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H2Y  作者: 大塚めいと
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Act 4-2 「ヨシヒコ」

ヒロのもう一人の人格「ヨシヒコ」





 おれはヨシヒコ、寛子の中のもう一つの自我といったところか。






 ある時、おれは寛子の心のとても強い感情と共に俺は誕生した。






 その感情の正体は「ハルを助けて!」という極めてシンプルな気持ちだ。






 寛子は中学の頃、秋元達からいじめを受けていたハルに対し、何一つ手を貸すことができずに傍観していた自分を責め続けていた。わたしが男だったら、わたしが強く頼れる人間だったら…ハルを助けることができるのに…。といった具合に寛子が頭の中に思い描いていた「強い人間」を具現化したもの、それがおれだ。






 ハルが体育館裏の倉庫に閉じ込められていた時、おれは初めて寛子の体を借りて「外の世界」へと出ることができた。






 寛子のいじめっ子に対する憎悪の怒りと、何もできなくただ立ち尽くしている自分への怒りが頂点に達して、無意識に体の主導権を俺に託したんだ。






 双葉に見舞ったときのように、おれは寛子の鞄の中からカッターナイフを取り出し、いじめっ子目掛けて投げつけた。もちろん命中はさせなかった。奴の首筋スレスレ、髪の毛を10本ほどカットする程度にしておいた。






 この時、おれは「外の世界」でも、寛子の妄想と同じ様な運動能力を発揮することができることに気付いた。寛子が筋骨隆々で謎の暗殺術の使い手だという中学生の男子の妄想の産物のような「設定」をおれに課したおかげだ。






 そしてその後、おれは自由に「外の世界」へと行き来する術を体得した。寛子には内緒で度々体を借りて、趣味の筋トレを楽しんだ。この趣味も寛子の妄想によるものだ、もう少しマシな設定はなかったのかと問いただしたいところだ、まぁおれ自身楽しんでいるわけだから文句は言わないでおこう。






 そんなことを繰り返してきたわけだが、ついにあの時が来たんだ、フェリーが事故を起こして漂流島に流されたあの日のことだ。






 右足の鋭い痛みとともに、おれは「外の世界」に放り出された。殺風景な浜辺に一人倒れていたおれは全く現状を把握できなかった。とりあえず右足の怪我をなんとか治療しなければならないと思い、応急処置のできる場所を探し、島の廃墟を彷徨った。






 しばらく歩きまわり、やっとのことで病院らしき建物を発見した。その建物の手前には大きな橋があり、それを渡らなければ病院にはたどり着けなかったが、運悪く橋は途中で途切れていて、向こう側までの4メートルの足場がなかったんだ。






 だからしょうがなくおれは向こう岸まで「飛ぶ」ことにした。寛子の貧弱な筋力でもダッシュのフォーム、踏み切るタイミングや空中での姿勢を改善すれば、楽々向こう岸までジャンプすることは可能だ。






 要は寛子は体をコントロールするセンスがかわいそうなほどに無いだけで、使いようによってはこれぐらいのジャンプは朝飯前だったのだ。






 病院内はもぬけのからで、誰一人としていなかったが、2階の病室で誰かが置き忘れたと思われるザックを発見した。その中には運よく応急用の包帯と消毒用のスプレーがあったので遠慮なく右足の治療に使わせてもらった。






 そして怪我の応急手当てが終わり、疲労と安心感で眠気が一気に湧き上がってそのまま眠りについてしまった。この時に羽田は一階でおれの気配に感づいたようだ。

記者の鹿取はこの間にこの廃病院に逃げ込み、霊安室でたまたま羽田の隠した2億円を発見して双葉に殺されてしまったんだ。






 そしておれが眠りについて体が目を覚ました時、人格は寛子の方に交代したわけだ。






 寛子が起きている間、おれの意識はずっと眠ったままかというと、そうではない。おれが活動している時は寛子の意識はずっと眠ったままだが、逆に寛子が活動しているときにはおれの意識もかすかにある。






 寛子が目に写したり耳で聞いた情報は断片的ではあるが脳内のおれの意識にも伝わってくる。だけどあの時、寛子は霊安室で死体の調査をしている時に初めておれの声が聞こえるようになった。






 寛子が聞いたという男の声は紛れもなくおれの声だ。寛子は始め、それが理解出来ずに気を失ったけど、目が覚めてお互いに脳内で会話が出来るようになったおれ達は協力してハルを捜すことにしたんだ。






 次におれが現れた時はハルも知っての通りだ。双葉のムカつく鼻っ柱に膝を突っ込ませた時だな。












ダニエル・キイス作品を参考にしました。

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