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僕は語る 5

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 暫く掲示板を見つめているが、『新人可』の文字があるパーティが思いの外少ない。それでも、全くないわけではなかった。少なくとも受け入れてくれるパーティがあるのだから、その少ない中から吟味すれば良いだけのことだ。

 僕とフォリーは手分けして、『新人可』の文字があるパーティの情報をメモした。


 それからフォリーと話し合うため、併設されている酒場に移動する。そして「何処にする?」と二人で横並びに座り暫し相談していると、後ろから突然声をかけられた。


 波打つサラサラな金髪に指を通しながら、爽やかなイケメンが「新人かい?」と、フォリーに言ってきたのだ。しかも馴れ馴れしく、僕の婚約者(・・・・・)の肩に手を置いて。


「そうです。でも今は、初心者を指導する人がいないらしくて、新人可のパーティを探しているんです」


 フォリーがいつもより少し丁寧な話し方で説明をした。

 村から出てから、大人びた遣り取りをするフォリーをちょいちょい見ていて、少し彼女らしくないと思ったりもしたが、今ではそんなフォリーに違和感はない。むしろ頼もしささえ感じていたのだ。


「そっちの子は随分と小さいから、まだ十歳じゃないよね。ってことは、君の弟で魔術士志望かな?」


「――僕は十歳です。剣士志望です。それから弟ではありません」


 男はフォリーに話しかけていたが、僕は少しイラッとしたので自ら答えた。


「あっ、そうなんだ。――で、君は何を使うんだい?」


「えっ、あたしは弓です」


 僕に素っ気なく答えた男は、猫撫で声でフォリーに質問をする。それがなんだか気に食わない。

 この嫌な感情の元は、自分が蔑ろにされていることからか、はたまた僕の婚約者であるフォリーに、知らない男が気安く話しかけているからなのか、僕自身にも分からなかった。だが、不快なのは確かだ。


「君たちは、同じパーティでなければダメなの?」


「はい、あたしはクラージュ……彼の婚約者です。なので、一緒に強くなって、何れは村に帰って結婚します。そして、あたしは彼を補助するために一緒にきたので、勿論一緒のパーティに入ります」


「ふ~ん。で、参考までに新人可のパーティはあったかい?」


「あっ、はい。これがそのパーティの募集要項です」


 フォリーはしっかり自分の立場を伝え、候補先のメモを男に見せた。


「あー、ここは魔術士と槍士、ここは弓士と回復士、ここは剣士と魔術士……」


 男は事情通なのだろうか、何処のパーティがどの役職を必要としている分かっているようで、剣士と弓士を募集しているパーティがないことが判明してしまったのだ。


「どうしようクラージュ」


「僕たち二人が一緒に入れるパーティが募集をかけるまで、待つしかないっぽいね」


 困り顔のフォリーに、僕は気合を入れて毅然とした態度で答えた。


「それなら、俺のパーティに入るかい?」


 男はまたもや金髪を掻き上げ、爽やかにそんなことを言い出す。


「え、いいんですか? でも、指導に資格が必要ですよ」


「俺は持ってるから問題ないよ」


「本当ですか? ――ねぇクラージュ、あたしたち、一緒のパーティに入れるよ」


 フォリーは凄く嬉しそうだけど、僕はこの男が気に入らない。

 とはいえ、予定外の長旅で手持ちの資金も心許ない現状、無駄に時間を過ごすわけにはいかない。それなら、気に入らないとか関係なく、この男の指導で一日も早く僕が強くなればいいだけだ。

 見習いを卒業して、正式な冒険者になれば指導員は必要ない。

 そうなったら、パーティを抜ければいいだけのことだ。つまらない感情は捨てるに限る。


 気持ちと現状を天秤にかけ、僕は現実的(・・・)な方を選ぶことにした。


「フォリー、せっかくだからお世話になろうか」


「そうだね。――あのぉ、加入させてくれますか?」


「任せてよ。俺が立派な冒険者に育ててあげるから」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。――ほらクラージュも」


「……よろしくお願いします」


 こうして僕は、冒険者への足掛かりをようやく見付けた。


 それから自己紹介をして軽い遣り取りをした後、男は他のパーティメンバーを連れてくると言い、一度席を外して出て行く。


「良かったねクラージュ。でもアロガンさんにはビックリだよ。天帝様の息子で第十皇子とか凄い人だったんだね。そんな凄い人のパーティに入れたなんて、あたしたち運が良かったね」


 アロガンとは先ほどの男の名で、アロガン・ダンジェルー子爵という偉いお人らしい。

 とはいえ我がクラシーク天帝国は、皇子とはいっても形だけの爵位を持つだけで、皇族として特別な扱いは受けていない。子爵も名ばかりで領地もないようだ。

 十分な力を得て天帝の子と認められ、天子と呼ばれるようになって、初めて本当の皇族となる。と、アロガンは言っていた。


「それに、アロガンさんは子爵なのに、『俺たちは主従関係ではなく仲間だから、貴族に対する言動は要らないよ』って言ってくれたりして、凄く接し易くて、本当に良かったよ」


 形だけの皇子、名だけの子爵と言うが、それでも貴族に違いはない。

 僕たち平民からすると貴族はとても偉く、馴れ馴れしく話すことなど許されない存在と言えよう。

 そんな人から、『貴族に対する言動は要らない』と言われると、僕も『この人は良い人なのかな?』などと思ってしまうが、何というか、気持ち的には受け入れ難いものがあった。


「……そうだね」


 口にした言葉にも、乗り気でないことがありありと出てしまう。

 だが僕は決めたのだ。そんな気持ちがどうこうではなく、一日も早く強くなることだけを考えると。

 元々冒険者になるのも、強くなるという最大の目標があったからだ。フォリーが嬉しそうなのは良いことだが、彼女が嬉しそうだとか関係ない。むしろ、初心を思い出せて良かったくらいだ。



 その後は、アロガンが連れてきたメンバーと挨拶を交わした。

 メンバーは剣士、魔術士、回復士の三名の女性だ。

 ちなみにアロガンは、魔術も剣も使える、魔術剣士という凄いものらしい。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「ほら、あの受付のお姉さんの言葉を信じたばかりに、僕はアロガンのパーティに加入することになったんです」


「いや、アロガンは新人を受け入れられる立場だったんだから、何も問題ないだろう?」


「え? 僕は一度も指導を受けたことがないんですよ」


「――なっ! おい坊主、何で今までそれを俺に言わなかった?!」


「……あ、え、一応、僕が指導を受けていないこともパーティの内部情報じゃないですか? だからパーティ外の人であるオダスさんに言うのは拙いと思ってたんですけど……」


 冒険者パーティでは、自パーティの情報を外部に漏らすのはご法度だ。

 そのため、他パーティでありながら僕の面倒を見てくれていたオダスにも、指導を受けたことがないことを言うわけにはいかなかった。

 厳密には、脱退後も情報を漏らすのもいけない行為なのだが、これくらいの愚痴は言ってもいいだろう、と判断して口にしてみたのだが、オダスの反応が予想外で僕は少し驚いてしまう。


「坊主は物を知らなさ過ぎる。いいか、指導員にはギルドから補助金が出ている。それにも拘らず、指導をしていないと言うことはギルドを騙している行為だ。――坊主、アロガン行なった行為……明確には、するべきはずの指導を行なわなったことだが、それは明らかに規約違反だ。外部に漏らしてはいけないパーティの情報とは違うんだぞ」


 オダスの言うとおり、僕は自分が強くなることしか考えておらず、知識を得る努力をしなかったため、色々と知らないことが多い。そのゆえ、指導を受けていないことが規約違反だとか、本当に知らなかったのだ。


「すみません……」


「別に俺は謝って欲しいんじゃなくてだな……まぁいい。それより、坊主はこの五年間、冒険者としてどうやってきたんだ?」


「……あまり、記憶に残るようなことはないです」


「それでも言ってみろ」


「あ、はい……」


 オダスに促され、僕はパーティ時代の記憶を呼び起こした。

 もはやパーティ情報の漏洩防止などすっかり忘れ、思い出した記憶を僕は口に出していったのだ。


 お読み頂きありがとうございます。

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