普通に愛されている悪役令嬢に嫉妬心から絡まれた没落令嬢のやるせない話。
普段は描かないジャンルに挑戦しました。
変なところがたくさんあると思いますが、それでも読んでくれると嬉しいです。
「グレイ・ヴィクトリア。貴女の仕業ね」
「ええっ、なんのことです!?」
教室の扉の前で、美しい灰色の髪を持つ少女、グレイ・ヴィクトリアは激しく非難された。
午後の授業が終わって早々、外での魔法実習を済ませたグレイ達が教室に戻ってすぐのことだった。
同じクラスの侯爵令嬢であり、中心人物でもあるスフィア・ブレイゼンに名指しされ、もの凄い剣幕で迫られていた。
「お黙りなさい。ワタクシのペンダントがなくなっていますの。セルリアン王太子殿下にいただいた、大切なものですのに」
「いや、知らないです……っていうより、なんで私なんですか!?」
スフィアはいつもペンダントを身に着けていた。艶やかな金髪に真っ赤な瞳を持ったスフィアに似合う宝石が埋め込まれたペンダントだ。
宝石の正体は魔石を加工したもので、ブレイゼン侯爵家の一族は代々火属性魔法の家系だ。
それに合わせる形で真っ赤な魔石、まるで揺らめく炎を思わせてくれる、ルビーのような華やかさがあった。
「言い訳は無用ですの。グレイ・ヴィクトリア、貴女がセルリアン殿下と親しく話している姿を見かけましたのよ」
「それは面倒な生徒会に誘われたからです……あっ」
つい本音を口走ってしまったグレイは口を閉じる。
よくないお口に物理的なチャックをすると、唇を強く噛んで噤んでしまう。
オマケに目が泳いだのも悪目立ちして、スフィアだけではなく他のクラスメイト達にも白い目を向けられた。
「我が校の由緒正しき生徒会を愚弄するほどですの。まさか、ワタクシからペンダントを盗み出したのも、セルリアン殿下を貶めるため……」
「どんな飛躍ですか。私は没落した落ちこぼれ貴族の家系の末端ですよ。そのようなこと、するはずがありません」
拡大解釈され続ける話の流れをグレイは断ち切ろうとする。少しパニック気味で、奥の手の魔法も使えそうにない。
素の自分が表に強く出てしまうと、パッションの会話になってしまった。
けれど上手くいかず、周りを頼ろうにも味方になってくれるクラスメイトの姿がない。
取り囲んでいるのはスフィアを支持する伯爵貴族達がほとんどで、立場的に強く出られない他のクラスメイト達は教室の外で様子を窺っていた。助けに入ろうにも、近付くことが出来ない。
「そ、そんな……」
「グレイ・ヴィクトリア。今すぐワタクシから盗んだペンダントを返すのであれば、許して差し上げますわよ」
「だから私は盗んでいません、スフィア様。どうか信じてください。お願いします」
グレイは必死に頭を下げると、スフィアに信じて欲しいの一点張りで立ち向かった。
あまりにも弱くて脆い。怒りをぶつけるスフィアが惨めに見えるほど、グレイは本心から要求し続ける。クラスメイト達も騒めき始めるが、一方的にグレイを犯人だと決め込んだスフィアには届かない。
「だ、誰も信じてくれませんか。そ、そんな……」
グレイは落ち込むことしか出来ない。愕然として目から光が消えそうになる。
不安になる心の器を、満たすように泥水が注がれるようだった。
過去に経験した不快感が全身を撫で回している。
周りを見回すたびに敵意の瞳を剥き出しにされると、今すぐ逃げ出したい。もしくはこのまま消えてしまいたいと、グレイは自分の心に蓋をしようとした。
『お困りですか、グレイお嬢様』
『この声、アオ?』
『はい、どうかなさいましたか』
頭の中に声が流れ込んできた。
誰よりも美しい声音、誰よりも力強い味方。
剣のように鋭くて勇気と野望を持った女性の声が、グレイの心を引き留める。テレパシーが突然伝わると、下を向いた心で会話した。
『実は、同じクラスのスフィア様がセルリアン殿下にいただいたペンダントがなくなってしまったみたいなの』
『ペンダントですか? しかも殿下からの……それでしたら、私が見つけられるかもしれません』
「えっ!?」
アオから希望が見える言葉を贈られた。
完全に塞ぎ込みそうになったグレイは顔を上げて声まで出してしまうと、クラスメイト達にヤバい奴の目をされる。
急に声を出して、謎のなにかに驚いた様子だ。
側から見なくても気持ち悪い光景で、スフィアが特に引いている。口元を隠しながら目線を逸らすと「なんですの」と悪態をついた。
「グレイ・ヴィクトリア。貴女、ようやく諦めたのね。往生際の悪いことね」
「だから私じゃないです、スフィア様。本当です、信じてください」
スフィアはグレイを疑ったまま離さない。
ジリジリと詰め寄って、今にも魔法で脅してきそうな雰囲気を感じる。
スフィアは侯爵家の令嬢だ。
止めに入ることはできず、教室の扉の前でクラスメイト達は右往左往している。
グレイは切羽詰まってしまうと、テレパシーを送り続けた。一番信頼を寄せている、一番不気味なメイドのアオを頼ることしか出来ない。
「なに黙っているのよ。グレイ・ヴィクトリア」
「スフィア様。本当にペンダントは無くなってしまったのですか?」
「ええ、セルリアン殿下にいただいたものよ。嘘などをついてしまえば、セルリアン殿下の顔に泥を塗ることになるのよ」
答えはYESだった。
つまり嘘はついていない。本当にペンダントは無くなっている。
グレイの頭の中に流れ込んでくると、別の質問をしてみることにした。
「ペンダントは、いつ無くなられたのですか?」
「授業から戻ってきたら無くなっていたのよ。教室には鍵も掛かっていたわ。このクラスの誰かが盗んだに決まっているわよ」
あまりにも早計で、頭が心配になるような言い分を披露するスフィア。
クラスメイト達も目を逸らしてしまうが、やはりスフィアの答えはYESのまま動かない。
箱に仕舞って教室に置き、鍵も掛かって安全な部屋からペンダントが忽然と消えた。クラスメイトの誰かが盗み出した可能性が極めて高くなる。
「どうして私を疑うんです?」
「それは……セルリアン殿下と馴れ馴れしい態度で接する貴女が、私を婚約者の座から引き摺り下ろすためにしたイタズラだと思ったのよ」
「う、うーん。違います、そんなことしませんスフィア様」
せっかく礼儀を取り戻し、素を見せないように押し込んだグレイだが、スフィアの横暴な推論に頭を抱える。
つい本音が飛び出してしまうも、単純にセルリアン殿下に慕われたい。一番でいたい。婚約者の座を脅かす恋敵を蹴落としたい。その気持ちはYESのままで、憶測でグレイを疑い続けていた。
ボロが出てしまうと逆に可愛く見えてしまうと、クラスメイト達に「クスリ」と笑われてしまう。グレイも「ふふっ」と藍らしく口元に手を当てると、笑いそうになる自分の口にチャックをし直して、ふと思った言葉を口にした。
『グレイお嬢様。どうやら口論になっているようですが、スフィア様は大変お怒りなのでございますか?』
『うん、実はそうなんだ』
『でしたら、ペンダントが無くなられて場所は何処になるのでしょうか?』
『えっと、ちょっと待ってね』
落ち着いて対応するアオに、グレイは安心感を貰っていた。今頃なにか手助けしようと頑張ってくれている。
それを思うだけで、グレイも折れずにスフィアと面と向かっていられるが、如何しても気になることがあった。
スフィアは何故ペンダントを外したのだろうか。
セルリアンにいただいたものならば、常に肌身離さず持ち歩いていておかしくない。無くすタイミングなんてあるはずがないと、アオのお願いを聞きつつスフィアに訊ねた。
「スフィア様。ペンダントは何処で無くされたのですか?」
「教室に置いて行ったわよ。セルリアン殿下にいただいた貴重なものですもの。実習で紛失などもってのほかよ」
ペンダントは首から外されていた。教室に置いていたらしい。
確かに実習中に千切れて落としてしまったら、セルリアンに申し訳ない。
それくらい許してくれそうな聡明な方。グレイにとって、セルリアンとはそれくらいの間からだ。
スフィアにとって気に食わないのかもしれないが、気持ちは多少わかってしまった。
『教室らしいよ、アオ』
『そうですか。では、教室はどのような状況ですか』
『状況? えっと、スフィア様の席は窓際です。後、換気のために窓が開いているの。教室には鍵が掛かっていたよ。もちろんここは三階だから、魔法でも使わないと窓から侵入するなんて無理だよね?』
アオに情報をテレパシーで伝えた。
場所は教室、席は窓際。窓は開いているけれど、教室は地上から三階。おまけに扉には鍵も掛けられている。無くせるような状況ではない。ましてや不審者が侵入するには、あまりにもバレバレだった。
『はい、確認済みです』
「確認済みって?」
一体なにを確認したのかわからない。
感想が口から飛び出し、また声を上げてしまったグレイ。
険しい表情になり、鋭い目付きでグレイを威圧するスフィア。二度も同じ轍を踏むと、グレイは目を泳がせてはいけないと頑張って耐える。
『アオ、どうしよう』
『落ち着いてください、グレイお嬢様。どうやら校舎の外に持ち出されたわけではいないようです』
『それだと、今も教室の中にあるの?』
『それも違うみたいですね、グレイお嬢様。一介のメイドの身分である私が、無暗に校内に侵入してはいけませんので、ここはグレイお嬢様の魔法を信じてみてはいただけませんか?』
『私の魔法を……』
『はい。深呼吸してください、グレイお嬢様。グレイお嬢様の魔法であれば、ペンダントを必ず見つけ出すことが叶うはずです』
メイドであるアオ曰く、ペンダントは外部に持ち出されてはいないらしい。
どうしてそんなことがわかるのか、グレイの頭では理解することが出来ない。
けれど今も校舎内にあるとすれば、グレイ以外の別の誰かが盗み出した可能性が高くなる。
同時にグレイの疑いも強まってしまいそうだが、これ以上アオを頼ることが出来そうにない。
それでもアオはグレイの味方だ。無実だと信じ続けているからこそ、グレイの魔法を信じる気持ちを高めさせる。
そっと深呼吸して心を落ち着かせると、灰色の瞳も熱くなり、スフィアに訝しい表情を向けられ続けてしまった。
「なに黙っているのよ。グレイ・ヴィクトリア」
「スフィア様。本当にペンダントは無くなってしまったのですか?」
「ええ、セルリアン殿下にいただいたものよ。嘘などをついてしまえば、セルリアン殿下の顔に泥を塗ることになるのよ」
答えはYESだった。
つまり嘘はついていない。本当にペンダントは無くなっている。
グレイの頭の中に流れ込んでくると、別の質問をしてみることにした。
「ペンダントは、いつ無くなられたのですか?」
「授業から戻ってきたら無くなっていたのよ。教室には鍵も掛かっていたわ。このクラスの誰かが盗んだに決まっているわよ」
あまりにも早計で、頭が心配になるような言い分を披露するスフィア。
クラスメイト達も目を逸らしてしまうが、やはりスフィアの答えはYESのまま動かない。
箱に仕舞って教室に置き、鍵も掛かって安全な部屋からペンダントが忽然と消えた。クラスメイトの誰かが盗み出した可能性が極めて高くなる。
「どうして私を疑うんです?」
「それは……セルリアン殿下と馴れ馴れしい態度で接する貴女が、私を婚約者の座から引き摺り下ろすためにしたイタズラだと思ったのよ」
「う、うーん。違います、そんなことしませんスフィア様」
せっかく礼儀を取り戻し、素を見せないように押し込んだグレイだが、スフィアの横暴な推論に頭を抱える。
つい本音が飛び出してしまうも、単純にセルリアン殿下に慕われたい。一番でいたい。婚約者の座を脅かす恋敵を蹴落としたい。その気持ちはYESのままで、憶測でグレイを疑い続けていた。
ボロが出てしまうと逆に可愛く見えてしまうと、クラスメイト達に「クスリ」と笑われてしまう。グレイも「ふふっ」と藍らしく口元に手を当てると、笑いそうになる自分の口にチャックをし直して、ふと思った言葉を口にした。
「あのスフィア様。もしかすると、私以外の別の誰かが盗み出した可能性もありませんか?」
「だからなによ。私は貴女が犯人だと思っているの」
「それでは……あの、誰かスフィア様のペンダントを知ってますか?」
横暴なスフィアを前に、アオから貰った勇気を奮い立たせるグレイ。
失礼を承知で振り返り、教室に入れず扉の外で固まったクラスメイト達に呼び掛ける。
誰か他にペンダントの行方を知っている人はいないのか。グレイが心から訴え掛けると、一人だけ妙な動きをした。
灰色の瞳は決して取り逃さず、心にYESを見せた女子生徒を捕まえる。
「あっ、もしかして……」
「なんですか?」
「スフィア様がセルリアン殿下にいただいたペンダント、知ってますね? カフィ様」
「えっ、カフィ!? セルリアン殿下のメイドのカフィ!?」
女子生徒の名前はカフィ。スフィアの言う通り、セルリアン殿下のメイドだ。
メイドの身分ではあるが、寛大なセルリアンはメイドの自立性を高めようと、同じように学校に通わせている。
おかげで学校生活の中では良き友人・主人であるセルリアン殿下にとっても信頼出来る後輩として名が通るカフィだったが、ペンダントの行方に心当たりがあるらしく、グレイが強く当たったせいもあるのか動揺していた。
「バレましたか。グレイ様」
「は、はい。あの、どうしてスフィア様が大切にしていたペンダントを盗んだりしたんですか?」
「そうよ、カフィ。貴女、このワタクシに無断で持ち出したのね。いくらセルリアン殿下のメイドでも許せないわよ」
「スフィア様、これには事情がありまして」
「そんな話聞きたくないわ。メイドの身分で主人の婚約者の贈り物を盗み出すなんて……」
カフィはあっという間に自分が犯人だとバラしてしまった。
包み隠すことなく、あろうことか敬愛する主人セルリアン殿下の婚約者の前でだ。
殿下のメイドが贈り物であるペンダントを無断で持ち出す。死罪にも値しかねない行為を前に激昂するスフィアは、グレイのことなど見向きもせず、カフィを前に強めり叱咤する。可愛そう……とグレイが思った直後、手を出しそうなスフィアを止める声が走った。
「それは違うさ、スフィア」
「えっ!? セルリアン殿下!?」
爽やかな掛け声が廊下から上がった。クラスメイト達全員、一斉に視線を釘付けにされる。
滑らかな少しくすんだ色の金髪。深い海を思わせる青い瞳。サファイアを思わせる魔石を飾ったペンダントを首から下げる。
グレイ達の一つ上の学年。この国の第二王子である件のセルリアン殿下は、扉の枠組みに手を当てイケメンらしい振る舞いをしつつ、グレイ達の教室に足を踏み入れた。
「セルリアン殿下!?」
「殿下なんてやめてくれよ。スフィア」
「えっと、その……殿下は、どうしてこちらに?」
「なんだか面白い波動を感じてね。まさか俺がカフィに頼んで持ち出して貰ったペンダントの話題で盛り上がっているとは思わなかったけどさ」
セルリアン殿下は王族ではあるが、とても気さくで言葉が柔らかい。だからこそ、貴族や平民など身分など構わない。独自の感覚と尺度を持っており、時折こうして困らせることもあるが、笑って済ませてしまう。
「殿下が盗み出したのですか!?」
「うん。あのペンダントはもういいかなってね」
「そ、そんな。では、婚約は……」
肝心のペンダントはセルリアン殿下がメイドであるカフィに頼み盗み出して貰ったらしい。
それを聞いたスフィアは絶望した表情から血の気が引いていく。高慢な態度は何処に消えたのか、なにか粗相をしてしまい婚約解消を告げられると震えている。
セルリアン殿下は満足そうに笑みを浮かべた。
涙袋に炎の宿る雫を溜め込むスフィアに微笑みかけると、制服のポケットから泡でも包み込むように素早くと箱を取り出した。
「その顔が見たかったのさ。スフィア」
「えっ……セルリアン殿下、これは」
「新しいペンダントさ。魔法学校に入学した祝いの品。ずっと探していたけれど、なかなか見つからなくてさ。でもようやく見つかった。君に俺自身の手で渡したかった、そんなわがままを許してくれないかい?」
箱の蓋を開けると、中には新しいペンダントが入っている。ルビーを思わせる装飾の施された紅色の魔石。
とても大きく親指の先端くらいのサイズ感。とても貴重なもので、周りには炎の息吹を思わせる金細工で囲われると、肌に優しい特注のチェーンで繋がれていた。
サプライズのつもりで用意していたらしいが、なかなか手渡せなかった。
だからこそカフィに頼みコッソリ盗み出して貰ったのが、今回の小さな騒ぎになってしまった。
自らの手で鎮火させるべく、セルリアン殿下は空気を一変させる不思議な魔力で包み、スフィアと目を合わせて想いを確かめ合う。
「殿下……」
「スフィア、冗談だろう? まさか泣くほどなんて」
「ううっ、すん、泣いてなどいませんわ」
「泣いているさ。女の子の感涙は素敵だね。でもスフィア、君のもう一つの顔が彼女を傷つけた。それだけは俺の婚約者としていただけないな」
本気でスフィアは泣き出してしまった。
振られたわけではない。婚約破棄を突きつけられるわけでもない。わがままな王子様は、悪役が似合う令嬢を心から愛していた。
流す涙は火の粉の宝石。包み込むは青く深みのある泡。ギュッと抱き寄せると涙を隠すようにセルリアン殿下の胸にスフィアは顔を埋めた。
そんな光景を目の当たりにさせられると、時間は止まったように誰も喋れない。身動きも取れない。
『どうされましたか?』というアオの言葉を内に秘めるだけで、グレイもその枠の中に溶け込むと、スフィアの頭を優しく撫でるセルリアン殿下はグレイに目配せした。
(あっ、ここで私に振るの!? でもまぁ……)
セルリアン殿下なりの配慮がスフィアの視線をグレイに向けさせる。
確かに少し傷ついてしまったが、アオのおかげで取り留めた。
あまりに気にしてはいないものの、スフィアは涙ぐんでいた瞼を拭き取る。
色々思うことはあるようで、スフィアはグレイの目の前に立った。同時にアオからテレパシーも送られる。
『勘違いだったみたいだよ、アオ』
『そうですか。グレイお嬢様の疑いは晴れたのですね』
『うん、ありがとうアオ。確認してくれて』
『グレイお嬢様のメイドとして当然のことをしたまでです。ですが、お褒めいただきありがとうございます』
グレイにはもったいないほど優秀なメイドのアオ。どうやったのかはグレイが知る由もないが、常にアオに見守られ、いざという時は動きてくれる頼もしい存在だった。
「グレイ・ヴィクトリア」
「は、はい!?」
「先程は非礼な振る舞い、申し訳ありません。てっきり貴女の仕業だと勘違いをしてしまいましたわ。深くお詫び申し上げます」
勘違いでグレイを激しく非難し、あるいは休弾してきたスフィア。
本来ならもっと深く頭を下げるべきだったが、侯爵令嬢で身分は変わらず、セルリアン殿下の前と言うこともあってか、王太子殿下の婚約者として礼儀を披露した。
「顔を上げてください、スフィア様」
「グレイ・ヴィクトリア」
「大切なペンダントが当然無くなってしまったら、冷静でいられなくなってしまう気持ちは重々承知しています。ですのでスフィア様、いつも通り侯爵令嬢としての気品と振る舞いで接していただけたらと思っております」
グレイはスフィアに寄り添った。
明らかに悪役がお似合いな侯爵令嬢を相手にも、毅然とした態度で接し、思いを共感し合うことでグレイは立ち向かう。
普通できないことだった。相手は侯爵令嬢で、セルリアン殿下の婚約者。
頭を垂れ、二つ返事のオウム返しを繰り返すのが無難。そんな取り巻きの役割を放棄し、スフィアの頬にソッと手のひらを触れ、穏やかな笑みを贈る。
「貴女、私に糾弾されても動じないのね」
「そんなことはありませんよ。本当はとても怖くて、苦しくて、辛かったのです。ですがそれはスフィア様も同じだと思ったからこそ、私はいつも通りに振る舞わせていただいています」
「不思議なことを言うのね、グレイ・ヴィクトリア。……ええ、ではそうさせていただきますわね、貴女の望む通りに」
セルリアン殿下は水を差さない。他のクラスメイト達もグレイの灰色の優しさに触れていた。
スフィアも張り合っていた自分がバカバカしくなると、グレイの要求を飲み手を払う。
侯爵令嬢としての身の振り方。
セルリアン殿下の隣に立つに相応しいのは自分。そう周囲に見せつけるように胸に手を当てると、ニヒルな笑みで微笑み返す。
結局はアオの運んだ通りに。グレイが思い描く形で丸く収まった。
以降スフィアはグレイに以前よりは強く当たらなくなったらしい。
もしかするとスフィアも丸くなったのだろうか。その心根はグレイであっても知り得ない。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
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また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。




