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H2Y  作者: 大塚めいと
9/22

Act 2-5 「ハルと予期せぬ来訪者」

廃旅館でのハル達。





 「やっぱりここ…漂流島だったんだ。」






 浜辺から離れ、休息のために廃屋が雑居するこの島で一際大きく目立つ「旅館黄土」に向かっていた。羽田さんに背負われながらこの島の正体を説明され、薄々感づいていた予想に確信を持つ。






 「そう、映画でこの場所を知ってな、ちょっと興味本位で来たんだが、まさか人が海から流れてくるなんて思わなかったよ。」






 私は映画や小説の影響力について思い出したことがあった。青木ヶ原樹海が自殺の名所になってしまった原因だ、人気小説の登場人物が青木ヶ原樹海で自殺するシーンがあり、それを模倣して自分の死に場所に樹海を選ぶ人間が後を絶たなくなったことがキッカケであると言われている。






 この漂流島も同じく。たまたま映画の題材に使われたことから一気に知名度を高めて、その現実離れしたフォルムに魅了された者、映画の登場人物と同じ場所に立ってみたいという者、はたまたかつての島民が亡霊となって現れるといったオカルトな噂を元に肝試しに来る者たちが殺到したのだろう。






 「それはちょっと意外ですね。」






 長身でがっちりとした体格、灰色のジャケットを纏い、有能な刑事を髣髴とさせる羽田さんの姿からは映画の舞台だからという理由でその場所にわざわざ駆けつけるような軽い趣味を持ち合わせているように見えなかったので、私にとっては驚きの理由だった。






 「言ってくれるな、そういう君はなぜこの島の浜辺なんかで寝てたんだ?」






 私は親友の為にツアーに参加したこと、そしてそのツアーで信じられない不運に襲われたことを説明した。






 「なるほどな…これは明日のビッグニュースになるだろうな。」






 「ひょっとしたらあの事故でかなりの人が死んじゃったのかも…結構沖に出た場所で事故ったから…。」






 そんな話をしているうちに、もしかしたらヒロは…。という、あってはならない思考が浮かびあがり、自責の念が再びこみ上がってしまった。






 「大丈夫!俺が必ず探し出す!心配すんな。」






 私の気持ちを察したのか、羽田さんは必死で安心させようと励ましの言葉をかけてくれた。






 「ほら、着いたぞ。」






 数十年前まではは旅館に使われていた灰色の建造物、入り口ドアのガラスは割れることなく、原型を留めている。受付ロビーと思われる場所には皮の剥げた座席が、綺麗に置かれていた。






 「ここなら大丈夫だろう。」






 旅館の床にはこの40年前から時が止まった島には似つかわしくない空のペットボトルや、今でもコンビニで見かけるような食品の空箱が乱雑に放置されていた。多分、ごく最近に羽田さんのように興味半分で上陸した者達が置きざりにしたのだろう。






 「不法上陸者達のキャンプ地点といった所か。」






 羽田はそんな事を喋りつつ、着ていたジャケットを脱ぎ私に手渡した。






 「クッションも無くて寝心地は最悪だろうけど、取り敢えずここで寝てな。」






 床はホコリとゴミだらけで寝る場所などどこにもないこの旅館内では、こんな埃だらけの座席でも上等の寝床に思える。






 「じゃあ、俺は君の友達を探しに行く、その間ここで休んでいるんだ。いいね。」






 「ありがとう、でもやっぱり私も一緒に…。」






 私は羽田さんの心遣いに感謝するも、やはりヒロの事が気になってしまう。今こうしている間にも、親友が命の危機に晒されているかも知れないのに、こんな所で寝ているなんて、あまりにも薄情ではないかと自分を責めてしまった。






 「待てって、気持ちは分かる。だけどな、この島は崩れかけた建物だの廃材だのがそこら中に散らかっていて歩き回るだけでも危険なんだ。しかも雨も降ってきている。それにな、ひょっとしたら君の友達はすでにこの辺りを歩きまわっていて、この場所に立ち寄るかも知れないだろ。」






 低音で、包みこむように優しく力強い声で羽田は私に言い聞かせる。






 「確かにそうだけど…。やっぱ………」






 突然のことだった。






 かすかではあるが、何か物音が聞こえた。






 私は喋ることを止め、その音の正体を探るべく、静寂を作り出す。






 何が起きたのか理解できなかった羽田さんも、外に響く雨音の中に一つの場違いな音を聞き取り、私が黙ってしまった理由を理解したようだ。






 「足音?」






 かくれんぼの最中のような緊張感。






 その音は旅館の二階から一階へと階段を降りる足音だった。






 「ヒロなの!?」






 階段に視線を向けて、足音の主に聞こえるように問いかけるも返答は無い、そして徐々に足音が大きくなり、その人物が近づいてくる。






 「え…!?」






 階段を一歩一歩下る足だけが見えた。上半身は私達の位置からは確認できない。






 その足は履き込んだ埃だらけのスポーツシューズと紺色のジーンズで構成されている。それはヒロの足ではないことを意味する。

私の反応を察し、足の主は友人では無いことを理解した羽田さんは黙って私の前に立った。






 膝、腰、腹、肩、首。正体不明の足音の主の体が、テレビ番組でシークレットゲストが登場する演出のようにゆっくりとあらわになり、とうとうその顔が明らかになると、緊張を切り裂く一言が旅館に響き渡った。






 「お客さん!!ここにいたんすか!」













実際「進撃の巨人」が軍艦島で撮影されたりもしましたね。

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