出会いへの布石
お久しぶりです。私です。
前回の次回予告は嘘だ。
ごめんなさい。
相変わらずの亀更新でございますが、お楽しみいただけたら幸いです。どうぞ。
「…なーんかさぁ、急に元気良くなったよな。あいつら」
「あーそれ蒲公英も思った。すごいよねえ、やる気に満ち溢れてるもん」
「楽進……あー、凪の目とか見たか?ギッラギラしてたぜ、ちょっと怖かったもんな」
「そうだねぇ…。獲物を見つけた時の熊みたいだったよ、ちょっと近寄るの躊躇っちゃった」
成都に備えられた馬小屋にて、馬達の世話をしながら会話を弾ませるのはポニーテールのよく似合う西涼出身、現在は蜀で将を担っている『馬超』・真名を『翠』、『馬岱』・真名を『蒲公英』――の二人。
二人は馬達の手入れを行いながら今朝の魏の面々について語っていた。
翠が楽進の真名を呼んでいるのは、先日行われた三国会議の場で華琳直々にこれからこの大陸を統べていく同胞として魏の面々の真名を呼ぶことを許された為だ。勿論蜀、呉の皆もそれぞれ真名を呼び合う事を許した。
「なんだっけ。北郷…なんとかだったか?詳しい話は良く分からなかったけど、そいつが帰ってくるーだのなんだの」
「えー、もう忘れちゃったの?『北郷一刀』さんだよ。忘れるの早いよ流石に」
「そうだったそうだった、そんな名前だったな。いやー、正直な話…あんまり興味なくて…あはは…」
「うわーー…、それ魏のみんなの前で言っちゃダメだからね?多分物凄い事になっちゃうよ…」
「え?なんでだよ。別に問題ないだろ」
「そんなんだから脳筋とか言われるんだよ」
「あたしを焔耶と一緒にするなよ!」
「いやいやいや別にそこまで言ってないんだけど!やめてよ!蒲公英が悪いみたいになっちゃうじゃん!」
「いーや今のは一緒にしてた、馬鹿にしてんだろ!」
「そういう思い込みの激しいところとか、戦じゃ猪武者なところとかが脳筋だって言われるんだよ!?」
「だから一緒にすんなって!!!」
「「ブォウヒヒーーーーーン!!!!!!!!!」」
「わわっ、ごめんごめんお姉様が大きな声出してびっくりしちゃったよね」
「ちょっ、あたしの所為かっ……あぁすまん驚いたよなごめんな」
特定の人物にとても失礼な会話がヒートアップしてしまい、醜い言い争いを耳にした馬が驚き落ち着きを失くす。
馬の扱いに長けた二人は直ぐに手入れを再開し馬を落ち着かせ小屋に静けさが戻った。
「もう、もし本人に聞かれてたらどうするつもりだったのお姉様」
「いやだって脳筋とか言われたからさぁ…」
「焔耶が聞いてたら絶対蒲公英が被害に遭うし手入れどころじゃなくなってたんだからね!」
「うっ、いやでもそれは」
「でもも何もないよー!」
先ほどから会話に上がっている『焔耶』という人物は、同じく蜀に務める魏延と呼ばれる将の一人。その性格は武力一辺倒な節があるためいつも蒲公英に脳筋と揶揄われている。
それ故か焔耶は蒲公英を目の敵にしており、蒲公英はこの場で闘争(喧嘩)に発展する事を危惧していた。
「なんか話が逸れてたな。アレだ、ほん………ほん………………なんだっけ」
「逸らしたのは大部分がお姉様の所為だし、あと北郷一刀さんだってば何回言わせるの」
「いやさ、あんまり興味なくて…ははは」
「もうそのくだりやったし、繰り返すつもりなの?」
「そういうつもりじゃなくてさ、良くわかんねえんだよな。なんであんなに皆元気になったのかが」
「それはそうでしょ。蒲公英たちは北郷一刀さんの事よく知らないわけだし」
「でもさ、不思議じゃないか?たった一人の男にアレだぞ?周りが女っ気一色だったあの華琳がだぞ?
確かに居なくなった仲間が帰ってくるってなったら嬉しいだろうさ。んでもなあ…あそこまでなあ…」
魏に降り立った一刀は魏の女性たちと様々な出会い、道のりを歩み、愛を育んだ。
その詳細を知らず、ましてや恋など経験したことの無い翠には理解の及ぶ範疇ではないのは当然の事である。
確かに蜀の皆は戦乱を駆け抜けた掛け替えの無い戦友である。しかし、それは恋に発展するものでは到底無い。
「そんなに気になるなら聞けばいいじゃん本人達にさ」
「惚れた腫れたってのは全然分かんねえけど…んーー、ま。それもそうだな」
翠は作業に集中するためか、会話を切る。
蒲公英はそんな姉を見て自らも馬に向き合った。
(こんなお姉様でも、北郷一刀さんと出会ったら何か変わるのかなあ)
(…無いか。集中しよ)
想像もできない未来に否を下した蒲公英。
―――少し先の未来、姉どころか自分まで出会いにより変わっていく事を彼女は知る由も無かった。
「へっぷし!」
「どうしたの焔耶ちゃん、風邪?」
「いえいえ、そんなモノにかかるほどヤワに鍛えてません!」
「むー、そうじゃなくて。気を付けてね?」
「心配をして頂けるなんて、やはりお優しいのですね!大丈夫です!きっとどこぞの誰かが噂しているだけの事です!」
「……うーん」
そして彼女も、自分の与り知らぬ場所で罵られている事を知る由も無かった。
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「なーんかさ、面白い事が起こりそうな予感がしない?」
「なんだ、また妙な勘か?」
「何よ、妙って。酷くない?」
「お前の勘を妙と例えずなんと言う?私達からしたら最早不気味な域だぞ」
「ちょっと、そこまで言うの?というか達って何よ、貴方たちもそう思ってるの?」
「えっと……シャオも雪蓮姉さまの勘はもう怖いぐらいかなーーって」
「ちょっ」
「私も…ちょっと…」
「蓮華まで!?…ちょっと冥琳、なんで笑いを堪えてるのよ!もしかして最初から馬鹿にしてた!?」
「いや……くっ、別に笑ってなど…ふふっ、くっ…いない…」
「ほら笑ってるじゃない!まっっったく堪えきれてないわよ!」
街を歩くのは露出度の高い服を着た4人の女性。
呉を統べてきた元王、『孫策』・真名を雪蓮
家督を譲り受け、現在呉を統べる王として成った現王、『孫権』・真名を『蓮華』
孫策と旧き仲であり、軍師として呉を支え続ける筆頭軍師、『周瑜』・真名を『冥琳』
そして孫策、孫権と続く姉妹の末の妹、『孫尚香』・真名を『小蓮』
孫策―――雪蓮の不意の一言からそれは始まった。
「いいですー、別に。皆が私の事どう思ってるのかよぉぉぉぉく分かりましたー」
「まあそう拗ねるな。ちょっとした戯れに過ぎないだろう?」
「その戯れで心が深く傷ついたわよ。もっと優しさってものはないの?」
「それは姉さまの普段の行いの所為では…?」
「…蓮華。明日から私と鍛錬ね。もちろん本気出すから。あと使うのは真剣」
「流石に死にます!!!!!!」
「…シャオ知ーらない」
「シャオもさっき怖いとか言ってたじゃない。ほぼ同罪よ」
「えええええーー!!!?」
「落ち着け雪蓮。ほら、先ほどの予感とやらは何なんだ?」
「あっ!露骨に話逸らそうとしてるわね!?」
「シャ、シャオも気になるかなーって!」
「わ、私も詳しく聞きたい所存です!」
「何よシャオも蓮華も、蓮華に至っては語調がおかしいわよ、取り繕えてないわよ」
「ほら雪蓮、続きを聞かせてくれ」
「何なのよもう…さっきまで妙だの不気味だの言ってた癖に…」
あからさまな話題の転換。
これ以上長引かせると絶対に不利益な事しか待っていない事が簡単に予想できた為、蓮華と小蓮は冥琳の発言に賛同した。
当の本人は不服そうながらも、これ以上追及する事をやめたのか、元々話すつもりだったのか流れを戻す。
「…………そうね。さっき予感って言ったけど、正しくは違うわ。これは……『確信』」
「ほう?」
「戦乱は終わって新しい時代が始まったけど、この確信はこれから先のこの国の未来に対してもだけど、
『私達』、王や将、文官達に向けて新しい風が吹く」
そう続ける雪蓮は遠く続く空を眩しそうに見つける
「新しい、風…」
「そう。何もかも変わる、でも決して悪い物ではない…良い方向へと引っ張って行ってくれる『風』」
「うーーん…?」
「まあ私もただ確信してるってだけだから、漠然としてるんだけど。きっとそう」
蓮華と小蓮はいまいちピンと来ていない様子だったが、冥琳だけはその話を真面目に聞いていた。
「悪い物ではない、か……、」
「どうしたの?」
「いやな、雪蓮がそう言うのであればそうなんだろう。と結論付けただけだ」
「…若干嫌味っぽい気がするのは気のせい?」
「そんな意図は無いさ。ただ私も少し……その『風』とやらが楽しみになっただけだ
雪蓮にそこまで言わせる『風』とやらが…な」
雲一つとして無い蒼天を見上げ、目を細める冥琳はそう述べた。
雪蓮の言と華琳やその面々から説明を受けた『北郷一刀』という男。
この二つが深く関わってくるんだろうと冥琳は『確信』した。
「ふむ、些か楽しみになってきたな」
「何か言ったー?」
「いや、何も」
少し思考に耽ている間に気付けば数歩先を歩いていた三人の背を眺め、そう返す。
「あっ、鍛錬の話は決定だからね。逃がさないわよ」
「忘れたと思ってたのにーーー!嫌あああああああ!!」
「た、助けて思春……、あっそうね、居る訳ないわよね。…暇を出したの私だもの!!」
これから先、どんな未来が待っているのかは分からないが、きっと良い事が待っている。
雪蓮のように言うならば、勘が、そう告げていた。
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「よし、今から恋を叩き伏せてくる」
「待て姉者、流石に急過ぎる」
「流石猪ね」
そう言い切った春蘭を割と本気で止める秋蘭。そして流れるように罵倒する桂花
なぜこうなったのか、それは数分前に遡る。
「なあ秋蘭」
始まりはこの一言
いつも騒がしい…といっては何だが、いつも活力溢れる彼女が沈黙してしばらく。
昼食を摂りに行く道すがら、真剣な声色で切り出された言葉に、秋蘭は疑問符を浮かべた。
「どうした?」
「あの卑弥呼?とやらが言っていたさ………匙?だったか?の事なんだが」
「左慈、だな。微妙に音調が違う所為で別の物になっているぞ」
「左慈か、左慈。うん…左慈」
「して、その左慈がどうした?」
「ふむ…」
そしてまた黙り込む春蘭。
彼女がここまで考え込む事はあまりない。普段は即断即決と言わんばかりの勢いを見せるのだが、今回は違った。
しかし足は確実に厨房へと向かっている。今頃流琉が食事を作っている最中なのか、鼻孔をくすぐる良い香りが微かに流れている。
「きゃっ」
「っ、おっと」
しかし考え込む彼女を眺めて居た所為か、秋蘭は道の先に立つ人物に気付かずぶつかってしまった。
咄嗟の事だったが、倒れそうな相手を腕で支えることが出来、怪我をさせる事無く済んだのが幸いだった。
「ちょっと、前向いて歩きなさいよね」
「すまん、ちょっと考え事をしていてな」
戒める様に言葉を放つのはフードを被った小柄な少女、桂花。
「秋蘭が周りが見えなくなるまで考え込むなんて珍しいわね」
相手が秋蘭だと気づき、態度が軟化し素で驚いている桂花に対し秋蘭は視線を姉へと促す
そこには思考に沈みながら腕を組み、彼女らに合わせ律儀に足を止めている春蘭の姿があった。
「…なによこれ」
「珍しく何かに悩んでいるみたいでな。これでも周りは見えているみたいだ」
いつもと違う彼女の姿にこれまた驚きつつも、桂花は春蘭の前で手をひらひらと動かし彼女を試す。
「左慈……倒すために………呂布……恋……卑弥呼が……」
「ブツブツ言ってるけど大丈夫なの?これ」
「大丈夫だとは思うが……ふむ」
一度意識をこちらに向けさせようと肩を叩こうとしたその時、春蘭が急に顔を上げた。
「よし、今から恋を叩き伏せてくる」
「待て姉者、流石に急過ぎる」
「やっぱり猪ね」
そして遡る前へと戻る。
「ええい、なぜ止める秋蘭!」
「姉者!私にも分かるように説明してくれ!このまま行かせるのは不味い気しかしない!」
「推測できない事もないけど、無茶苦茶な事言ってるの気付いてないでしょ」
「どういうことだっ?」
先へ進もうとする春蘭の腕を全力で抑えつつ桂花の言葉の意味を訊く。
「卑弥呼とかいうあのきっもち悪い肉達磨が言ってたじゃない。左慈って奴があの三國無双とまで呼ばれる呂布に引けを取らない強さだって」
「確かに、言って…いたなっ…!」
「そしてあの全身精液男を取り戻す為に必要な銅鏡とやらを左慈が守ってるとも」
「…っああ、そういうことか…っ」
ようやく理解した、姉は呂布―――恋を叩き伏られる程強くあれば左慈という人物を容易に倒し銅鏡を手に入れられると踏んだのだろう。
確かに分からない話でもない。理屈としては間違っていないかもしれない。
が、全力で止めておいてよかった。今ここで止めずに放置していたら下手したら只では済まない怪我を負わせる、または負う羽目になる。
お互い無事では済まない可能性の方が高い。それに三国同盟が成り立って直ぐの今、殺し合いに発展しかねないような物騒事はご法度なのは明白だった。
たとえ名目上が鍛錬だとしよう、それでもあまりにも時期が早すぎる。
「落ち着け姉者!せめて華琳さまからの許可と相手側の同意が必要だ!というか」
「しかしだな、こうしている間にも時間は過ぎているんだぞ!」
「姉者…!」
力は徐々に強くなっている。春蘭自身も秋蘭に怪我をさせるつもりはないのか、振り払ったり押しのけたりしようとする気配はないが抑えるので精いっぱいだ。
そんな時、次に口を開いたのは桂花だった。
「落ち着きなさい!」
大きな声に不意を突かれたのか、力が弱まる。
「冷静に考えて。それは今すべき事じゃないでしょ」
「桂…?」
「悔しいけどあの変態のおかげで今、三国は協力しあって平和を築いていこうとしてるわ、でもそれもまだ始まったばかり
あんたがここで恋に勝負を挑んだとしてもしもの事があった場合、この同盟は崩れ去る可能性が限りなく高いわ」
「っ…」
「そんな事華琳様が望むわけない。…………もちろんあの馬鹿もね」
「…それはそうだが」
「そして卑弥呼は1年の猶予があると言っていたわ。時間はまだある。共に、今はその時じゃないのは流石にわかるでしょ?」
「今あんたのやるべき事は恋と戦う事じゃない。冷静になりなさいよ」
「気持ちが逸っているのはあんただけじゃないのよ。凪なんて目が血走ってたもの、獲物を狩る目よあれは」
「ただ焦らず現状を見据え、各々がやらなきゃ行けない事をやり遂げた後よ、あいつを取り戻すのは」
さらに力が弱まっていき、最後には春蘭の腕は力なく下がった。
桂花本人はそんな春蘭の目を真っすぐに見つめ、いつもの小馬鹿にするような態度でもなく真摯に言葉を並べていた。
「……はあ、お腹が空いちゃった。どうせ二人とも厨房に行く予定だったんでしょ?折角だし一緒するわ」
そこの馬鹿がまた暴れないか心配だし。と付け加え、普段の彼女に戻ったと思えば踵を返し厨房へと足を進める。
そんな彼女の背を見て歩き出した時、先ほどの言葉に違和感を覚えた。
(………そういえば、一刀を指す言葉が…)
口角が上がる。
(そうか、やはり桂花。お前も……)
違和感の正体に気付いた。
ただそれをこの場で口に出すような野暮な事はしない。しかし、無性に嬉しいような、そんな気分になった。
(そうだな…。一刀、お前が帰ってきた時にでもこの話を―――)
二人と共に進む。
『そういえば一刀、こんな事が―――』
『へー、桂花が―――』
『ちょ、ちょっと!何出鱈目を―――』
そんな想像を膨らませながら、期待と希望と決意を胸に今日を過ごしていく。
「待っていろ一刀。必ずお前を取り戻すからな」
―――――彼女の目には、確かに未来が見えていた―――――――
ギリ半年経ってない、セーフ…セーフだ…
嘘ですごめんなさい更新が遅れました本当に申し訳ございません。
前回の後書きで一刀の道が拓けるだとか云々言ってた気がするんですけど、予定を変更させていただきました。
やっぱりというかなんというか、物語が本格的に始まる前にこういうお話も必要だと思った為…です…。
エタる事は絶対にさせません。というかしたくない気持ちが常々あるので大丈夫…な筈です。
所で英雄譚からの新メンバーをどうにか参戦させられないかと画策したんですが、圧倒的に技量と発想が足りませんでした。栄華…うぅ…。
誰か栄華とのイチャイチャ日常を書いていただいておられる方はおらっしゃれないでしょうか…
そうですね...自分で書けって話ですよね……うう…。
ところでまったく関係ないんですが、Riddim SaunterさんのPictureという曲が死ぬほど好きです。
はい、ただの宣伝です…。悲しいことにもう解散されてるんですが…。
誤字脱字、呼び名等に何か間違いがございましたらご指摘いただけると幸いです
それではまた次回、筆者死す。デュエルスタンバイ!