歌姫の誕生
エウロペ地方
エギリア王国
暗いムトフェンの森の中
その見世物小屋はある–––
空が茜に染まり、衣装に身を包んだアニタさんが、控え室で化粧を始めた。
「あの、私…本当に大丈夫でしょうか?」
その問いかけにアニタさんは紅を引く手を止め私を見る。
「気にしなくても大丈夫よ。あんたは声も綺麗だし…それに、何かあっても私がなんとかしてあげるから」
アニタさんの優しく温かい手が頭の上に乗せられる。
と、その時私の背後の扉が開き団長が入ってきた。
「2人とも準備はいいかな?そろそろ始めたいと思うんだけど…」
「私は大丈夫よ」
「アリーチェは?」
「私もっ…大丈夫です!!!!」
「よし、じゃあ始めよう!
世にも奇妙な茶番劇を!!!」
あたりは闇に包まれ 見世物小屋の中は次第に人の声で賑わって行く。
そして
「皆様、本日もこのクラウディ・サーカス団のショーへようこそ!!
皆様はとても運が良い
本日より、我がサーカス団に新たな歌姫が入団いたしました!…」
団長が始まりの合図、そして、私の紹介を始める。
「彼女は生まれてすぐ、その異形なる脚により両親に捨てられ、このみすぼらしいサーカス団の裏。生い茂る草の上で、この世の全てを恨むように泣きじゃくっておりました。
付けられた名はA!名の無い赤子A!
そんな彼女醜い見た目とは裏腹にとても澄んだ美しい声を響かせる。
今宵皆さまにお届けいたしますは、そんな哀れなAの恐ろしく美しい歌声です!!!」
アニタさんに背中を押され歓声と拍手の飛び交うステージへと足を運ぶ。
これで、やっと脚が………