マントを失くした王【読み切り•創作神話】
商人の通う街があった。毎日毎日、積み荷を運んだ馬やラクダがやって来た。
西からは金糸を織った透かし模様の入った絹の布。北からはオオカミやウサギの毛皮を縫ってあつらえた綿の布。
この国の王は、たびたびこの街に降りて来て布地の調達をする。
王のマントは一流であった。日替わりのそれはいつ見ても美しく、たくましく、繊細で大胆。彼のマントの色が流行になるし、マントがなびけば経済も回るというもの。
しかし。北の空に陰りがさす。雷が大地を焼いて大火事となった。続いて大雨が何十日も降り続いて山を崩していった。
西の街はどうか。発掘成果の停滞ゆえに市場が上手く回らなくなり、強盗や飢饉が増えてしまう。
商人が通わなくなると、この国も潤わなくなった。するとある朝、王が目を覚ますと自身のマントがどこにも無くなっている。彼のマントは何者かによって盗まれた。
王は怒った。
ついに国民が所持している布地を全て見せよと命令した。
国民は布地を王に提示した。寝具のシーツ、カーテン、テーブルクロス、衣服、ハンカチまで全ての布地をだ。
王はその全てを押収し、毎日違った模様と色と質感のマントを身に纏う。国民は皆、寒い夜でも藁で編んだ下着のみで過ごしていた。
そこに旅人がやって来る。
「この者たちは何故、着る物が無いのか?」
旅人は、神殺しのアクデトであった。おおよそ西の最果てから徒歩で来て、西の国の惨状を見てからこちらにはやって来た。
人々は皆、口をそろえて「王が全て持って行きました」と言った。
ふむ、と思ったアクデトは次に聞いた。
「では、この国の、最も価値のある人物とは誰なのか?」
そこで人々はまた答えた。
「王です。この国では、王が最も価値のある人物です」
アクデトは、その王に会いに行くことにした。
大きな城の中に、たいそう美しいマントを纏った男がいるのに驚いた。彼はこの街に存在する、寝具のシーツやカーテンやテーブルクロス、衣服、ハンカチまで全てを身に纏っていたのだ。
「国民は、あなたがもっとも価値のある人物であると言いました」
「ああ、そうとも。私こそ価値がある」
それでは、と、アクデトは高く両手を上げて神に願いを乞うた。
「貴方の国や、その周囲の国々にも、富が現れるよう」
アクデトの行いに、王様は感銘を受け、涙を流して喜んだそう。
しかし、その王は、涙ごと青銅の像に成り代わってしまった。
アクデトが城を出た途端、さっきまで立派にあった城は全て泥になって高い城壁も全て低いものになってしまった。
それからアクデトの両腕にかけてあった王様の全てのマント。これらは街の中心にて、誇りを払うように揺さぶると、金貨、紙幣、金塊、宝石などに変わってジャラジャラとばらまいた。




