04-さようなら、平穏な学校生活
校長から『質問はありますか』と言われたが、質問どころではない。
俺たち3人も、2年生の先輩も頭の処理が追いついていない。
女子高に吸収され、女子生徒だけが90人近く増える。
教室に残された俺たちは、しばらく黙ったままだった。
最初に口を開いたのは葵だった。
「……そんなに増えたら女子校やん」
「そうだな」
「来週から……?」
「そうらしいな」
葵とひなたが机に突っ伏した。
「情報量多すぎ」
「それは思う」
「どうなるんだろうね」
「さあ」
「怖くない?」
「なにが」
「女子だけ90人増えるの」
それは確かに怖い。
俺は窓の外を見た。
校庭はいつも通り静かだった。
だがそれも今週までらしい。
来週からはどう想像しても、別の場所になる。
葵が顔を上げた。
「とりあえず、今日はもう頭使いたくないから帰ろか」
それは同意だった。
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学校を出て珍しく3人で坂を下った。
いつもの通学路。
いつもの山道。
だけど頭の中だけが落ち着かない。
「なあ」
「なに」
「体育どうなるんやろ?」
「知らん」
「更衣室とか」
「……」
「絶対大変やん」
「……ちょっと怖いかも……知らない人がいっぱい増えるの」
それは確かにそうだ。
この学校は今まで、ほぼ顔見知りしかいなかった。
それが来週から、知らない人だらけになる。
ホームのはずなのに完全にアウェイになるのだ。
しかも地元民ですらない。つまり共通の話題がない。
「ひなた」
「うん」
「絶対グループできるやんね」
「できるね」
「都会の子とか、着いていけるかなー」
葵は少し不安そうに笑った。
「なんとかなるだろ」
「雪斗くん、雑」
「事実だしなー……」
「雪斗らしい」
俺は肩をすくめる。
「考えても仕方ない」
「まあそれはそう」
「来たら来たで考えるか」
「雪斗くん、今日バイト?」
「あぁ」
「行っていい?」
「いいよ」
「ひなたも行こ?」
「うん……」
俺達は結局謎のテンションのままバイト先へ向かうことになった。
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カラン、とベルが鳴る。
「いらっしゃい……ああ、雪斗か」
カウンターの奥から森野しおりが顔を出した。
「今日は3人やな」
「しおりさんこんにちわ。ちょっと休憩させて」
「好きなとこ座っとき」
2人はカウンター席に座る。
俺は手を洗ってエプロンをつけた。
「雪斗、休み明けの学校どうやった」
「爆弾が落ちました」
「なんやそれ」
「女子校に編入されて女子だけ100人ほど増えるらしいです」
しおりの手が止まった。
「……あぁ、その話生きとったんか」
「知ってたんですか?」
「そういう話があるいうことぐらいはな。いつから?」
「来週」
「急すぎるやろ」
しおりが苦笑いを浮かべながらコーヒーを淹れる。
「でも賑やかになるな」
「賑やかどころじゃない」
葵がコーヒーを飲みながら言う。
「怖いよね、ひなた」
「話、合うかな」
「まあ慣れるやろ」
「しおりさん……そんなもんですか」
「人なんて増えたら増えたで回るもんや」
「でもさー、都会の女子やで」
「そうらしいな」
「絶対オシャレやん」
「この辺の女子と違うよね……」
葵とひなたが交互に言う。
「2人とも女子高生だろ」
「それはそうやけど」
「同じ人間だから大丈夫じゃないか」
俺はグラスを拭きながら、アイスコーヒーを口にしている二人へ声をかけた。
「雪斗は昔からそうよね」
「何が?」
「細かいこと気にしないとこ……でもさ……」
歯切れの悪いひなたはアイスコーヒーをストローテマかき混ぜながらチラリと俺の方へと視線を向けた。
「1年で男子1人よ? 大丈夫?」
「……なるようになるだろ」
俺の返事に葵が笑った。
「やっぱ雑やな」
「雪斗が大丈夫でも……周りが大丈夫かな」
「それな」
なにがそれなのかわからないが、葵とひなたは何やら納得したらしい。
そんな話をしながら、二人の気分は晴れ上がることなく、色々な悩みを抱えたまま帰っていった。
「じゃぁ……また月曜」
「ほな、またなーバイト頑張って」
「おつかれ」
店のベルが鳴り、2人の姿が見えなくなる。
俺はカップを片づけ、テーブルを拭いて、そのままバイトを続けた。
客はいつも通り、駅前もいつも通り。
コーヒーの匂いと新聞の音。
夕方になると少しだけ人が増えてくるのも、何も変わっていない。
だけど頭の中だけ少し落ち着かないまま、夕方になりバイトの時間が終了した。
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自転車に乗り、山道を上る。
朝よりも坂がきつい。
ようやく家の前の道に出たとき、俺は自転車を止めた。
……トラック。
家の前に、大きな引っ越しトラックが止まっていた。
しかも1台じゃなく2台。
荷台の扉が開いていて、作業員が何かを運び込んでいる。
俺はしばらくそれを見ていた。
そして思った。
……嫌な予感しかしない。




