廻る記憶の断片
ありがたいことに宿については、個別に二部屋も御者の青年がお礼に手配してくれた。
ひとまずは自分の部屋に集まって二人で今後の行動について話し合う。
「リイルの方は今後の予定決まった?」
「はい!冒険者としてこの街で依頼を受けつつほかの街について調べようと思っています。リアさんはどうなさるのですか?」
「特にはこれといった案は今の所決まっていないかな……」
「そうですか……でしたら今気が向いたことに挑戦するのもいいかもしれませんね。もしくは……」
「もしくは?」
先を促してみる。
「疲れをとるという名目で怠惰な一日を過ごしてから活動するという手もありますよ」
少し苦笑いが混ざったいたずらな笑みを浮かべてリイルはそう言った。
その後他愛もない会話をしてリイルは自分の部屋に戻って行った。
では明日はゆっくりと眠ることにしよう。
静か過ぎる程の白い部屋。
自分にとっては見慣れた部屋だが、恐らくほとんどの人にとっては見慣れることなど皆無な部屋である。
懐かしい光景を目の当たりにして、とある記憶が蘇る。
時々来る大人の人がよく励ますように「空は自由だ」と言っていたが、他の人にその自由の意味を聞くと誰一人としてその自由の意味を教えてくれる人はいなかった。
結局その言葉の真意は知らないままだ。
いったいどんな根拠をもとにしていたのだろう。
結局それについても知らないままだ。
そんな感傷に浸っていると、カツンカツンと静寂を破る足音が近づいてきた。
そして扉の前で止まった。
その誰かもわからぬ人物は扉越しに優しい声でこう言った。
「もう時間だよ。そろそろ帰らないといけないね。残念だよ、折角ここまで来れたのに。じゃあまた、今度は会えるといいね。さようなら」
その言葉を聞き終わるのと同時に目の前の景色は灰になって消えていった。
そして自分の視界も同じようにして消えていった。
「……て……きて……起きてください!リアさん!」
リイルの声が微かに聞こえてきたので目を覚ましてみると、そこには心配顔のリイルがベットのそばでこちらに手を伸ばしていた。
やはり先程のは夢だったのだろうか。
しばらく考え込みたいが隣に心配している人がいるのにそれはないだろうと思い、何事もなかったかのように振る舞う。
「おはよう」
「おはようじゃないですよ。もうこんばんはの時間です。良かった……三日ぶりに起きてくれて」
三日ならば自分にとっては日常茶飯事だ。
むしろいつもより少ないほどだ。
こんなことを言えば間違いなくリイルに怪しまれるので言わないでおく。
「そうですか……それはごめんね、心配掛けて」
「本当ですよ。静かだけど呼吸していたから生きているって分かりましたけど、遠くからみたら息が止まったようにしか見えなませんでしたよ」
息が止まっていたらほぼ死んでしまうのだが……
その後リイルの長い御説教が続いたのだった。
三時間も……
怒らせると恐いタイプの人かも知れないのでしっかりと心に留めておこう。
その翌日、今度は早くに起きてやりたいことを考える。
……………特にない。
どうしよう、何もする気が起きないなどと言うとこれまたリイルに何か言われそうなので、兎に角何かしなければ。
あっ!そうだ、久々に工作でもしよう。
多分これなら何かしていることになるので特に問題はないだろう。
さて、何を作るべきか……
この世界では魔法なるものが使えるのだ。
折角ならそれを生かせるものを作りたい。
軽くて、小さくて、持ち運びに苦労しないもの……
コイン……それだと持ち運ぶ理由があまり見当たらない。
身につけていてもあまり邪魔にならない程小さくて、持ち運ぶまたは身につける理由があるもの……
あっ!バッジか!
バッジなら身につけていても特におかしくはない……筈。
そうと決まれば、銀河の魔法袋から道具一式と材料になる金属諸々を取り出す。
取り敢えず適当に勘に任せて、様々な金属を選び出す。
鑑定を発動させてみると、魔法銀だのダマスカス鋼だの玉鋼だの日本では馴染みのある伝説の金属名が立ち並ぶという豪勢なことになっていた。
取り敢えずまたまた勘で金属をとある釜の中に入れていく。
どうやらこの釜は金属の合成をする機械のようだったので今回はふんだんに活用させて貰うことにしよう。
待つこと数分後……
釜の蓋を開けてみると、銀色に輝く綺麗な金属が釜のそこには沈んでいた。
不思議なことに釜の中にはその金属以外何もない。
どういう原理かは分からないがこの際気にしない。
ようやくバッジの加工に入ることにする。
まずはバッジ型に加工する必要があるか……
いやでも磁石のようにすれば表裏どちらとも使えるというより便利なものになる。
よし!そうしよう!
鏝のようなもので金属を変形させて形を変えていく。
あっという間に丸いメダルのようなものに加工できた。
それを幾つか作っていく。
ついでに魔法の回路を幾つも組み合わせて、とある回路に魔力を流すことで表裏の模様が別の物になる機能なども色々とつけてみる。
機能は多いことに越したことはない。
機能性重視の魔法金属製のバッジ。
今更ながら少し不思議な代物になりそうだ。
それから数時間後……
作業に没頭して気付くともう真昼になっていた。
それ程集中していたのだろう。
出来たての銀色のバッジを摘まみ上げてその出来栄えに微笑む。
通常時は表は銀河を思わせるような模様、裏側にはこの世界に存在し大規模な輪廻転生を行ったという銀翼の堕天使を想像して描いている。
別の模様のバージョンもあるがそれはまたの機会に……
出来たてのバッジを鑑定してみる。
〖銀天の変幻紋章〗
様々な特殊な金属を惜しげもなく使って作り上げられた意匠が凝らされた逸品。
身につけた者の魔力、魔法攻撃力を向上させる。
魔力を流すと様々な効果をもたらしてくれる。
何とも高性能なバッジが出来てしまった。
退屈しのぎ感覚で初めて、最後は熱中していたようだ。
これほどの出来栄えなら使用する上でも問題ないだろう。
思わぬ成果に気分が良くなって、今度は疲れて眠ってしまった。
空はまだ明るい時間帯だったが……