はつもうで
当日。ばっちり晴れた青空を呪いながら、神社に出掛ける。
さすがヒロイン。すでに来ている。しかもナンパされている。
どうしようかためらっていると、ヒロインが俺を見つけてぱぁっと笑顔になり、駆け寄ってきた。
やばい、可愛い。
ナンパを完全に相手にせずに、俺だけを見て笑顔で駆け寄ってくる振袖姿の美少女。
一瞬だけ、悪女でもいいかも、と思ってしまった。
顔が熱くなっているのがわかる。
「えへ。似合う?」
振袖を見せてくるヒロインに、思わず口が滑る。
「すっごく綺麗だ。見るだけで価値がある」
言い終わってから気がつく。
しまったぁ!例の告白を思い出させるような空気にしちまった!!
いや、男としての本能に負けただけだ、俺は悪くない。
妹が『ヘタレ!』と指差して笑ってくる幻聴まで聞こえてきた。
へこんだ顔を手で隠す俺を照れていると判断したようで、ヒロインは上機嫌で早くお詣りにいこうと促してくる。
もう帰ってコタツで丸まっていたい…
その後は特に何事もなく初詣を終わらせることができた。
そもそも俺が普段、体力作りに使っている地元の小さな神社だし、屋台が出ているわけでもない。お詣りして、御神籤を引いて、内容について話して、解散だ。
ちなみに俺は小吉。恋愛は相手をよく知れと書いてあった。
この神社、ご利益あるかも。
今度来たら厄払いをしっかり祈っておこう。
ヒロインは大吉。福を分けてあげるねと俺の手を両手で握って祈る姿に、これが乙女ゲームヒロインの女子力かと怖れ戦いた。
背後を知らなきゃ何度でも落ちてる自信がある。
でも、10人以上いる攻略対象全員にこういうことをしている女。
好きでもない男に、ゲーム感覚で近付きベタベタし、落とそうとしてくる女。
握られた手が蛇に絡み付かれているように感じ、自然に顔がひきつる。ヒロインが目をつむっていて助かった。
一時間もせずに帰っていったヒロインは、また誰かをハシゴするのだろう。
時間を気にしていたし。
疲れて家に帰ると、兄貴がニヤニヤしながらきいてきた。
「どうだった?その顔はどうせまた振袖姿にドキドキして、なにも言えずに終わったんだろ」
思わず兄貴のやっていたゲームのスイッチを切った俺は悪くないと思う。