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私は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐な「開発者」を除かねばならぬと決意した。
私にはゲーム製作がわからぬ。私は、村の住人である。スライムを狩り、草をむしって暮らして来た。
けれどもバグに対しては、人一倍に敏感であった。
奈落の底で、私は目を覚ました。
そこは、紫と黒の市松模様が無限に広がる、色彩の欠落した世界であった。テクスチャが貼られていない。光源設定もおかしい。
ここはいわゆる「デバッグルーム」。開発者がテストプレイのために用意した、神の領域である。
前方に、一人の男が立っていた。
背中に『GM』という文字が浮遊している。彼こそが、この世界を創り給うた神、あるいは運営スタッフのアバターであろう。
彼は私を見るなり、仰天した様子で声を上げた。
「なっ……! 貴様、プレイヤーか!? 馬鹿な、ここは管理区域だぞ! どうやって座標計算を突破した!」
私は歩み寄った。
会話など不要だ。私の目的は一つ。この部屋に置かれているであろう、最強のデバッグアイテム「全知の剣(攻撃力9999)」と「神の靴(移動速度500%)」の回収である。
「待て! 近づくな! 貴様のアカウントをBAN(停止)するぞ!」
神が手をかざす。
空中に【強制退出】という赤いウィンドウが出現しかけた。
(遅い)
私は前転した。
ウィンドウが表示される1フレーム前に、私は神の懐へと飛び込んでいた。
これは「会話キャンセル」ではない。「イベント発生判定」そのものの破壊だ。
私は神の足元に転がっていた宝箱(グラフィックは仮素材の『箱』と書かれた立方体)を蹴り開けた。
中から現れたのは、虹色に輝く剣。
アイテム名【Debug_Sword_Ver.Final】。
「き、貴様……それを装備するな! それは変数を直接書き換える禁断の……!」
私は装備した。
重さを感じない。モーションすら設定されていないため、剣は私の手に吸い付くように固定された。
私は神を見上げた。
神は、恐怖に顔を歪めていた。
「わかった、わかったぞ……! 貴様はプレイヤーではない。貴様は、我が杜撰なプログラミングが生み出した『バグの集合体』……いや、世界を粛清するために現れた『デリート・プログラム』の化身か! 自らが作った箱庭を壊される、これが創造主の業というものか……!」
(何をブツブツ言っている。さっさとセーブさせろ)
私は剣を一閃した。
振るう動作はない。判定だけが発生する。
ズバァァン!
空間そのものが悲鳴を上げた。
神のHPバーが表示されることもなく、彼の存在を表すポリゴンが、砂のように崩れ去っていく。
「見事だ……我が子よ……世界を……無に……」
神が消滅した。
同時に、世界が白く染まっていく。
エラーログが滝のように視界を埋め尽くす。
【System Error: World data not found.】
【Shutting down...】
私は満足した。
これでいい。神を倒し、世界を崩壊させることこそ、RTAにおける「強制終了エンド」。
通常のエンディングよりも速く、タイトル画面に戻るための最短ルートである。
意識が遠のく中、私は薄れゆく視界の隅で、クリアタイムを確認した。
【Total Time: 00:13:02】
神を殺して、三分弱。
悪くないラップタイムだ。
私の身体は光の粒子となって分解され、やがて、懐かしき初期画面「ニューゲーム」の文字の前へと、再構成されていくのであろう。
勇者は死なぬ。
ただ、再走するのみである。




