プロローグ
遠い昔に書いたお話を書き直してました!
拙い文ではございますが、最後までお付き合い下さると嬉しいです!
“ズダダダダダダ―――ンッ”
その音は、鉛色の空に響き渡った。
熱を持った幾つもの鉄の筒口は、煙を吐きだしていた。
銃口は全て、ひょろりと背の高い青年に向けられていた。
青年の身体は、無数の鉄の弾に食い破られていた。
風穴だらけの身体は、泥と煤や埃にまみれて痛ましい。
なにより、溢れる自らの血に染まって赤黒くなっていた。
青年は倒れこみそうになった。
サラサラとした髪が、不意に乱れる。
苦しげに歪められた顔。
カクンと前にうなだれると、青年の口からゴボッと赤黒い血が大量に吐き出された。
「うあぁぁっ! アリスッ!!?」
悲鳴の様に叫んだのは、今しがた青年が体を呈して守った少年だった。
右目に眼帯代わりのゴーグルをした小さな男の子。
少年は驚愕に顔を歪め、微笑む青年を見つめた。
4人で、この理不尽な世界から抜け出すため、必死に走っていた。
嫌な予感がして、少年が後ろを振り向いた瞬間―――。
物陰から、銃で撃たれた。
寸でのところで避けたものの、少年は無理に体を捩ったために転倒した。
早く立たねば、殺される。
大地に這いつくばり、体を捩って後ろをみた。
顔から首にかけて、青年の返り血を浴びた。
ぬるりと生ぬるい血。
少年に被さる様に守ってくれたから、今もポタリポタリと血の雫が頬に落ちる。
困ったように微笑む青年。
彼はいつもそうやって、何が有っても微笑んで乗り越えていた。
ヒクリと、空気を飲むが、渇いた喉はひりついていた。
視界が涙で滲む。
呆然と、微笑んでいる青年を見つめる。
「逃げ、なさいっ!」
こふっ、と小さく咳き込むたびに、鮮血が飛び散る。
「や、だよ…アリスっ! アリスも逃げ…」
「ジャック…、行きな、さいっ! 振り向かず、走りな、さいっ! そして…いつか、また、逢いま、しょう…」
その声は、弱々しかった。
その場に立っているのがやっとの青年の姿に、少年は溢れる涙を拭わず、拒否するように首を横に激しく振った。
「アリ、ス? なんでっ…嫌だよ…っ! 一緒に行こうって言ったじゃん!!」
少年の声は、まるで悲鳴をあげているようだった。
実際、言葉の最後は声が裏返っていた。
「ジャッ、ク…、すぐ、追いつきますから…行って…此処は、危険です…早くっ」
「アリ―――スっ!! ジャァ―――クっ!!」
紺色の髪をした、精悍な顔つきの青年が叫んだ。
パキィィィンっと、薄い黄色のシールドが展開される。
刹那 ―――、アリスの背中に張られたシールドに無数の銃弾が当たった。
精悍な顔つきの青年が、ジャックを引き寄せて立たせた。
「アリス! なにをしている! ジャック、行くぞ!」
「ルーっ、私が此処を、防ぐので、行ってっ!」
「しかしっ!」
「いいからっ! 行きなさいっ!!」
精悍な顔つきの青年は、眉を寄せ、唇を噛みしめた。
苦しげな表情をしたまま、小さく頷くと、踵を返して少年を引っ張って走り出す。
「やっ!? なんでっ!! アリスッ!! アリスッ!!?」
引きずるように走っていく少年の背を見送り、青年は小さく微笑んだ。
背中は激痛を通り越していた。
身体中が這い上がる寒さに震えたが、精悍な顔つきの青年と太陽のように明るい少年と、聡明で可愛らしい少女の背中を見送ったことに満足感と自由の幸せに浸った。
別離の大橋は、目の前だった。
あの橋を渡れたら、もう安全だ。
追っ手の手も届きはしない。
アリスは、カクンと膝を地面につけた。
出ていく血液と共に、力が徐々に失われていく。
パシィィィン―――と、張り続けていたバリヤーが、音を立てて崩れ落ちた。
それと同時に、成人男性のそれより軽くて細い体が、小さな音を立ててパサッと倒れた。
地面には、生暖かい血溜りが出来ていた。
周囲の喧騒と切り離されたように、アリスは静かに血だまりの中に沈んだ。
最初から、ネタバレ〜笑