、そのための軸受けや潤滑、精密に軸受けを作るための旋盤、旋盤を作るための……と必要なものは増えていく。

 必要とされる人間の組織規模、交易可能な文明規模さえ違う。


 多くの前提が必要になる。

「知識チート」「内政チート」の優れた作家はそれを理解し、最小限の前提で実現可能な技術を選ぶ。

 多く見られるのが、織田信長のところで籾米の塩水選や正条植え、改良塩田、硝石丘、灰吹き法、醤油など。

 耐熱煉瓦などを必要としない。知識のみで実行可能。

 また織田信長は歴史的に、海外の新知識を柔軟に受け入れるキャラクターである。だから怪しい者である転生者の言葉を試してみる度量がある、というストーリーに説得力がある。だから多用される。


 その源流の一つに『ソロモン王の洞窟』(H・R・ハガード)とその奥の史実もあるだろう。

 未開の地を探検し原始的な現地人に処刑されそうになった西洋人が、天文学知識から日蝕を予測してそのとおりに日蝕が起き、神とあがめられる。

 近代西洋の精緻な天文学があってのことだ。

 それは、史実の大航海時代でも行われた。

 知識そのものだけでも高い力になる。



 さて、2020年前後の今、この日本に、2500年でも3000年でも4000年でも、から来た転生者なりタイムトラベラーなりがいるとする。


 小説としてちゃんと情景を描写し、人と会話させ、どこぞの居候となり、戸籍、学校その他に……そこは面倒なので省く。

 すぐに使える技術産物は持っていないが、今のWikipedia相当の知識は持ち込むことができている。


 ワープエンジンは、それに必要な素材がないだろう。

 織田信長に拾われてディーゼルエンジンを作ろうとしても、必要なだけの超良質な鋼を、超高精度で加工することができないのと同じように。

 だが、今の人類にも可能な、「やっていないだけ」であるものは何かないか?

 戦国時代での、正条植えや硝石丘のように。


 といっても、書いているのは未来人ではない筆者だ。

 今のインターネットや巨大本屋で情報を見て回るぐらいしかできない。

 そうしていて、少し有望ではないか、永久機関と違い物理法則が禁じてはいない、と思えることはいくつかある。


 極超音速スカイフック~宇宙太陽発電。

 海水で育つ作物……アッケシソウ、マングローブ。ラクダなど高濃度塩水を飲める家畜。海水で育つ稲?

 栄養吸収が多い貝類や海藻の大規模養殖。

 海洋肥沃化、鉄理論。

 デザーテック。その応用変形……水素、アンモニア、マグネシウムを用いるエネルギー貯蔵。

 トリウム溶融塩炉。進行波炉。

 スピルリナ。アゾラ。

 水爆エンジン。レーザーロケット。

 ……



 よく反論される。「今実行されていないということは、ダメだと証明されているからだ」

 だとしたら、人類にできることは事実上何もないということだ。

 否定するのは実に簡単だ。

 だがそれが人類にとっての死刑宣告だと、理解しているのだろうか?

 技術の進歩がないのなら、リンやカリウムや銅や鉛が尽きた時点で近代文明は終わり、宇宙船地球号に救命ボートはなく定員は数百万人。2020年時点でも七十数億人に死んでいただくということだ。

 環境系の人は、人類が欲を技術を捨てれば幸せに生きられる、選択肢はないというが、冷蔵庫がなければワクチンもない、10人産んで2人育てば幸運の世界に戻るし、化学肥料がなければ地球の定員が何人になるか、リンやカリウムや銅や鉛が尽きたら地球の定員が何人か、考えているのだろうか?



 ちなみに……技術は発達し続けているという。

 だが、実際には発達している分野と停滞している分野が極端なのだ、今は、いやこの半世紀近く。

 需要そのものが停滞している可能性すらある。


 ジェット旅客機。少なくとも、多数の旅客を安全に高速で運ぶ、その速度そのものはむしろ後退している……超音速旅客機コンコルドの廃止で。

 さらに比較的最近日本で、テクノスーパーライナーという高速の実験的な船が、廃された。

 より速く。より遠くへ。より大量に。

 大航海時代以来の人類の進歩は、何十年も前から止まっている。

 事故は減り、安くはなり、燃費は向上し環境汚染がましになっていることは事実だが……


 アメリカ軍制式小銃、M16系統の配備は1960年代から……50年以上。

 真鍮薬莢、発射火薬、鋼の銃身。

 それを過去のものとする技術は何一つ出てきていないということだ。

 H&K-G11、ケースレス(薬莢なし)。

 SPIW、矢のような形のフレシェット弾。

 OICW、発射時にコンピュータ信管に情報を入力され空中で炸裂する小型グレネードと普通カービンの組み合わせ。

 どれもだめだった。M16を引きずり下ろすことはできなかった。

 真鍮薬莢の適度に膨らんで薬室を密封し熱を吸収する能力、大量生産を許す豊富さ、安価……それを越える素材がどうしてもできない。


 他にも米軍にはM2重機関銃、B52爆撃機など、とんでもなく長いこと使われ続ける兵器がいくつもある。

 それ以上のものを作ることができない。

 否応なしに昔の兵器を旧式化するような、新しい金属、新原理のエンジンなどが登場していない。鋼鉄の大量生産と蒸気エンジンでライフル砲と鉄の汽船が、カロネード砲の木造帆船を駆逐したようなことがない。


 何よりも、アポロ計画からあまりに長い間、人類は静止軌道にも足を踏み入れてはいない。 


 コンピュータのムーアの法則、指数関数を描く発達の陰で、より丈夫で安い素材・より高い最高速度をもたらすエンジン、宇宙に行くためのエンジンなどは半世紀以上停滞しきっている。

 宇宙都市、海上都市などのかつてのSFが描いたものは実現していない。


 核融合も、多くの人は完全に諦めているだろう。


 だからこそ必要なのは、内政チートの視点ではないか? 

 今の人類がどんな見落としをしているか。そこを見るだけで、エネルギーを、食料生産を、住める範囲を大きく広げる何か……


 あえて、フィクションとして、いくつかが「可能だとして」(=採算が合うとして)社会の変化を描いてみようと思う。

 実際には、しっかりした実験と研究で完全に否定されているのを知らないだけかもしれないが……



 ぜひ読者も考えてほしい。そして実行してほしい。

 もしできることが今の人類にあるのなら……

 文明崩壊を、何十億という無残な死を防ぐために。

 より多くの人がごはんを食べられるように。

「全ての卵を一つのバスケットに入れるな」、人類を宇宙に広げ、滅亡のリスクをなくすために。


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