Act 2-6 「ヒロの好奇心」
ヒロがUターン。
わたしは一度危険地帯と判断し、脱兎の如く逃げ出した病院に、再び足を踏み入れた。
「ハル…いるの?いたら返事して…。」
燃えるような士気で廃病院に向かったものの、徐々に建物に近づくにつれて、例の[死体]の姿を思い出してしまい、すっかり腰が引けてしまった。
幽霊屋敷を進むように一歩進んでは後方を確認し、また一歩進んではまた後ろを振り返るといった具合に病院内を慎重に、ゆっくりと探索した。
ハル以外は誰も出てこないで…お願いだから…。
1時間近く経っただろうか、外はいよいよ暗くなって、嵐の様に雨の勢いはさらに激しくなっていた。
廃病院内を再び歩きまわりハルの名前を呼び渡ったものの。残念ながらハルの姿は確認出来なかった。だけど幾つかの収穫はあった。
まずは百円ライターとロウソクを事務室らしき部屋で発見した。過去に興味半分でこの廃病院にやってきた者が置いていった物だろう。ゴミのポイ捨ては本来マナー違反だけど今のわたしにとってはこれ以上ない贈り物だ。
すっかり日が落ちてきて暗くなり始めた。本来ならば携帯電話で時刻を確認しておきたいところだけど、海水にまみれて携帯電話は電源を入れることも出来ないただのガラクタと化してしまった。
ハルは一体どこにいるのだろう。
浜辺で倒れていたわたしを助けた人物がハルだったならこの廃病院内にいるハズなのに。ひょっとしたら、そもそもわたしを助けた人物はハルじゃなく、別の人物なのだろうか?
遊覧船には多くの乗客がいた、たまたま同じようにこの島に流れ着いてわたしを助けたという可能性もある。
それによく考えたらハルもこの島に流れ着いたという確証など一つも無い。
さらにあの…霊安室の死体。
誰が何のために殺したのか…もっといえばどうやってあの橋を渡ったのか……
とにかくこの廃病院に止まっていては何も始まらない。そろそろ最後の最後まで後回しにしていた霊安室に行って橋に架ける脚立を調達しなくては、日が落ちて暗くなったら橋を渡る際に非常に危険だ。
「霊安室…行くしかないか…。」
長時間この廃病院を駆け巡り、陰湿なオカルトめいた雰囲気にはすっかり慣れた。だけど死体が放置されていると分かっている部屋に再び足を踏み入れるとなると話は別、怖くないと言ったら真っ赤な嘘になる。
やや辺りに暗みがかかってきたのでロウソクに火を付けてゆっくりと、霊安室へ足を漕ぎ出し、再び忌まわしき小部屋の前に辿り着いた。
扉の上のプレートに書かれた「霊安室」という表記をもう一度確認する。やっぱりどう見ても間違いなく霊安室だった。
一呼吸置いた後、肩でタックルをように、ゆっくりと扉に体重を乗せ、部屋の中に光を入れる。淡い光が部屋を照らし、視界を作る。
そこにあったのは先ほどと変わらない光景。
[死体]が一つだけ。
どういうことだろうか?再びお目にかかる[死体]は初見ほど驚愕を呼び起こす存在では無くなっていた。もはやただ知らない人間が冷たい床の上で海底の如く深い眠りについているだけ、という印象でしかなかった。
「なんだ…」と、自分でも良くわからない安心感が湧き出た。
一つ深呼吸をし、もう一度じっくり、霊安室の状況を観察する。
部屋の広さは八畳ほどで、窓は無い。奥にはわたしが橋に架けようとした大きな脚立が一つ。そして何に使っていたかはあまり考えたくはないテーブルが一脚、部屋の角にピッタリとはまるように置かれていた。そのテーブルの上にはリュックサックが一つ場違いな存在感を発揮している。
この脚立があればあの橋を渡れる。本来ならそれだけの用事で終わるハズだった。
だけどテーブルの上のリュックサックが妙に気になってしょうがない。多分このリュックの持ち主はこの[死体]なのだろう。リュックの中にこの[死体]の正体に繋がる物が入っているのかもしれない。その考えに至った瞬間、妙な高揚感が湧き上がってきた。
わたしは推理小説が好きだ。そのせいかもしれないけど今、わたしの手でこの[死体]の正体、及び殺人犯の真相を解き明かしたくなった。
わたしの中の血が騒ぎ、好奇心が恐怖に打ち勝った。
実際密室で死体に閉じ込められた滅茶苦茶怖いと思う。




