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H2Y  作者: 大塚めいと
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Act 1-2 「ヒロと洞窟ツアー」

洞窟っていいよね。





 「さっきメール送ったんだけど見てくれた?」






 夜11時30分、昼型の人間ならそろそろ自身を活動から休息へとシフトチェンジする時間帯、ハルからの電話でやや睡魔に襲われた体が覚醒する。






 「あれ、メールなんて来てないけど?」





 「あぁ、ごめんごめん、パソコンの方、今見れる?」






 わたしの携帯電話は世間的にはやや型遅れの物で、いわゆるPCサイトをお手軽に見れるものではなかった。ハルがわざわざパソコンの方にメールを送ったということは、携帯電話では閲覧できないサイトを紹介する場合か、もしくは高スペックの端末でなければ表示できない画像、及びデータを送信したということだ。






 「えーと、ちょっと待って、今見てみますよ。」






 風呂上りでやや湿り気を帯びた手でマウスを握ると、休止状態のノートパソコンの画面がうっすらと光を放ち、壁紙の三毛猫がしかめっ面でわたしを迎える。






 「えー…あ!来てたよメール。」





 「うん、じゃあメールに書いてあるアドレスに飛んでみて。」






 言われた通りにアドレスの示すサイトにアクセスすると、10秒ほどの間を置き、その正体が姿を現した。






 『遊覧船で見る神秘の洞窟ツアー(夏)』






 これでもかとあざといぐらいにミステリアスな雰囲気を醸し出す明朝体のロゴが画面中央に鎮座している。






 「ハル、これはひょっとして…。」





 「そう、洞窟。」






 さも当然のようにハルは声を張る。






 「なんか、その…大丈夫なんですか?このツアー。」






 出不精のわたしにとってこういった行事の参加にはまず「危険」がないのかが気がかりになる。ちょっとした山道のハイキングでさえ、迷子にならないか?とか、危険な川に落っこちないか?など必要以上の警戒を抱いてしまうのだ。






 「大丈夫大丈夫、ただ船に乗って海触洞窟を見るだけ。なんの問題もないって。」





 「う~ん……そうかな…?」






 わたしの性格を良く知っているハルは、この手の話に難色を示すことは想定内の反応だったらしい。そこでもう人押しの言葉を告げられる。






 「本当なら青木ヶ原樹海洞窟ツアーにしたかったんだけど、そっちの方が良かった?」





 「……………」






 3秒ほどの間。






 「……船がいいです。」






 わたしが難色を示す話題に乗せたい時、さらに難色を示す非道な話題を提供すれば、大体のケースで前者を受け入れることをハルは熟知していた。






 「じゃあ決まり!来週の土曜日にもう予約してあるから。」





 「来週?…しかも既に予約って…まだ心の準備が…。」




 

 「大丈夫だって、洞窟は良いところだって!」






 何をもって良いところと断言したのかは分からないけど、ハルの妙な説得力に圧倒されて話はドンドン進められてしまった。






 「じゃあ、また明日。おやすみ!」





 「はい…おやすみなさい。」






 わたしは度々ハルの行動に翻弄されてしまう、だけど過去に何度と気の乗らないことに付き合わされても結局は良い結果が残ることがお決まりだった。

わたしはもともとコンタクトレンズをしていたが、ハルに「メガネの方が良い。」と半ば強引に進められたことがある。





 始めは嫌々だったが、掛けて見ると確かにピッタリと似合っていた。今では自分でも気に入っている。家族の評判も良く「寛子に足りなかった何かがようやく揃った。」とまで言われるほど。





 ハルはわたしでも気づかない長所が手に取るように分かっているようだ。






 「まぁ、これで小説が面白くなれば良いか…!」






 60%の不安と40%の好奇心が入り混じった興奮で心が小躍りする。

けどホラー小説を書くときがあったら、黙っておこう…。と静かに誓う。作品のリアリティの為に、廃病院に連れて行かされる可能性も無いとは言えない。





 そんなことを考えていると、デスクトップ上で佇む三毛猫の顔がどことなく得体の知れない雰囲気を醸し出すように見えてしまい、全身に寒気が襲いかかってしまった。





 気を紛らわす為に20インチのテレビの電源を入れると丁度夜のニュース番組を不健康そうな顔のニュースキャスターが進行させていた。





 『6年前の9月26日、現金輸送車から2億円を盗み出される、いわゆる2億円事件の時効がいよいよ今月中に時効を成立させます…………』





 2億円事件、そんなこともあったなとニュースを見て当時を振り返る。





 今から6年前、ハルと出会う以前の小学5年生のわたしはおとなしいというより暗い、社交性とは一切縁がないような人間であった。





 他人と接することを大の苦手としていたのと相まって、信じられないほどの虚弱体質で鶏ガラのようにやせ細っていた。





 度々クラスの男子からの中傷の的に抜擢され、髪型と青白い顔かられ連想させ「貞子」とあだ名されていたこともある。





 今でもそう思い出したくない過去。





 その当時にこの2億円事件のニュースを見て

「2億円あれば、私の人生も少しは変わるだろうか…?」

などと考えていたものだ。






 だけど中学生の頃にハルと出会ってからは、不思議と体は丈夫になり、その太陽のような明るい気質に照らされ、暗い性格も少しずつ改善されていった。

わたしにとってハルの存在は、2億…いや何10億円と積まれても譲ることのできない、キラキラと輝く栄冠のようなものになっていた。







5年くらい前に書いた作品なので時代を感じる描写が多々……

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