屋敷にて
今は朝の6時。屋敷での岩崎様や女中への自己紹介まであと3時間ある。
何をしようか…
母に持たされた干し柿でも食べるか?
それとも将棋でも嗜もうか?
狂ったように叫ぶのも面白いな。
いや、やはりここは自己紹介の練習だろう。
八ツ菱本社ではなく、社宅とはいえ、失敗は許されない。俺の評価が父にも影響するのだ。
ここは一つ、気合いを入れよう。
「おはようございます!私の名前は 緒方 結弦です。この度御社に奉仕させて頂くことになり、大変感涙いたして居ります。御社の役に立てるよう、精進致しますので宜しくお願いいたします。」
これはどうだろう…? 少しかたいだろうか?
ここは情緒に溢れさせてみよう。
「うぃーす↑↑ あんたが桜華ちゃんに、秋菜ちゃん?かわいいね~。ハッピーうれピーよろぴくねー 。俺は結弦 気軽にユウくんって呼んでね!」
うん。これは殺されるな…
有明海に沈められるだろう。
しかも幼馴染だしお互い名前知ってるしな。
ここは風情ある自己紹介にしようか。
「おはようございます!
いろはにほへと ちるぬるを わかよたれそ
つねならむ うゐのおくやま けふこえて 御社に参りました! これから宜しくお願いします!
なので(?)、今の心情を詠みます。ゴホン あー、ああ、では詠みますね
見渡せば 桜な顔の 親父かな 少し春ある心地こそすれ。」
いや、いきなりいろは歌とか意味解らんし、親父の顔真っ赤で怒ってるじゃん…
しかも少し春らしい気持ちがするって、そんな事で春を感じるなよ…
はい。という訳で、つまらない暇潰しは終わりにして、はじめの案を採用しようと思う。
自己紹介はかたいくらいで丁度いい。
しかし、まだ時間があるな…
暇だとどうにも下らない事を考えてしまう癖がある。
ここは干し柿を食べながら、設計でもすることにしよう。
紙とペンを出す。干し柿を口に含む。モグモグおいしいれす(^q^)
じゃなくて!
真面目に設計をしよう。
いま描いている『これ』は、俺が帝都の学生だったときに、趣味で設計していたものだ。
特に従来の戦闘機にはない独自機構を取り入れてある。
しかし、実現性は皆無のため構想中である。
そして俺はこれから八ツ菱での飛行機開発に携わるだろう。
エリートが集まる技術部門でやっていくには全力を出すしかない。