2
指の傷も包丁で切った跡に白く長細いかさぶたができてきた。
かさぶたができたことで絆創膏から卒業できる。これは正直嬉しい。絆創膏をしていると指がふやけて白くおばあちゃんみたいになるのが嫌だからだ。
かさぶたを上から押してみる。ピリッと痛みが走る。
それが意味がわからないが楽しくてかさぶたの上から爪を少しつき立て遊んでいた。端から見るとちょっと虚しい人に見える。
それはお昼ご飯を食べた後だった。ごちそうさまと合掌をした後に「まだ休憩はあるから少しでも寝よう」と寝る体制に入っていた時だった。
「ちょっといいかな?」
「何か?」
寝る体制に入った私の目の前に立つ2人の女の子たち。
「ちょっといいかな?」というのは大抵良くないこと。と私の勘が警戒を出している。「私はこれっぽっちも良くはない!」と思いながらも顔には出さない。ここで下手に出ると女の子の社会ではタブーなので「何かしら?お茶かしら?」というクソみたいなお嬢様思考を持っていますよ。という顔をしておくのだ。
「向井さんだよね?」
「向井ですが、何か?」
私のことを向井と確認する女の子たちを見上げる。こちらは椅子に座っているし、女の子は立っているのだから必然的に女の子たちの方が一方上手になる。
「向井さんはさ、生野君と仲が良いの?」
「生野君?誰?」
「は!?」
「え!?」
私の返答に絶句する女の子。
「生野君を知らないとか…」と言われても…いやいやそんな驚かなくても知らないものは知らないのですよ。
「本当に本当に生野君を知らないのね?」
「知らないよ。生野君って誰?」
「そう。解った。手間を取らせてごめんね。じゃあ向井さん」
と言って女の子たちは私の目の前から立ち去って行った。私の眠気を一緒に連れて。
あの後、女の子たちが帰って行った後で気づいたが、クラスがシンと静かになっていた。
つまり私と彼女たちの会話をクラス全体に聞かれていたのだ。まったくの筒抜けだ。普段の昼休憩はまったく静かにならない私のクラスが静かになっていたのだ。
ちくしょう。これだったらもっと違う対応をしていれば良かっと軽く後悔をしてしまった。
授業も終わり、帰る準備をチンタラと行っていた。帰る準備と言っても教科書をカバンに入れるだけだが。
お腹減ったし帰り道にパン屋に寄ってカレーパンでも買って帰ろうかな…いやいやコンビニの肉まんにしようか…食堂のラスクか?と1人この腹を満たすことを考えていた。ダイエット?そんなものは知らない。
「…さん!向井さん」
ハッと顔を上げる。名前を呼ばれたからには反応をしないといけない。というマナーが身に付いた私の体を呪いたい。私の名前を呼んだのはいつも朝に私の椅子を占領をしていた彼だった。
「向井さん」
彼はちょっと楽しそうに私の名前を呼んできた。
「なに?」
「向井さんはさ、俺の名前を知らないかったの?」
「すみません」
いやいや、そんな世界の人が自分の名前を知っていると思っているとか頭おかしい人のじゃないです?この人は。私はジトーと男性を見つめなおした。
「ちょっと今向井さん俺に対して失礼なこと考えたでしょう?」
「いえ。まったく」
失礼なこと考えていないヨーという顔をしながら彼の彼をじっくりと見つめる。
なるほど、これは有名人になりますな。という整った顔をしていた。ボキャブラリーが乏しい私にはなんと!大地が引っくり返るといったような詩人的な表現はできない。
「まあ、良いや。向井さん俺は生野って名前だからよろしく」
そう言ってヘラリと笑い教室から出て行く彼は骨をもらった犬みたいだった。そうだ。ポチだ。生野ポチだ。
私は生野君に対して少し失礼なことを考えながら帰宅をする準備にまた取りかかった。
今日は犬みたいな人に会ったから帰りはチキンを買って帰ろう。ファ●チキにしようか●チキにしようか…