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H2Y  作者: 大塚めいと
6/22

Act 2-2 「ヒロと正体不明の誰か」

ヒロのターン。




 『出して!出してよぉ!』






 …あれ?ハルの声が聞こえる…でもなんか変だな…。






 ここは…学校?中学の頃の…体育館の横の倉庫?






 倉庫の中からだ…ハルの声が聞こえるのは…。






 『あんたさ、ちょっと調子乗りすぎだよねー。』






 『そーそー。』






 『あー、もうホントイライラする。』






 あいつら、確か中学の頃にやたらとハルにちょっかい出してた3人?






 あの倉庫、確か外からしか鍵があけられなくて…、ハルを倉庫に閉じ込めてるんだ。






 『ねぇ、そこの隙間からホース入るんじゃないの?』






 『いいねいいね。』






 『水攻めってワケですか?相変わらず悪ですねぇ旦那。』






 酷い!そんなことさせない!早く止めなきゃ!






 『お願い!助けて!』






 あれ?






 『自業自得。ハイ放水準備整いましたー。』






 おかしいな…体が動かないよ…






 『3・2・1…』






 なんで?なんで動かないの!






 『はい発射―!』






 しっかりして!動いてよ!私!






 「ハル━━━━━━━━━━!!」






 眼前に白い長方形がマス目を作る天井が写りこんだ。






 「夢…」






 悪夢から開放された安堵と共になんとも言えない違和感が襲った。わたしは暴走した遊覧船からはじき出され、その後浜辺に流れ着いた。そして足には大きな怪我。さらに極度の疲労によりそのまま意識を失ったはずだけど。






 「ここ…どこ?なんでわたし…ベッドで寝てるの…?」






 まず自分がいるはずの場所が違う。風景が違う。10畳程のコンクリート造りの部屋にベッドが8つきちんと整列されている。おそらく病室。そのうちの1つ、一番窓際のベッドに横たわっていたが、他の患者は誰一人といないようだ。






 さらに深い傷を負っていたハズの足にはしっかりと包帯が巻かれ、出血も止まっている。医療知識のある人間が適切な処置をしなければ出来ない芸当だった。






 助かったんだ…。






 誰かが浜辺で倒れている自分を見つけて、この病院まで運び、治療を施してくれたのだろう。そう考えた。






 「すいません、誰か、誰かいますか?」






 弱々しく声を上げながら病室の廊下へ歩み出て行く。だけどそこで目に映った光景はまだ自分は危機から脱していないことをしっかりと理解させてくれた。






 「何…?何なのこれは…」






 廊下の床はタイルが剥がれコンクリートが剥き出しになり、さらに壁に面した窓ガラスの殆どは粉砕され機能を失っている。まるでハリケーンの直撃を喰らったかのようにこの建造物はすでに死んでいた。






 筒抜けの窓からは遠くに廃墟の街並みが見え、この階が2階か3階くらいの高さであることを確認する。さらに院内を歩き回り、ガレキだらけの階段を降りると受付のロビーと思われる場所にたどり着く。






 「うそ…これってやっぱり…。」






 病室から廊下に出た瞬間、信じたくはない一つの可能性を思い当たっていた。しかし今、ロビーの壁に貼られたB2サイズ程のポスターを目の当たりにし、その可能性が確信に格上げされたのだった。






 ポスターはコーヒーをこぼしたように茶色く変色し、長い年月放置されていたことを物語っている。そして漫画に出てくる宝探しの地図のように島の形が描かれていた。その島の横には小さく「黄土島」と古風な書体の文字が記されている。






 「黄土島」つまり「漂流島」。






 遊覧船上からはチョコチップクッキーのように見えた小さな島。その時はまさか自分が足を踏み入れ、さらにその廃病院のベッドで眠りから覚めるというワンシーンを体感するとは夢のそのまた夢にも思わなかっただろう。






 事態にどう反応していいのか分からず、ただただポスターを見つめて立ち尽くしていた。






 わたしは自身を中心に360度ぐるりと見回す。天井、壁、最後に自分自身の手のひらを見つめ、自分が今、確実なリアルの世界に立っている事を確認した。

…そういえば。






 一つの疑問を抱いていたことを思い出し、それがキッカケにわたしの思考は正常を取り戻した。






 「一体………誰が私をここに運んだの?」






 足に怪我を負い、浜辺に倒れていた自分をここまで運びこみ、さらに治療までも施してくれた人物。その人物の正体は未だに不明だった。

そうだ…きっと…。きっとそうだ!






 その人物の心当たり。というよりもそうあって欲しいという願望が一気に湧き出た。






 「ハル━━━━━━ッ!!どこにいるのッ!?」






 右足の痛みを堪えながら病院内を走りまわった。いるかどうかも分からない親友の名前をこれ以上は出ないという大声を発しながら。






 「返事をして!」






 病院内のドアというドアを手当たり次第に開けては医療道具の残骸だけがはびこる灰色の空間を何度も目の当たりにし、落胆と不安が徐々に高まっていく。






 「いないの…?…どこなの?」






 ほとんどの部屋のチェックが終わり、残すは一階の一番奥、どんよりとした空気中に浮かび上がるように存在する大きな扉が待ち構えていた。この階でまだ調べていない唯一の部屋。しかし扉の上部にはめ込まれたプレートに記された三文字がハルの捜索に足止めをかける。






 …40年以上も経ってるのに…なんでこんなに文字がハッキリと残ってるの…?






 そのプレートの文字が風化されて読めなくなっていたらどんなに助かったか。






 霊安室……よりにもよって…。






 わたしはホラー映画を一度見たら最低3日間は夜中にトイレに行けなくなるほど、オカルトの類が苦手だ、そもそもこの廃病院をうろつくだけでも胃が口から飛び出してしまうような思いなのに。そんな折に追い打ちをかけるような戦慄スポットの出現と誘い。出来るのならば見て見ぬ振りをして回れ右で逃げ出したい所であったが、親友の捜索を諦めるわけにもいかない。






 「ハル…、そこにいるの…?」






 返事はない、だけどわずかな可能性を信じドアノブを右手で強く握り締め、一瞬ためらいながらも時計回りにノブをスナップする。そして強くドアを押し込む!

ドアの向こうの景色、それは希望でも絶望でも、どちらでもなかった。






 待ち構えていた光景はただ一つの予期しない[現実]。






 その[現実]は床にうつ伏せになり、背中に刃物が突き立てられ、やや黒味を帯びた赤いにじみを作りだしている。






 その[現実]は紛れもなく動かなくなった人の体。[死体]であった。














モデルはもちろん「軍艦島」

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