トリックスターと新魔術
彼を見送った後、特に話をする相手がいなくなったのでしばらく休憩して、次に何をするかを考えることにした。
まずは、貰ったローブと袋を使ってみることにしよう。
最初に貰ったローブを着てみる。
不思議なことにサイズはピッタリ合っていた。
なぜ私の服のサイズを知っているのか、とそのことに疑問を覚えつつも、まずはこの場所がどこか、それからこの場所を脱出するための道を探さなくてはならない。
「袋に何か役立つものが入っているといいけど……」
そう呟きながら袋の中を探ってみる。
その中から適当にひとふたつ取り出してみることにした。
まず一つ目は、分厚い本だった。
そして二つ目は、眼鏡だった。
まずその分厚い本を手に取ってみる。
だがその本に書かれてある文字は地球の文字とは違うものだった。
当然分かるはずもない。
そこで、先程取り出した銀縁眼鏡を掛けてもう一度本を見てみる。
すると、先程まで読めなかった文字が日本語に翻訳されていた。
眼鏡を外してみてみると、全く読めないので、先程は眼鏡の効果で翻訳されていたのだろう。
眼鏡を掛けたままその本を読んでみる。
まずパラパラと捲っていきながら流し読みをしてみる。
………
その中に書かれていた内、気になった単語がある。
〖魔法〗と〖スキル〗という単語だ。
まさかと思うが、この本は俗に言う魔道書という代物だろうか。
まずは適当にページを捲ってみる。
その中には、〖変化術〗や〖人化の術〗〖竜化術〗といった魔法やスキルもあったがまずは、〖魔法〗について書かれている所についていくつか見てみることにしよう。
幻惑魔法の一つに、〖変化〗という魔法があった。
詳しく読んでみることにしよう。
〖変化〗
自らの姿や、他者の姿を幻惑魔法で、別の姿に見せる。
変わるのは外見だけなので、触れられると〖変化〗が露呈してしまうことがある。
〖変化〗といえど、万能というわけではなさそうだ。
その点彼に教えて貰った〖変幻自在〗は、〖変化〗の短所とも言える外見だけしか変化しないという所を克服していることになる。
この際〖変幻自在〗についても調べておこう。
〖変幻自在〗
世界を常に波を起こし続けたトリックスターの異名を持つものが得意とする魔法
細胞単位で変わるため、完全なる別人になれる可能性を秘めている。
しかし、魂魄の内、魄は完全に変化できるが、魂は性格や人格等が同じなので、完全な別人を生み出すことは難しい。
トリックスターとは彼のことだろうか?
それに世界に波を起こす者という記述も気になる。
魂魄の内、魂までも生み出せるようになれば、別人も生み出せるのかも知れない。
魄については、完全に造り替えることが可能なら、無から生み出すこともできるかも知れない。
石から金を生み出す研究だった錬金術でもあるものから別の物質へと変えるというものだったと思うと途轍もない効果である。
試してみるのもいいかもしれないが、それよりも先にまずはあるものから別のものに変えてみる方を試してみよう。
恐る恐る自分の魂に〖変幻自在〗を使ってみる。
………。
すると、目の前にウィンドウのようなものが表示された。
そこには、魔法やスキルが大量に表示されており、その一番上には、「追加または削除する魔法・スキルを選択して下さい」と表示されていた。
恐らく、魂に魔法やスキルを追加したり、削除したりできるようだ。
だが、まだ確証がないので、そのウィンドウを閉じておく。
そして、再び自分のステータスを確認すると、固有魔法〖魂魄連鎖〗というものが表示されていた。
〖魂魄連鎖〗
魂と肉体を繋げることを目的とした魔法だが、普通の蘇生魔法ではなく、無から魂と肉体を生み出す魔法。
その際に、肉体の詳細や、魂に刻み込む情報を選択することができる。
無限大の可能性を持つ魔法。
死霊術にも錬金術にも属さない新たな分類〖魂魄術〗の魔法。
なんと、魂だけではなく、肉体についても設定することができるようだ。
だが、これ程の可能性を秘めている魔法であり、新たな分類となった〖魂魄術〗の一つということは、無闇矢鱈にひけらかすべきではない筈だ。
しっかりと隠蔽しておこう。
早速〖変幻自在〗と〖魂魄連鎖〗を併用して、スキルを取得してみる。
今回取得したスキルは、
〖極・鑑定〗
〖極・心眼の魂〗
〖極・天眼の魂〗
〖生命の眼〗
〖異世界言語翻訳〗
の五つだ。
その内三つは、鑑定系統で、一つは生命反応探知、もう一つはその名の通り翻訳というわけだ。
そんなこんなで、スキルを取得したので、まずは使ってみないと分からない。
まず、三つの鑑定系統スキルを同時に併用して、先程貰った袋とローブを鑑定してみる。
〖星月のローブ〗
…サイズ変更も可能、色合いも変えられる。
機能性も高い|(湿度調整・温度調整・隠蔽切替(存在そのものを隠すときと、中身だけを隠すとき)等々)
〖銀河の魔法袋〗
…殆どの世界の、殆どのものが入った魔法袋。
逆に殆どのものも入れることが出来る。
なんとも性能が高い、ローブと袋だった。
しっかりと肌身離さず持っておかねば。
その袋には、殆どのものが入れられると書いてあったので、先程飲んだ赤色の液体の入ったグラスも袋に入れておく。
後でしっかりと調べておこう。
さて、鑑定を終えたところでまた外へ出るために歩き出すことにしよう。
そう決意を固めて、荷物を整理しなおした。