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07-幼馴染(女)と同居人(女)

 食卓は自然と賑やかになっていく。

 藤森はるかはグラスに缶ビールを移し、一口飲んでから話しかけてきた。


「雪斗くんは学校まで自転車で通ってるんですよね?」

「そうですね」


「ここからだと、どのくらい?」

「1時間弱ですね」


 みつきがゆっくり絶望したような顔を向けてくる。


「1時間? 自転車で?」

「そう」


「……遠くない?」

「この辺だと普通かと」


 みつきはかぐやの方を見る。


「お姉ちゃん、普通?」

「普通じゃないと思うわ」


「だよね? うわあ……通学だけで筋トレじゃん」


 みつきは箸を置いて天井を見上げた。


「雪斗、バイクで送っていけば?」

「母さん、俺まだ2人乗りダメだし、そもそも3人乗りは無理」


「……確かに」

「なるほど、その手が……私、原付買おっかな」


 忘れていたとばかりにはるかが手をポンと叩く。

 大学生はバイク通学が許されているらしい。



 食事はそんな調子で進んでいった。


 母は楽しそうだし、みつきはずっと喋っている。

 かぐやは落ち着いているが時々笑い、はるかはその様子を面白そうに見ていた。



 食事が終わる頃にはすっかり夜になっていた。

 各自部屋に戻るのを横目に、俺も部屋に戻ってベッドに倒れ込んだ。



 昼から色々ありすぎて流石に頭が疲れていたのか、目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 夜中。


 ふと喉が乾いて目が覚めた。

 時計を見ると、まだ日付が変わる前だった。



 俺はベッドから起き上がって、廊下へ出て階段を下りて台所へ向かう。

 家の中は静かだったが、台所の電気がついており人の気配を感じた。


「あ」


 思わず声が出た。

 台所のテーブルに座っていたのは、母ではなくはるかだった。

 グラスを手にしており、まだ缶ビールを開けているようだった。


「あ、雪斗くんか。ごめん起こしちゃった?」

「いえ、目が覚めたのでお茶を飲みに来ただけで」


 テーブルの上には空き缶がやたらと並んでいた。


「お母さんとさっきまで飲んでたんだけどね、さっき先に寝ちゃってさ。そろそろ私も寝ようかなって思ってたところ」


 はるかがグラスを揺らし、残ったビールを飲み干すのを眺めながら、その格好に何気なく視線を向けてしまった。



 短いショートパンツに、タンクトップ。

 完全に部屋着だ……目のやり場に困る。



 俺はなるべく気にしないようにして、冷蔵庫を開けて麦茶を取った。

 棚からいつも使っているマグに注いで一気に喉へ流し込んだ。


「そんなに喉乾いてたの?」

「ちょっと」


 なるべく視線をテーブルに落とす。

 はるかはそんな様子を見て、小さく笑った。


「もしかして緊張してる?」

「……いや別に」

「ふふ、そっか」


 グラスがテーブルに置かれ、カツンと鳴る。


「同じ家に女の子が増えると大変だよね」

「まあ……」


 俺はマグを置いて台所を後にする。


「じゃあ、おやすみなさい」

「はーい、おやすみ」


 そしてさっさと階段を上がって部屋へ戻りベッドに潜り込むと、ようやく眠りに落ちた。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 翌朝、居間へ降りるとすでに母が朝食を作っていた。

 みつきとかぐや先輩も起きているが、はるかさんは見当たらない。


「おはよう」

「おはようございます」


 みつきはトーストを食べながら言った。


「母さん、今日って自転車買いに行く感じ?」

「そうよ。2人とも学校まで通うんだから必要でしょ」


 そういうことで、俺たちは朝食を食べ終えてから出かける準備をして車に乗り込んだ。

 母曰く、はるかさんはまだ寝ているらしく、朝ごはんを作り置きしてきたとのことだ。




 母が運転席でハンドルを握り、助手席はみつき、後ろにかぐや先輩と俺が乗り込んだ。


 車は山道を下り、駅前を通り過ぎてホームセンターへ。

 駐車場に車を停めて降りたときだった。



「あれ? 雪斗?」



 聞き慣れた声がして振り向くと、買い物袋を持ったひなたが立っていた。

 そして俺の横にいるみつきとかぐやを見て、少し目を丸くした。



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



「あ、ひなた……」

「ひなたちゃんおはよう」


 母がいつもの調子で話しかけるが、ひなたの視線は俺の隣に釘付気になっているようだった。


「えっと……?」

「あぁ、こちらうちに下宿することになった2人」


「九条みつきです」

「九条かぐや……よろしく」


「で、こっちが三輪ひなた。みつきも同級生」

「どうも……三輪ひなたです……下宿?」


「ひなたちゃんちは……そっか流石に厳しいわね。あのね、少し前に学校から連絡があって――」



 母が率先して下宿人が増えることになった経緯を説明し始めた。



 俺は母の隣でその話を聞いていたが、背後のみつきがなぜか俺の裾を掴んでいる感じがする。


 そしてその指先が摘んでいるであろう辺りに、正面のひなたの視線が向いているのは、もはや気のせいではない。



「雪斗?」

「なに?」


「……後で電話していい?」

「……いいけど」


 ひなたの様子はいつもと変わらないが、2人で電話をしたことなど記憶にない。

 突然それだけ伝えられるとなんだか怖い。



「じゃ、あとで……」



 お昼の用意があるからと自転車で帰っていったひなたを見送り、俺たちは自転車売り場へと向かった。



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 ホームセンターの自転車売り場には、通学用らしい自転車がずらっと並んでいた。


 シティサイクル、クロスバイク、そして電動アシスト付きのものまで、似たような形が何列も続いている。



「こんなにあるのかー……」



 みつきがぽかんとした顔で言った。



「どれ選べばいいのかな……」

「通学なら普通のでいいんじゃないか?」



 ハンドルを握りながらみつきが「普通ってどれ?」と言いながらこちらを見てくる横で、かぐやは落ち着いた様子で自転車を見ていた。


「坂が多いんだよね?」

「まあ多いな……坂しか無いかもしれん」

「だったら変速は必須として……うわ、意外と高い」


 みつきが値札をみて驚いていると、隣でかぐやが少しだけ迷うような顔をした。


「みつき」

「なぁに?」

「……お母さん、電動でもいいって言ってたわ。お金預かってきてる」



 一瞬、みつきの動きが止まる。


「えっ、マジ?」


 みつきの目が一気に丸くなった。


「うん。通学、大変だろうからって」



 すぐさまみつきは売り場の奥にある電動自転車の列に移動し、ほとんど迷う様子もなく白い電動アシストの自転車を指さした。


「じゃあこれ!」

「決めるの早くない?」

「だってかわいいし楽そう」


 かぐやは少しだけ笑って、隣の黒い電動自転車を見た。


「じゃあ私はこっちにしようかな」

「色違いだね!」


 2人はすぐに店員を呼び、すぐに購入の手続きをはじめた。

 待っている間、ふと値札を見ると電動自転車は普通のよりだいぶ高い数値が書かれている。

 にも関わらず、2人とも迷いなく決めた。


 ……金持ってるな。お嬢様高校だもんな。

 もはやそれくらいしか感想はない。


「家まで配達します?」


 どうやら、今日の昼過ぎまでに家まで届けてくれるらしい。




 手続きが終わり、車に戻る途中でみつきが嬉しそうに言う。


「電動って初めて乗る」

「かなり楽って聞くけど」


「ほんと?」

「多分」


「多分ってなに……雪斗君のは普通のだっけ?」

「そうだな」


 そもそも俺が買ってもらうときは、電動自転車なんて選択肢にすら登らなかったし、別に今もしんどいとは思っていない。



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 来るときと同じポジションに車に乗り込んで家へ戻り、母が簡単な昼食を作り、やっと起きてきたはるかも揃って居間で昼飯を食べた。


 少ししてホームセンターの軽トラックが来て、自転車を2台降ろしていった。

 みつきが自転車の横でしゃがみ込んで珍しそうに眺めている。


「これが電動かー」

「普通の自転車だろ」

「でもボタンいっぱいついてる」


 かぐやは落ち着いた様子で母親と一緒にサドルの高さを調整していたので、俺はそのままみつきのサドルを調整することにした。


「ちょっと跨ってみて」

「はーい……ちょっと高いかなぁ?」


「じゃぁちょっと降りて」

「ここまま一旦下げてみて」


 そんな横着な……と思いながらも、サドルを一番下まで下げる。

 みつきは足をつけ、ハンドルをもったまま仁王立ち状態だった。


「はい、あげてー」


 どうやらこのままサドルを上げろということらしい。


「……」


 パンツスタイルだから恥ずかしくないとでも思っているのだろうが、こっちはそうは行かない。

 かぐやからのチラッとした視線に気づかないふりをし、そのままサドルを上げていく。



「うん……その辺……ちょっと痛いから下げて」



 お嬢様のご依頼通り片手でサドルを保持したまま、ネジを締める。

 少しつま先立ちになったみつきの肩に顔が近づくが、本人は全く気にしていない様子だった。



「みつき……近い」



 かぐやの横からの呟きも無視し、ぐっと最後までネジを締めるとどうやらご満足いただけたようだった。



「このあとさ、ちょっと走ってみない?」

「どこまで?」


「学校まで通学練習」

「確かに……道も覚えておきたいし」


 かぐやもうなずき、2人揃ってこちらを見る。


「雪斗くん、案内してくれる?」

「まあいいけど」



 どうせ通学路だし、説明するより走った方が早いだろう。

 俺達はそのままお互いの母親に声をかけ、3人で学校まで向かうこととなった。



 家の前に出て、みつきが電源ボタンを押すと電子モニターが光り、モーターがスタンバイに入る。



「おお……なんか光った」


 ペダルを軽く踏み込んだみつきは驚いた表情を見せた。


「……軽っ!」


 それを見て、かぐやも静かにペダルを踏み込む。


「確かに楽ね……」



 3台の自転車が山道へと出る。


 いつもの通学路。

 田んぼと山に挟まれた細い道を、3人で下っていった。


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