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09-賑やかな通学路

 翌朝。

 目が覚めると、まだ通話はつながったままだった。


 スマホを耳から離して画面を見ると通話時間がとんでもないことになっている。

 ……2人とも寝落ちしたか。



「ひなた?」


 小さく声を出してみる。


『……んぅ』


 向こうからすぐに寝ぼけたような声が聞こえてきた。

 やはりあっちも寝落ちしていたらしい。


『ん……雪斗おはよ……』

「おはよう」


 少し沈黙……。


『今起きたの?』

「うん」


『私も……』


 通話の向こうで布団の音と共に、微かに欠伸の声が聞こえた。


『よし、じゃあ準備するね』

「わかった」


『迎えに行くね』

「おう」


 そこで通話が切れた。



 スマホを枕元に置いて起き上がると、カーテンの隙間から朝の光が入っていた。


 下へ降りると母が朝食を作っており、台所からいい匂いがしていた。

 


「おはよう」

「おはよう」


 居間ではすでにみつきとかぐやが制服姿でトーストを口に運んでいた。

 昨日も見たが、白鷺附属の制服はやっぱりどこか上品な感じがする。


「どう? 今日はちょっときつめにしたの」


 みつきが手で胸元を抑えながら、朝から何の話だよと思うようなことをぶっ込んでくる。


 あまりその話題には触れないよう、俺はトーストをかじりながら話題を変える。



「そういえば今日、ひなたが迎えに来るって」


 唐突なひなたの名前に母が顔を上げた。


「ひなたちゃんが? 珍しいねー。小学校のころはよく一緒に行ってたけど」

「そうだな」


「ひなたちゃんって昨日会った幼なじみの子だよね?」

「そう」


 かぐやは何も言わずにコーヒーを飲んでいたが、ふとこちらを見て、小さく「ふぅん」とつぶやいた。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 朝食を食べ終えて、鞄を持って外に出るとちょうど門の向こうから声がした。


「雪斗ー」


 昨日の夜からずっと聞いていた声に振り向くと、いつもの通学用の自転車に乗ったひなたが来ていた


「おはよう」

「おはよう」


 ひなたは門の前で止まると、みつきとかぐやを見た。


「あ……昨日はどうも」


 ホームセンターで顔を合わせているからか、少しだけ落ち着いた様子だった。


「改めてよろしくね」

「うん、私、九条みつき。同級生」

「三輪ひなたです、よろしくね」


 ひなたとみつきが軽く頭を下げる。


「九条かぐや……みつきの姉です」

「よろしくお願いします、先輩」


 ひなたは少しだけ安心したように笑った。


「じゃあ行こっか」


 そうして4人で坂道へ出た。

 まだ少し冷たい朝の空気を感じながら山道をゆっくり下っていった。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 しばらく走ったところで、前方にもう1台の自転車が見えた。


 植村葵だった。

 葵は近づいてくるとブレーキをかけ、4人を見て目を丸くした。


「うわ、増えてる!?」

「増えてるぞ」


 俺が言うと、みつきが元気よく手を振った。


「九条みつきです!」


 葵が笑いながら返事する。あまり驚かないところを見ると、二人が増えることはひなたから聞いていたのだろう。


「植村葵。よろしくなー」

「同級生の!」

「うん、私も聞いた聞いた」


 葵はかぐやの方を見てぺこりと挨拶をした。


「先輩ですよね?」

「姉です」


 今まで3人しかいなかった通学路を今日は5人で学校へと向かう。



「じゃ、行こっか?」


 ひなたが進み出し、俺たちはそのまま後ろに着いて駅前の方へ向かった。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 駅前を抜けて学校へ向かう道に入ったあたりで、すでに様子が違っていた。


 普段ならこの時間は通学する生徒どころか人の影はほとんど無い。

 たまに地元の中学生や、駅に向かう人がいるくらいだ。



 だが今日は違った。



 駅前の交差点あたりから、見慣れない制服の女子が何人も歩いている。


 わらわらしていた。


 スマホを見ながら歩いている子もいれば、周囲をきょろきょろ見回している子もいる。




「……多くない?」

「多いね」


 みつきが小さく言って葵も苦笑する。


「駅前からこんな感じなんや……そらそうか」


 白いシャツに紺のブレザー、細いリボンのついた見慣れない制服。

 白鷺附属の制服だ。

 駅前のコンビニの前にも数人いるし、歩道にもちらほら。


「ほんとに白鷺の子が来てるんだ」


 みつきが自分の制服をチラ見してからしみじみと言う。


「2人も白鷺だろ……」

「いやーでも実際見ると変な感じやね」


 葵は元気に笑っているがひなたは特に驚いた様子もなく、そのまま自転車を走らせていた。



 やがて学校へ向かう坂道に差し掛かる。

 先頭はひなた、その後ろに葵。


 その後ろをみつきとかぐやが並び、最後に俺がついていく。


「あの坂きた!」


 みつきの声が上がり、葵が振り返りながら言った。


「ここ結構くるよね」


 そう言いながらも、葵は慣れた様子でペダルを踏み込む。


「それ電動?」

「うん」


「いいなー」

「坂すごいって聞いたから」

「うん、それが正解やね」


 葵とみつきが楽しそうに話しながら登って行く。


「普通の自転車だと押したほうが楽やからね」

「慣れるよ」


 前を走っていたひなたが少し振り向いて言った。

 俺はそもそも慣れたく無いし、何ならそろそろ押して歩きたい。


「ひなたちゃん普通の自転車だよね?」


 みつきが後ろから声を上げて聞く。


「うん」

「大丈夫?」

「全然大丈夫」


 ひなたは考え込むことも無くあっさり答えると、後ろで葵が小さく笑った。


「ひなたは体力おばけやからなー」

「違うわよ」


 ひなたは少しだけ苦笑いしてそのまま坂をグイグイと登っていく。

 坂の途中でも歩いている女子を何人も追い越した。


 何人かは地図アプリを見ながら歩いており、坂の途中で立ち止まっている子もいた。


 制服はみんな同じ白鷺附属のもので、ひなたと葵だけが違う制服だ。

 やがて坂を上りきると見えてきたのは、青垣高校の校門だった。




 そして――




「……すご」


 みつきが小さく声を漏らした。

 校門の……昇降口の前にはすでに大勢の生徒が集まっていた。


 今まで見たことがないくらい、人がいる。


 まだ早い時間なのに、見慣れない制服の女子が何十人も集まっていた。

 校舎を見上げている子もいれば、友達同士で話している子もいる。



「ほんとに増えたな……」



 葵が言っている横で、ひなたが自転車を止める。



「なんか……急に学校っぽい」



 確かにそうだった。

 今までは校門に来ても誰もいないことが多かった。


 それが今日……今日からは違う。


 知らない生徒が大勢いる。

 かぐやは静かに校舎を見上げていた。



「……賑やかね」


 俺たちは自転車を置いて、昇降口へと向かった。



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 下駄箱の前まで来ると、そこにも人が集まっていた。

 青垣高校の昇降口は広いが、今まではその広さを持て余していた。


 だが今日は白鷺附属の制服の女子が何人も下駄箱の前に立ち、番号を確認したり、友達と話したりしている。



「……並んでる」



 葵が呆然と言う。

 確かに下駄箱の前に人の列が出来ていた……今までこの学校でそんな光景を見たことはない。



「靴箱って場所決まってるんだよね?」

「多分そう」

「あ、名前書いてあるみたい」


 そんな会話があちこちから聞こえてくる。


「なんか普通の学校みたい」


 そんな様子にひなたが苦笑した。


「いや学校だろ」



 俺たちは人の隙間を抜けて、自分の下駄箱のところへ行く。

 一応、先週の金曜に使ったので迷うことはなかった。みつきとかぐやも無事自分の下駄箱を見つけたようだ。



 靴を履き替えて昇降口へ上がると、廊下にも人が多かった。

 スマホを見ていたり、校舎を見回していたり、少し落ち着かない様子の子もいる。


 そしていろんな香り。

 今までの古ぼけた木造の匂いや土の匂いではなく、化粧品売り場のような甘い香りが漂っていた。


「みんな迷ってるね」

「そりゃ初日だしね」


 みつきやかぐや、葵も特に気にならないらしく、普通に話を続けている。



 廊下を進むと、掲示板に大きな模造紙が貼ってあり、人だかりが出来ていた。


「クラス分け?」

「多分」



 近づくとやはりクラス名簿だった。



 1年生のクラス分け。


「1年A組とB組だ」


 みつきが言い、葵が名簿を見ながら指で自分の名前を探す。


「うち……A組やな、そういや同じって言ってたもんな」

「私も」


 ひなたが小さく言うと、みつきもすぐに自分の名前を見つけたようだ。


「あ、私もA組」

「3人一緒やね」


 葵が笑う横で、俺も一応確認する。


「……A組だな」

「やった」


 みつきが嬉しそうにするが、女子の名前が並ぶ名簿に突然自分の名前がある違和感を感じていた。

 男女別なら一番上から下に俺の名前があるのだろうが、全員混ぜての五十音順のようだ。


 その横で、かぐやは別の紙を見ていた。



「2年は……A組だけね」

「1クラス?」


「そうみたい」


 みつきの質問にかぐやは小さくうなずいた。


「3年もA組だけね」

「3年って今までいなかったしな」



 青垣高校は生徒が少なすぎて、3年生のクラス自体が存在していなかった。

 それが今日から出来たということらしい。


「2年と3年は2階ね」


 かぐやが掲示を見ながら言うと、みつきが少し寂しそうな顔をした。


「じゃあお姉ちゃん上の階なんだ」

「学年違うんだから当然でしょ」



 かぐやは落ち着いた声で言ったが、そのあと少しだけこちらに近づいてきた。

 そして、誰にも聞こえないくらいの小さな声で言う。



「……ねぇ雪斗」

「なに?」



 少しだけ間が空き、かぐやは目を逸らしながら溢した。


「帰り……待っててくれる?」


 いつもの落ち着いた調子とは少し違っていた。


「別にいいけど」


 そう答えると、かぐやは小さくうなずいた。


「ありがとう」



 ちょうどその時、廊下の奥から先生の声が聞こえた。


「クラスを確認したら教室入ってくれー」


 それを聞いて廊下にいた何人かの生徒が動き出し、俺たちも1年A組の教室へ向かって歩き出した。


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