背中合わせの戦闘劇
篠突く雨降る、かつての大都市から帰還してから、お互いに合流を果たし、成果を報告し合う。
「私の方の成果としては、炎の形をした剣を発見したということですね」
「よかったらその剣を見せてくれない?」
「いいけれど……はいどうぞ」
渡された剣を受け取り、鑑定を発動させる。
〖炎闘剣・フランベルジュ〗
炎を模った剣
その燃え盛るような刀身は相手の肉を抉る一撃を放つ
「これはまた、とんでもない代物を見つけましたね」
「そんなに凄いの?」
「うん、並大抵の堅さなら肉を抉るようにして切り裂く刀身をもつ剣だからね」
「抉る……」
「まぁ、詳しいことについては後で話すとして、私の方の成果としては銀色の歯車を見つけた位かな」
「銀色の歯車?」
「うん、銀色の歯車だったよ。その歯車は私の心臓部分へと入り込んでしまったけど……」
「えっ!?大丈夫ですか!」
「うん、別に何ともないから大丈夫だよ。気にしないで」
「それならいいのですけれど……。無理は厳禁ですよ」
「ふふふっ、善処するよ」
「善処って……確約はしないのですね……。」
「それよりも、また移転魔法使うから早く魔方陣の中に入らないと置いて行かれるよ」
「えっ!?いつの間に!?今行くので待ってください」
慌ててリイルも魔方陣の中へと転がり込むような速さで走ってきた。
「次は人が居る場所だといいですね……」
隣で耳の痛くなることを言っているがここは聞こえなかったふりをしてやり過ごすことにしよう。
うん、聞こえなかった。
それでいいはず……多分。
「〖ランダムテレポート〗」
そして再び魔方陣は光を放ち、私達は移転した。
「また、誰もいませんね……」
あれ?また!?
いやいや、でも今度はさっきとは違う。
「まだ道があるだけいいじゃない。さっきよりはね……」
「いや、確かにそうですけど……ってあれ?北西方面に何か動いていますけど、あれ何でしょうかね?」
先程取得したスキル〖鷹の目〗を使い見てみると……
「馬車二台、交戦中の者がいる模様。交戦は魔物と冒険者と思わしき者達によるもの。現在魔物勢が優勢を保っているみたい」
何故か所々、上官への報告のようになってしまったが気にせずいこう。
「あの、戦いを見ているから心境の変化があってもおかしくないですけど、どうしたのですかその口調?」
「さあ、それは私に聞かれても……」
「えっ!?いやいや、自分の発言について私に質問で返されても困りますよ……。ってそれよりも早く助けに行かないと」
リイルはそう言いながら、交戦真っ只中の死地へと飛び込んでいった。
何も作戦とか立てていない気がするけど大丈夫だろうか。
仕方ないので、私もそれを追うように駆けていったがこのあからさまな脚力の差は何だろう。
どんどんと離れていくリイルの後ろ姿をただひたすらに追いかけていった。
距離が開く一方だったので、支援魔法を使いようやくリイルに追い着いたがお生憎様なことに、相手に対抗するための武術の心得などあるはずもない。
念のため、リイルにも聞いてみる。
「武術の心得かなにか持っている?」
「いえ、全く」
真顔でそんなことを堂々といわれても困るのだが……
仕方ない。変幻自在を使って武術の心得とかその辺りをを取得しておこう。
それと同じようなものをリイルにも掛けておく。
「では早速出発しようか。支援魔法を使っているから、これからはしっかりとした戦い方が出来るよ」
「了解しました」
「左側は戦線の崩壊が近い左側の守りを固める方針で行こう」
「了解しました。では右側は御願いしますね」
「勿論……といいたい所だけど……戦闘経験ないからなぁ」
「私も同じようなものなのでお互い頑張りましょう」
「そうですね。まずは目前の問題を見据えるべきだよね」
袋の中から、適当に鉄の槍を取り出す。
支援魔法を掛けているから持てているがなかった場合は、振り回す事すら出来ないかも知れない。
武器についではまた後で考えよう。
まず排除すべき敵は、深手を負った者、もしくは厄介な者、そして強者だ。
数を減らさせる、手数を減らさせる、そして大本の戦力を削ぐ。
自分が考えうる選択肢のなかから咄嗟に浮かんだ考えはたったこれだけだったがまずは、深手を負った者から排除して、数を減らすべきだろう。
包囲されてはたまったものではない。
リイルの方は初めて使う剣を手に持ち、そのまま滑るようにして敵の空いた懐に飛び込み、斬り伏せる。
そのまま、左へ右へと滑らかに剣を滑らせて敵を切り裂いていく。
見てみた所、向こうも問題なく対処出来ているようだ。
此方も負けずに、的確に心臓部の辺りを寸分狂わず狙い突いていく。
また一体、また一体と少しずつだが着実に数を減らしていく。
これなら差し支えなくこの方針でいけるはずだ。
すると、冒険者と思わしき人から
「加勢してくれて助かるよ。ゴブリンとはいえ、さすがにこの数は多すぎる」
「そのようですね。この数を退けるのは骨が折れそうです」
そんな言葉を交わしながらも集中を切らさずに着実に敵兵を減らしていく。
その甲斐あってか、あれ程いたゴブリンも今となっては疎らにしか存在していない。
だが此方も着実に消耗していっている。
気づけばリイルと背中合わせになり、辺りをゴブリンに囲まれてしまっている。
その十体前後。
先程までにいたのは、合わせてゴブリン48体という六人パーティー八つ分に相当する多さだ。
その内10体ずつ自分とリイルで倒したので残りは28体。
それから冒険者達が退治していたので合計で12体。
だから今残っているゴブリンは16体。
その内4体は冒険者達が引き付けてくれているが、残りは全てこちら側へと迫ってきている。
正直な所をいうとかなり怖い。
何せ武器を持った人間型の魔物が此方へとゾロゾロと侵攻してきているのだ。
かなり切迫感があるので尚更といったところだ。
「はっ!せいっ!」
威勢のいいかけ声と共に、炎闘剣を振り抜くリイル。
此方も負けていられない。
相手の心臓部を目がけて槍を突き通す。
心臓部を狙うことは、殆どの相手を一撃で仕留めることが出来るので殲滅の効率が上がる。
敵に囲まれてしまっているこの状況では一刻も早く敵の数を減らしたいので、この戦法を生かしやすいのだ。
一撃で仕留められたゴブリン達は、心臓部を貫かれたことを理解するよりも早く絶命していた。
そしてあっという間にゴブリン達の数は減っていき、もう包囲と呼べるほどの戦力はなくなっていた。
そして冒険者達が引き付けていたゴブリン達も退治された為、此方側へと合流する。
これにより自分達を含む、仮の六人パーティーに対してゴブリンの残党兵が数体という、大勢のゴブリン達に襲われていた最初の状況から大きく形勢逆転していた。
後は残党を残らず片づけることにしよう。
冒険者達との話はそれからだ。
「炎よ、礫と成りて燃え上がれ 炎弾!」
冒険者パーティーの一人の魔法使いの少女が唱えた詠唱は初級魔法に分類される炎弾の筈だ。
魔道書には確かにそう書いてあった覚えがある。
ゴブリン達相手なら、数が少なくなれば初級魔法の方が魔力消費が少なくて、魔力を温存できるということだろう。
確かに効果は最大限に、消費は最小限に食い止めることが効率化するには不可欠な要素なので、ある意味間違っていない選択の一つなのかもしれない。
これを手抜きと言って侮る事なかれ。
相手に対して自分がどれ位の力量を持っていて、どれ位の力を使って行動を起こすか、という力配分が出来るということは実に効率的な方法だと思う。
いつでも全力というのも、絶対的に悪いとは言えないが、全力を使い果たして、一切の抵抗が出来なければ元も子もない。
そういう点では、“正しい”力配分が出来るということは計画的である、という事でもある。
“正しい”力配分ではないものは単なる手抜き、いわゆるサボタージュというものだ。
そんな事を考えている間に炎弾によって、三体のゴブリンが燃えて灰となった。
広範囲殲滅攻撃とは使いようによってはかなり便利なものかもしれない。
もちろん使い方を間違えれば不便極まりないものに成り下がってしまうが。
自分達は冒険者達の援護にまわることにした。
戦闘はその道の専門家に頼むのが一番だ。
今の状況であれば彼女達が最も力を発揮できる少数対少数の状況に持ち込めているので一気に形勢逆転を許すということは可能性的にはゼロではないがイレギュラーが無い限り、ほぼゼロに近いと言ってもいいかもしれない。
そして最後の一体となったゴブリンが剣で袈裟懸けに切られ絶命する。
「ようやく、これで最後が……皆怪我はないな」
「はい。特に異常はありません」
「こっちも問題はないよ」
「うん。問題なし」
「よし!これで一先ずこの場は切り抜ける事が出来たな」
「そのようです。切り抜ける事が出来た良かったですよ」
「はい。それも貴女方の御助力の御陰です。助かりました、有難う御座います」
満面に笑みを浮かべて魔法使いの少女が御礼を述べてきた。
ここは此方も温かい方法には温かい方法で返すべきだろう。
「此方こそどう致しまして。お互いに大きな怪我がなくて良かったですよ」
「ほんとです。怪我は冒険者稼業にとっては宿命であり、天敵のようなものですから。怪我が大きくなくて本当に良かったです」
「所で馬車の方は無事ですか」
「お蔭様で馬車は無事守り通せました」
やはり馬車の護衛の依頼の途中ということだろう。
だから馬車に近い敵から攻めていっていたのだ。
これで納得がいった。
御者が此方へと満面に笑みを浮かべて走ってきた。
気の優しそうな整った顔立ちの青年だ。
「これはこれは、冒険者の方々と助太刀頂いた皆様。素晴らしい戦いぶりで御座いました。宜しければ助太刀頂いた御二人方も残りの道ほどの護衛を共にしていただけませんか」
確かに護衛を引き受ければ何処かの街へはほぼ確実に辿り着ける。
これは大きな利点だ。
リイルにアイコンタクトを送ってみる。
すると静な頷きでかえされた。
「その依頼、喜んでお受け致します」
すると青年は途端に安堵した表情になった。
「良かったです。冒険者の皆様の負担も減らせるだけ減らしておいたほうが良いですから」
どうやらこの青年は少しお人好しのようだ。
その上小心者のような気がする。
ただの勘だが……
その後、馬車に揺られて冒険者達との話に耳を傾けるリイルとリアだった。