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H2Y  作者: 大塚めいと
17/22

Act 3-4 「羽田と2億円事件」

羽田のターン。





 俺は6年前、車でバイト先から家に帰る途中にたまたま交通事故を目撃した。俺とは反対車線から向かってくる小型トラックに交差点で信号無視をした軽トラックが横から衝突した。






 深夜の出来事だ。車の通りも少ない道で目撃者は俺だけ。一大事だと思い、俺はすぐに車から降り、事故現場に近寄った。






 運転手は双方意識がないようだった、ぐったりと動かないままだ。とりあえず車から燃料が漏れていないか確認するため小型トラックの裏に回った。

すると信じられない物が目の前に写った。






 金だ。現金だ。






 小型トラックのコンテナの扉が衝撃で開き、その隙間からジェラルミンケースが一つ半開きの状態で飛び出している。






 そしてジェラルミンケースの隙間からは紛れもない1万円の紙幣が風になびいて飛ばされていた。信じられない光景を目の当たりにした。

そして現実とは思えないシチュエーションに対して、俺は最悪の行動をとってしまった。






 救急車も警察も呼ばず、双方の運転手に声をかけることなく、そのジェラルミンケースを一つ車に積み込んでその場を立ち去ってしまったんだ。

数日間俺は悩んだ。衝動的に行ってしまったこの愚行を恥じた。






 ニュースでは自分が見殺しにした運転手の名前をキャスターが読み上げていた。軽トラックに乗っていた方の運転手だ。俺があの時助けていれば死ななかったかもしれない。

そう思うと目の前にある2億円の札束の山がとても恐ろしく怨念じみた空気を発しているように見え、それから毎晩夢に見殺しにした運転手が現れるようになり、うなされた。






 さらにあの小型トラックは現金輸送車だったこともニュースで知った。当然2億円が消えていることもバレて、それを持ち去った犯人を警察が追っている。






 俺は2億円を使えなかった、勇気がなかった。この金を使ったら、警察に捕まってしまうと思った。かと言って目の前の大金をみすみす手放すこともできなかった、チキン野郎を絵に描いたような情けなさだ。






 しかし散々悩みに悩み続けて俺は一つの妥協案に行き着いた。実は過去に俺は廃墟好きな変な友達と漂流島に忍びこんだことがあった、何十年も前から無人のこの島は、人が訪れることはまず無いし建物も殆どは朽ち果ててはいるものの、当時のままの威厳を保っている。この場所に何かを隠したら絶対に見つかることはないだろう、そんな風に思いながら島内を歩きまわっていたことを思い出したんだ。






 だから俺は再び漂流島に出向き、2億円を時効までこの漂流島の廃病院に隠そうとしたんだ。時効が過ぎれば堂々と金が使えると同時に、見殺しにした運転手の怨念も消えるだろうと、自分に言い聞かせた。






 浅はかだった。






 その当時の漂流島は地元の人間でもまず近寄ることもなく、観光客なんて本当にごくごく一部の物好きな人間が年に一人か二人上陸するぐらいの物だった。

忘れられた島の廃病院のさらに霊安室。






 その床下に穴を作り2億円を隠した。そして時効が過ぎた頃に再び上陸し、金を回収する予定だった。






 そして半年前、大きな誤算が生じた。「ダブルフィクション」が映画で放映されたことだ。






 その映画の舞台は今まで全く知られていなかった漂流島。その影響を受けて島に訪れる観光客が増えてしまった。






 俺は焦った。






 誰も見向きもされない孤島が今最も注目を浴びるホットスポットになってしまったのだから。






 ある時テレビ番組で過去に撮影された漂流島の映像が流れ、たまたま、あの廃病院の姿が映り出された時、体中に戦慄が走った。






 俺は金を回収することを決心した。時効はまだ少し先だけど、このまま放っておいたらいつか誰かに見つかってしまうと恐れたからだ。






 そして今日、再び俺はこの島に足を踏み入れた、その時に船渡しを依頼したのが双葉だ。金を回収する為に俺はボストンバッグを持参した。行きで空っぽだったバッグが帰りになってパンパンに膨らんでいたら双葉に怪しまれると思い、行きの船では毛布をバッグに敷き詰めていたんだ。今思えば逆に怪しかったかもしれん。






 島に上陸し、1時間もかかって廃病院にやっと辿り着いた。廃病院に渡してある橋が途中で途切れていて、向こう側に架ける物を探すのに時間がかかったからだ。

廃病院に足を踏み入れると以前に来た時よりもゴミが散らかって人が出入りした後が残っていた。もしかしたらすでに誰かが金を見つけてしまったかも知れないという不安がよぎり、急いで霊安室に向かおうとした、その時だった。






 上の階で物音がした、誰かは分からないが、人間の気配を感じた。一体誰がこんな所に?俺は不安になり2階に上がってその気配の正体を探ることにした。ゆっくりと階段を上がり、部屋を一つずつ確かめていたら、なんと今度は1階から足音が聴こえた、しかもその足音は激しく、走り回っているような音だ。

さっきまで2階にいた人物がいつの間に下に?心霊現象のような体験をしているのかと思った。






 俺の不安は限界にまで達し、しばらくの間その場を動けずにいた。だがこの場にずっと立ちつくしている訳にはいかない、とにかく霊安室に向かい、6年前に埋蔵した2億円を回収しなければならない。






 意を決して1階の霊安室に向かい、その重い扉を開くと予想外の光景が飛び込んだ、床板が外され剥きだしになった2億円の札束、そしてその傍らには見たことも無い女が座りこんで驚愕の眼差しでこっちを凝視している。






 一瞬の間の後、彼女が悲鳴を上げた、俺は何が何だか理解できず、思わず手に持っていたボストンバッグを投げつけ、2億円を発見されてしまったショックと彼女の、何かとてつもなく恐ろしい物を見てしまったかのような悲鳴で気が動転し、無我夢中で廃病院から飛び出した。






 寛子ちゃんの話によれば彼女はその後に双葉に殺されてしまったらしい。彼女の手に握られていたボタンが双葉のシャツについていた物と同じだったことと双葉の手に爪の引っ掻き傷が付いていたのが証拠だ。そして2億円は、双葉によって回収された。後でこの廃旅館に隠すつもりだったんだろう。






 隠していた2億円を見つけられてしまった俺は、一体その後どうすれば良いのかワケがわからず途方に暮れていた。彼女は警察に金を届けるのだろうか?半分の1億円を彼女に口止めとして渡そうか、なんてことを考えながらとうとう島の海岸まで歩いて来てしまった。そこで俺は見つけたんだ、海上に漂っている春美ちゃんを。

その後は知っての通りだろう。






 俺は春美ちゃんを(2億円を隠しに来た直後の)双葉と廃旅館に残し、寛子ちゃんを捜しに行くという建前で廃病院に向かい、霊安室の女を探しに行ったんだ。とにかく2億円が気になってしょうがなかった。そして、そこではち合わせた。ちょうど廃病院前の橋に、脚立を架けて渡りきった寛子ちゃんに。






 春美ちゃんに事前に聞いていた特徴にぴったり一致していたから、一目でこの娘が寛子ちゃんだと分かった。俺が春美ちゃんのことを知っていることを告げると俺に対して警戒を解いてくれたけど、まず寛子ちゃんは俺の手とシャツのボタンをチェックした。






 その時は意味不明だったけど、今になったらその理由が分かる。






 そして廃旅館に春美ちゃんが双葉と一緒にいることを説明したら、「その人が犯人かもしれない!急いで案内して!」って俺を急かしたんだ。

ワケが分からなかったけど、廃旅館に戻る途中で寛子ちゃんに霊安室の女が殺されていたことと、2億円を隠していた床穴が空っぽだったことを聞いて一つの仮説が初めて成り立ったんだ。






 双葉があの霊安室の女を殺し、2億円を強奪したのだと。












モデルはもちろん「3億円事件」

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