Act 2-3 「ハルと親友」
おんぶっていいよね。
「羽田さん、一つ聞かせて!」
空に浮かぶ灰色の雲の密度が濃くなり、小雨が少しずつ降りだしている。私は羽田さんのアメフト選手を思わせる大きな背中に背負われて、雨風を避けられるような場所を探索していた。
「いいよ、なんだ?」
先ほどの一件がまだ尾を引いているらしく、どこか気まずい感じに答える羽田さん。
「私の他に、誰かいなかった?」
もちろんヒロのことだ。他にも聞きたいことは山ほどあったけど、私にとってはここがどこなのか?羽田さんは何者なのか?という疑問よりもまずは親友の安否が一番に気掛かりだった。
「君以外誰もいなかったぞ。知り合いがいるのか?」
「親友なの!髪は長くて…あとメガネをしているの!でも、流されちゃってしてないかもしれない…一緒に船に乗って、それであの娘、たしか泳げないから…。」
羽田さん自身に悪気があったわけではないけど、あまりにもそっけなく希望を削がれたことで、つい感情が高ぶってしまった。
「おい!落ち着けって!」
「どうしよう…、ヒロに何かあったら…私…。」
遊覧船ツアーにあまり乗り気ではなかったヒロを半ば強引に誘ったことをひどく後悔していた。こんなことになるのなら、やめておけばよかった。
「大丈夫、大丈夫だって。君もこうやって無事だったんだ。君の親友もきっとどこかで無事でいるはずだ。」
羽田さんは泣きじゃくってしまった私に、番犬のように力強く、そして優しさを込めた口調で説明した。
「あの後ろの崖が見えるか?あの崖を挟んでもう一つ浜辺がある、君と同じように、海を流されて浜辺に打ち上げられたというのならきっとそこにいるはずだ。」
「本当なの?」
「本当だって。だけどな、そこまで歩いていくのは今の君にとっては重労働だ。結構遠いんだよ。だから君はとにかく休むんだ、その間に俺が君の親友を探しに行ってくる。だから泣くのをやめてくれ。」
羽田さんの必死の説得により、私は徐々に落ち着きを取り戻した。羽田さんの声は低く、たくましいが、一切のかすれもない爽やかな力強さがあり、包み込むような温かい優しさがあった。
「…ごめんなさい、取り乱しちゃって…羽田さんの言うとおりにするよ。」
「まぁ…、分かってくれりゃいいんだ…うん」
羽田さんは少し照れたらしい、背中から伝わる体温が若干温かみを増したように感じた。照れを隠すように羽田さんは不自然に声を張って喋りだし、ある一点に指を向けた。
「春美ちゃん、あれを見てくれ。」
私たちは浜辺から遠ざかり、街、いや、廃墟の見える方へと歩みを進めていた。羽田さんの指を指す方向には「旅館黄土」と風化で削り取られ、かすんだ文字が書かれた看板があった。その看板の示す建物は、シミだらけのコンクリートで築かれている4階建ての建造物が妙な威圧感を持ってたたずんでいる。
「あそこに雨宿りできる建物がある、とりあえずそこに行こう。」
旅 館 黄 土




