ユリの嫉妬
艶美な薔薇と純真な百合は、相容れない関係にあった。
王家の花が薔薇である今、その関係はより明白になった。
帯化した百合を胸に抱いた、喪服を着た青白い男。痩身の体躯は、肌の色のせいか骸骨のよう。根元だけが薄らと紅い、艶の無く癖のある黒髪。嗅覚を麻痺させる、重く毒々しく、それでいて甘い香りの棺の中で、安らかに微笑んでいる。血に塗れた白百合に包まれて、森閑たる眠りに飽いている。
神よ、御耳に届いていらっしゃいますでしょうか。貴方の御傍に参ります前に、申し上げたい事が御座います。
神よ、私の贈り物は既にご到着しましたでしょうか。お気に召して戴けますと光栄に御座います。王家の者達は、私の想いを理解してはくれませんでした。神よ、貴方であればご理解いただけると信じております。
神よ、私の存在とは一体何だというのでしょうか。私は何のために生まれてきたのでしょうか。何故貴方は私を、此の地に産み落としたのでしょうか。
生まれて以来、私は誰かに必要とされた事が御座いませんでした。階級を等しくする者達は私を見捨て、兄弟達は背を向けました。父は守るべきものから目を背け、逃避を謀りました。母は私を心配したまま、貴方の御許へ。
貴方は仰るでしょうか、母だけは違うと。傍から御覧になれば、そう思うことでしょう。しかし、私には分かるのです。母は、決して私を必要とはしていませんでした。母が心配していたのは自身の子であって、私ではないのです。其の証拠でしょうか、母は私を信頼してはいませんでした。決して私の能力、才能を信頼してはいませんでした。
家族だけではありませんでした。周囲の者達も私に手を差し伸べてはくれませんでした。満足な仕事も、慈悲さえも与えてはくれませんでした。何故でしょう、全て貴方が創りだしたものですのに、優しさなど一切持ち合わせてはいませんでした。聖典は、貴方の言葉は嘘だったのでしょうか。
仮令そうだったとしても、私は貴方を信じております。気高き者である王家も信じておりました。ですから、斯うして貴方と王家に贈り物を続けて参ったのです。王家の花である薔薇に包み、献上してきたのです。そうすれば、いずれ認めてもらえると、考えていました。
しかし、其の考えは拙策で御座いました。王家の者達は私の想いを理解してはくれませんでした。王宮直下の警備隊が私を探しているのは存じていました。私の献上品を喜んでいるのなら、警備隊が私を探す筈御座いません。王家も、私の周囲と同様でした。
そうして、私は気付いたのです。神よ、私は此の世界には必要無いのでしょう。貴方が何故私を此の世界に御創りになったのか、私には察することも出来ません。ですが、此れだけは、傲慢とは思いますが、御理解出来たのです。此れは、私が貴方の御許へ参る為に必要な過程だったのですね。
私にとって死は恐ろしいものでした。貴方の御許へ参る事が出来るのかどうか、貴方の御許へ参る前の痛み、凍み、暗闇、死後という無知、その全てが私にとっては恐ろしいものでした。しかし、今はそうではありません。貴方の御許へ参る、私は希望と安堵に満ち溢れております。
もう何も怖くはありません。嗚呼、もう、何も恐れるものはありません。




