中編
お待たせしました。
後編は夜に投稿します。m(_ _)m
異世界から姫の身代わりを召喚してから15年が経った。
身代わりが送り込まれたヴァラキアは未曾有の発展をしつつあり、最も景気の良い国として近隣諸国で話題になっていた。
その国王が『姫』を送った礼も兼ねてバルト国王の生誕祭を祝いに来た。
バルト国王夫妻と重鎮たちは困惑の渦中にいた。
ヴァラキアの国王は吸血族と古くから周知されている。
なのになぜ、太陽光の降り注ぐ真昼間に、堂々と中庭でお茶など飲んで和んでいられるのだ……。
しかも彼の後ろで控えている薔薇色のドレスの娘は、間違いなく15年前に送った身代わりの娘で間違い無いのだが、その容姿はあれから全く歳をとっていなかった。
吸血族と同族になったのならその理由も分かるのだが、同族になった人間は、吸血族と同じ特徴の外見 ── 赤い瞳に尖った耳と牙 ── を持ち、太陽の光に当たれば灰になるはずなのに……彼女は黒目黒髪で耳も人間のソレである。
混乱の極みに達しそうな彼らの心境を知らず、ヴァラキア国王はバルト国王と目を合わせ、口上を述べた。
「先だっては我が国の招聘に応じ、素晴らしき『学者』をよこしていただき、ありがとうございました。
両親を流行病で亡くして早135年……当時まだ幼かった私は国を守る術もまだなく、未熟なまま国民を窮乏の淵に立たせておりました。
このままではいけないと奮起するも、家臣の多くが両親と同じく流行病で死に、残った家臣と国を手探りで統治してきましたが、様々な問題を抱えたままでありました。
しかし、15年前に唯一バルト王国が我が国の招聘に応じ、『学者』を我が国へ派遣してくれたおかげで食糧事情をはじめとする様々な問題が解決しつつあります。
本当にありがとうございました。」
そう言ってヴァラキア国王アムスランは頭を下げた。
ヴァラキア王国は15年前まで廃れてきていたとはいえ、元々バルト王国よりは国力が高かった。
バルト王国は人族第一主義の教会と懇意しているため亜人と言われるエルフやドワーフ・度々魔物と同一視される吸血族や狼人間に対する偏見が強かった。
バルト王国の迫害から逃れた彼らはヴァラキア王国に身を寄せた。
彼らはとても器用で研究熱心な性分もあり、優れた武器や鎧や家具等を作り、ソレを他国に売って食料を購入していたが、長年の国王の不慣れな統治が祟ってガタガタだったのである。そう、15年前までは。
「お礼の品として昨今我が国で話題の品をお持ちしました。
どうぞお納めください。」
そう言われて差し出された目録には、プルーンやクランベリーをはじめとした数々のドライフルーツや新鮮なリンゴ、リンゴから作ったシードルというお酒、馬車一台分の新種の薔薇や薔薇水、ローズヒップティー、蜂蜜等が書いてあった。
そう、ヴァラキア王国は工芸、畜産のみならず、果樹王国としても台頭してきたのだ。
元々山岳地帯にあり平地が少ない上、作物が育たない土地で有名だったのに、どんな魔法を使ったのだろう?
近隣諸国は指を咥えてその答えを探していた。
一方バルト王国の国王はアムスランの言葉に首を傾げた。
「……あの、すまぬが『学者』とは誰のことだろうか?」
「誰の事だとはお人が悪い。15年前に我が国に派遣してくださった彼女の事ですよ!
初めて会った時はなぜか棺桶の中に詰められていて、薬を嗅がされたのか意識を失っていた上、なんらかの呪いがかけられていたので、強制的に呪いを解かせていただきました。」
自分いい事した!とばかりにニコニコと笑うアムスラン。
戸惑った表情のまま固まっているバルト王国国王とその他の重鎮だが、その背には大量の汗をかいている。
召喚してすぐに薬品で意識を奪い、自分をバルト王国の姫であるという暗示をかけた上、自分らに絶対服従の呪いをかけたのだ。
よもや一目で見抜かれ呪いを解かれるとは思ってもみなかった……。
────ということは、彼女がこの国の姫ではないと、バレている?
いやしかし彼は今『学者を送ってくれるように頼んだ』みたいな事を言わなかったか?なら戦争回避?終わり良ければ全て良し?
ぐるぐると自分らに都合の良いことばかり頭に巡らすバルト王国の面々。しかも身代わりの娘から恨まれたり賠償を求められるとは思ってはいない。権力者として君臨し続けた傲慢の証拠である。
しかし彼らは甘くはなかった。
「15年という年月を重ね、私は彼女・シヅゥーカの上司として、長年の苦楽を共にした友として、彼女の意思を尊重して彼女を故郷に返したいと思い、此度の生誕祭に参りました。
どうか寛容なる王エンゲルベルト陛下の名の下に、ご協力くださるようお願い申し上げます。」
各国の大使達を前にしてヴァラキア国王はバルト国王に懇願した。
*** その日の夜 ***
テンポの良い音楽が流れている。
王城の舞踏会でアムスランとシヅゥーカは各国の大使達とバルト王国の淑女達に囲まれていた。
アムスランの美貌とシヅゥーカの博識な会話に皆釘付けであった。
「……では『吸血族は血を吸って仲間を増やす』『ニンニクが苦手』『太陽光を浴びれば灰になる』という噂は、迷信なのですか?」
「血を吸えば感染症の恐れがありますから、まず食事として血などすいません。
僕が知る限り噛み付くなんて方法で同族を増やしたという話など、聞いた事は無いですね。第一妻でもない方に噛み付くなんて破廉恥な真似できませんよ。
ニンニクは好物ですが、誰かと会う場合は香りがすごいですからね。相手を不快にさせないために、面会のある日は食べません。
太陽光は今日浴びましたが、軽く日焼けした程度ですね。我が国の日照時間は夏で6時間くらいですから、元々陽に当たる機会が少ないんです。
だから過去に酷い日焼けをした者がなんらかの誤解を招いたのでしょう。」
思わず見惚れる笑顔でアムスランはスラスラと令嬢達に答えた。
バルト王国での男性の特徴はがっしりとした体躯で毛深く、武に長けたドッシリと落ち着いた男達であった。
アムスランのような着痩せする細マッチョでビジュアル系の男は見られないだけに、一目見てその美しさに独身既婚に関わらず数多くの淑女の心臓は鷲掴みにされた。
「では、どうやって土の特性を調べたのですか?」
「花びらの色が土の性質で変わる花を用いたんです。
幸いエルフの皆様には一時的に植物を成長させる魔法がありましてね?
実を付けることはできないのですが、花を咲かす事は出来るので、その魔法を活用して調べました。
そしてその土にあった植物を植えてみたんです。」
彼女がヴァラキア王国を立て直した学者と聞き、各国の大使達はもちろん王国の領主や大臣でさえも質問のための列をなす。
彼女のアドバイスや説明はどれも的確で迷いがなく、筋が通っていた。
「しかしシヅゥーカ様は15年前にヴァラキアに向かわれたと聞きましたが、故郷はどちらなのですか?
失礼ですが我らの知る民族に、貴女のような特徴を持つものは見たことがなく……。」
「あぁ、ソレはですね…「国王陛下の御成ぁりぃーーーっ!!」」
何気なく核心に触れた話題をぶった切るかのように、陛下の入場を告げる声がした。
「さて、アムスラン王。昼間の要請の件だが、我らも責任を持って協力しよう。
しかし一つ条件がある。
双方の国の友好の為、我が娘クリスティーナを娶ってほしい。」
バルト王国の貴族達はどよめいた。シヅゥーカの眉間にシワが寄り、アムスランの目も自然と少々険しくなる。
クリスティーナ姫は15年前にヴァラキアに嫁いだとされていた。
しかしそれは間違いであるとヴァラキアは否定した。今回はヴァラキアの主張を認め、歩み寄ろうとしていると見ていいのだろうか?
「私と姫とでは種族が違います。
それに姫は確か今年で御歳33。既に結婚されてお子様もいらっしゃるのでは?」
「いえ、姫は独身です。何ら問題はありません。
我が君におかれましても、信用のできる前途有望な若者に大事な姫君を任せたいと仰られております。」
速攻に大臣が否定する。それに追従してバルト王国の貴族がウンウンと首を縦に振る。心なしか彼らの顔は青い。
あまりの揃いように不審の目を向けるシヅゥーカ。
「しかし我らとの時の流れは違いすぎるのですよ。
ここは姫とよく話し合っ「あむずらんざまぁーーっ!すぅ〜きぃ〜じゃぁぁぁぁぁーーっ!!」?」