甘ったれた子
最初で最後にするから、抱き着かせて――そう言うと、彼は少し目をぱちくりと瞬かせ、ん、と両手を広げてみせた。
今更な気恥ずかしさに躊躇しながらも、その腕に飛び込めば、決して強くない力で背中に手が回される。
込み上げてくるものを飲み下すように、鼻をすすっていると、トントンとあやすように背中を叩かれた。
何を言われたでもないのに、色々なものが溢れ、鼻からも目からも流れていく。
何で優しくするの、と理不尽な怒りすら込み上げてならない。
私は彼のことが好きだけれど、多分お兄ちゃんとして、兄のような存在として好きなだけなんだろうな、って分かっている。
彼と手を繋ぎたいし、頭を撫でてもらいたいし、こうして抱き締めさせて欲しいけれど、でもそれ以上のアレやコレを望んでいるわけではなかった。
こんな中学生――いや、今時の中学生ならもっと進んでるかもしれない――みたいな感情では、彼の隣に立てるような彼女にはなれない。
そう考えれば、付き合って、などという言葉は出て来ず、受け入れても貰えないのを理解しているからこそ、どうしたらいいのか分からない。
「……わからないよ」
自分に言い聞かせるような言葉が零れて、消えていく。
面倒くさいと思われていることだろう。
それでもきっと、彼は優しいから、ごめん、などとは言わず、ありがとう、と言ってくれる。
逃げるような私の言葉の端に気が付いて、気が付いた上で見ない振りをしてくれるのだ。
友人としてでもいいから引き止めて欲しい、だなんて、どこまでも都合のいい考えだと思う。
目を閉じて眉根を寄せる私に対して、彼は何も言わず、ただ私の頭を撫でてくれる。
いつまで、こうしていていいのだろう。
いっそ、ずっとずっと、このまま彼の熱に包まれていたい。
どうせ、そんな、ことは――。
「俺は別に、最後じゃなくても良いんだけど」
身じろいで見せれば、腕が緩んで彼と目が合った。
私は、瞬きを、一つ。
「本当に最後で良いの?」
彼は少し目を細めてそう言った。