表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界グリッジスピードラン  作者: じょな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

2

私は飛んだ。いや、正確には「落下判定をリセットし続けた」と言うべきか。


城壁からの決死のダイブ。地面が迫る。普通の人間ならば、ここでミンチになるところだ。だが、私は着地の瞬間にメニュー画面を一瞬だけ開き、そして閉じた。


世界が一瞬、止まる。


システムは私の座標を「地上にある」と誤認する。慣性は死んだ。私は無傷で、タンポポの綿毛のようにふわりと草原に降り立った。


(着地硬直キャンセル成功。猶予フレームは二。甘い設定だ)


眼前に広がるは、広大なチュートリアルの平原。風がそよぎ、緑の草が波打っている。遠くには愛らしいスライムたちが跳ねているのが見えた。


なんとのどかな、平和な光景か。


私は激怒した。


広い。あまりにも広すぎる。


この無駄に広大なマップはなんだ。開発者の自己満足か。この草原を徒歩で抜けるのに、一体何分かかると想定しているのだ。その間の移動入力の手間を、プレイヤーの徒労を、彼らは考えたことがあるのか。


(移動速度上昇のバフアイテムはない。ならば、物理演算を壊すのみ)


私は足元に転がっていた、手頃な大きさの岩を拾い上げた。


城のバルコニーから、王女が何か叫んでいるのが聞こえた。


「勇者様! それは……『大地の守り石』!? 精霊の加護が宿るとされるその石を、どうされるおつもりで!?」


ただの石だ。


私はその石の上に乗り、屈伸運動を高速で繰り返しながら、石を掴む判定と離す判定を交互に入力した。


物理エンジンが悲鳴を上げる。


「物体の上にキャラクターがいる」判定と、「キャラクターが物体を持ち上げようとしている」判定が衝突する。矛盾した力は行き場を失い、やがてベクトル計算がバグを起こす。


ガガガガガッ!


空間から不快なノイズが弾けた。


次の瞬間、私と石は、砲弾のような速度で斜め上空へと射出された。


「ひいいぃぃぃっ!? そ、空を……人が石に乗って空を飛んでいるわ!?」


王女の絶叫が遠ざかる。私は加速した。風が顔面を殴りつける。眼球が乾き、呼吸すら困難なほどのGが全身を襲う。


(座標固定、安定。速度、音速以下。処理落ちは……なし!)


眼下を景色が流星のように過ぎ去っていく。


本来ならば、ここで最初のボス、「森の守護者」とかいう大木が立ちはだかるはずであった。さらにその先には、四天王の一人、「爆炎の将軍」が待ち構えている渓谷があるはずであった。


見えた。


眼下に、赤いマントを翻した男が、岩山の上で腕を組んでいるのが見えた。あれが四天王か。彼は今まさに、侵入者に向けて口上を述べようと、息を吸い込んだところであったろう。


「我こそは魔王軍が四天王……」


遅い。


彼がその名を名乗り終える頃には、私はすでに隣のエリアに到達している。


イベント判定のあるエリアを、私は高度五千メートルの上空から通過した。トリガーを踏んでいないため、彼らは私の存在に気づくことすら許されない。戦闘BGMも鳴らない。彼らは永遠に、来ない勇者を待ち続ける哀れなNPCと化したのだ。


(イベントスキップ成功。推定タイム短縮、四十分)


前方に見えてきた。


禍々しい紫色の雲に覆われた、魔王城の尖塔が。


召喚から、わずか五分。


私は魔王城のテラスを目がけて、一直線に突っ込んだ。減速はしない。止まる必要などない。私の勢いは、そのまま最強の武器となるのだから。


待っていろ、魔王。


私には、貴様の変身シーンに付き合ってやる義理はない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ