Act 2-1 「ハルと羽田省吾」
サブタイトルの頭に表記されている人物の主観になります。
今回はハル主観。
「…おい!…辺……を…ろっ!」
「しっか…しろ!」
『五月蝿いな…誰?』
「おい!起きて…れ!」
『もうちょっと寝かせてよ…』
「大丈…か?」
『叩かないでよ……………あれ?私って確か船に乗ってて…。』
「くそ!…こうなったら…。」
『この感触…え?私、今服を脱がされ…?』
「何するのっ!」
私は朦朧とする意識の中、渾身の力を込めて、右手を振り抜く。右手に何かが当たった。
「痛てぇ!」
どうやら人間の顔を張ったようだ、目を擦り、ピンぼけした視界が徐々に鮮明になっていくと、目の前には見知らぬ男がいた。
「…ふぅ、良かった、生きていたみたいだな。」
「良かったって………。」
私は状況を理解しようと記憶の整理を試みる。
私は先ほどまで遊覧船虹くらげ号洞窟ツアーの最中だったが、操縦士に異変が起き、制御不能の船が猛スピードで前を走っていた船に激突。乗船客は海に投げ出されてしまった。その直後のことはいまひとつ記憶が不鮮明である。おそらく他の乗客とぶつかった衝撃で意識を失ったのだろう。そして奇跡的にこの浜辺に打ち上げられて、さらに奇跡的に今目の前にいる180cmはあろう巨躯の男に助けられた。そして服を脱がされ…。
「…ッ!あんた!どさくさに紛れてなんてことすんの!」
「おいおい…ごっ…誤解しないでくれ!心臓マッサージ!心臓マッサージをしようとしただけだ!」
男は私の予想外のリアクションに戸惑い、思わず一歩後ずさりながら弁明した。
「しっ…心臓マッサージは、服を脱がさなくてもできるよ!」
「分かってるって!ただ手を当てる場所に丁度君の服のボタンがあって邪魔だったからそのボタンだけを外そうとしただけで…そしたら君の平手が飛んで来て…。君が海に浮かんでいるところをたまたま見つけて助けったてのに…。」
しっかりと自分に目を合わせて説明する男に一切の悪意を感じ取ることが出来なかった。私は猜疑心を緩め、改めて男の顔を見直してみる。
「………ごめんなさい、助けてくれてありがとう…。」
「まぁ…あの、分かってくれりゃいいんだ…うん。」
少し照れながら返事を返す男の姿に私は思わず笑いそうになってしまう。
「私、佐藤春美。あなたは?」
「俺は羽田、羽田章吾。」
「180cm以上はあろう巨躯の男」ってワードが好き。




