Act 0 「気が付いたら孤独」
他サイトで掲載していた作品を引っ越ししたモノです。
気が付いたら孤独だった。
全身に海水を浴びたわたしの体には、砂鉄を吸い付けた磁石のように砂利の混じった砂を隈なくまとい、鈍い痛みと猛烈な疲労が体中を巡回していた。
空には煙突の煙のような雲が鈍い笑みでこちらを見落とし、後方にはやや怒りを帯びたさざなみが背後でゆっくりと叫んでいる。
どう仕様も無い状況、希望は今の所まだ死んではいないということが確認出来たことのみ。
それ以外はまさに救いようがない。
どこなの?・・・ここ・・・。
もうろうとする意識の中、自問自答する。
ほんのわずかに残された力を振り絞り、片膝をつき頭を持ち上げると、視界に入ってきたのは文字通りの灰色を帯びたビル。一棟や二棟では収まらない、コンクリートで出来た直方体の群衆がそこにあった。
建物がある!人がいる!
と、安堵の言葉を心中でつぶやいたものの、わたしはその状況にある違和感により、素直に喜ぶことができなかった。
なぜならそのビル群が醸し出す印象は人々が生活を営む「街」ではなく、放棄され放置された「廃墟」という言葉がよく似合う物であったからだ。
「痛ッ…!」
思わずその言葉を声にでてしまった。
その原因は起き上がった時に始めて分かったのだが、右足のふくらはぎにその長さ15㎝はあるかと思われる大きな傷がナマズの大口のようにぱっくりと開かれ、血液が滲みだしていたからである。
早く手当てしなきゃ…消毒しなきゃ…
焦る、だが立ち上がろうとした瞬間、体がジェンガのように崩れ落ちる。疲労は想像以上の物であった。
「ちょっと待って…」
「どうしこんなことになっちゃったんだっけ…」
消毒しなきゃ!