第八十話
──辰蔵がお千代を抱えて廊下の先を歩き。新吾がその前を行く。
源一郎はその背中を見送った。若者の歩みは確か──震えを隠せない腕で、それでもお千代をしっかりと抱えている。初めて刃を振るった者の背に、後悔はない。
──あれなら大丈夫だろう。
源一郎は辰蔵たちが角を曲がるのを見届けてから、踵を返した。
──宗右衛門の姿は消えたまま、見つかっていない。
庭で這いつくばっていたはずの男が消えていた。狸たちの起こした怪異に打ちのめされ、腰を抜かしていたはずだが──逃げる気力だけは残っていたらしい。
だが、屋敷の周囲は火盗改の手勢が固めている。逃げ場などないのは確かだ。
源一郎は足音を殺して屋敷の外縁を歩いた。月明かりが庭石の影を長く伸ばしている。人の気配を拾いながら歩を進め、角を曲がったところで──物音がした。
──いた。
塀にしがみついていた。必死に手足をかけ、乗り越えようともがいている。だが体が思うように動かないらしく、何度も滑り落ちては掻き上がろうとしていた。
かつては上方で猛威を奮った盗賊団の頭領。腕が立つとも聞いていた。だが、それは遠い昔のこと。十数年を奉公人として過ごした体は、もはやその頃の身体能力を失っている。長い堅気暮らしが、男から身体の俊敏さを奪っていた。
「──宗右衛門」
声をかけると、男の動きが止まった。
ゆっくりと振り返る。月明かりの下に晒された顔は、恐怖と疲弊で歪んでいた。そして──源一郎の顔を捉えた瞬間、その表情が変わった。
「……お前……」
記憶を手繰り寄せているようだった。そして──思い当たったらしい。
「思い出したぞ……!お前は、あの時の……あのボンクラの付き人だった男……!」
辰蔵が喜兵衛の焼香に訪れた折、源一郎は荷物持ちとして同行していた。町人風の着流し姿で刀も持たず、辰蔵の背後に控えていた。あの時、帳場で宗右衛門と一度だけ目が合った。
宗右衛門は商人らしい柔和な笑顔を浮かべた男だった。だが、その目の奥に一瞬だけ違うものが見えた。辰蔵を見る目──。弔問に訪れた若い武家の息子を値踏みする暗い目。商人の顔の下に潜んだ、冷たい計算の光。あの目を見た時に分かった。宗右衛門は堅気ではないと。
辰蔵からお千代の相談を受けた後、宗右衛門の身辺を探り始めたのは、その直感が正しいものであるのか確かめるためでもあった。
「あの時から……あの時から、わしらを探っておったんかっ……!」
宗右衛門の声が裏返った。
「そうだとも──。お千代殿は初めから遺言状を疑っていた。喜兵衛殿が本当は殺されたのではないかと。──そして、聞き込みの最中、私もさる筋から『本物』の遺言状のことを聞いてな、確信したのだ」
「っ……!」
「お前も本物の在処が気になっていたのだろう?最後だから教えてやるが──それはな……伊勢屋の仏壇にある細工。須弥壇にある隠し収納。そこに名主の署名の入った本物の遺言状がしまってあるそうだぞ」
源一郎は静かに言った。宗右衛門の顔から、血の気が引いた。
「……くそっ……喜兵衛めっ……!」
「私もまだ見てはいないが……お千代殿に店を任せると、喜兵衛殿の筆で書いてあるようだ。直筆──それも名主の署名があれば、お前が持っている遺言状は如何なる理由であっても無効となる」
宗右衛門は口を開いたまま、固まった。十数年積み上げてきたものが、足元から崩れていく感覚を味わっているようだった。
「おどりゃあ、わしを……最初っから嵌めるつもりで泳がせとったんか……」
「証拠を集める時間が必要だった。お前に動いてもらう必要もあった。結果としてお千代殿には、怖い思いをさせてしまったが……」
「……」
「遺言状の偽造を請け負った弥平の身柄は既に火盗改が押さえている。印の一件で喜兵衛殿の従兄弟も招喚される。以前、番頭候補を争った手代が死んだことも取り調べが必要だ。そして──お前が『影鰐』本人であることは、その背中に刻まれた刺青が証明している」
宗右衛門の表情が深い屈辱の色に染まった後、一瞬の沈黙があった。
「……わしは、何も悪いことなどしとらん」
真顔でそれを言った。さも、真実を騙るかのように。
「悪いことなど、何もしとらんぞ……!喜兵衛は確かに病で死んだ……!遺言状も確かに正統なものや……!手代は突然店を出て行って──」
「お前が消したのだろう」
「証拠はないやろっ……!」
「確かに、手代の件はもはや調べようもない。しかし──弥平はこの屋敷で文書の偽造をしていたのだろう?調べれば、その練習紙くらいは出てくる。それに、喜兵衛殺害の手法も既に調べがついている──」
源一郎の声は冷静なまま。それがかえって宗右衛門の顔を緊張させる。
「っ……!」
「聞けば、お前が毒を入手した伝手は少々『特殊』らしいな?《《さる、薬学に明るい者》》から報せがあった──。殺害に使われた薬物は、『阿芙蓉』に『曼荼羅華』であろうと」
宗右衛門の顔が苦渋で満ちた。憎悪で人を殺せそうなほどに源一郎を睨みつける。
「……っ……十年、や……十年かけて、全部仕組んできた。播磨から出て、上方から身一つで江戸へ来て、自分の居場所を手に入れようとした……!それの何が悪いっ……!」
「人を殺めた」
「それが道理やっ!あいつらが邪魔せんかったら……そうでなければ誰も死なずに済んだやろうがっ……!全部、邪魔立てした連中が悪い……!」
悪人の語る道理。それは結局は身勝手なものでしかない。
「お千代殿も、邪魔だったから狂人に仕立てたのか」
「あの馬鹿な娘が店を継いでは、店が潰れる……!わしが積み重ねた十余年が全部無駄になる……!そんなら、わしが店の主になった方がええやろがっ!」
「──お前はやり方を間違えた」
源一郎は一歩踏み出した。
「お前の語るそれは、ものの道理ではない。全て邪な欲望によるものだ」
「だから何やっ……!この世は強い者が生き残り、弱い者が虐げられるっ……!俺はどん底から、ただ這い上がろうとしただけや……!俺だけが責められる謂われはないっ……!」
「……これ以上は何を言っても無駄なようだな」
源一郎が静かに言った。
「──影鰐、宗右衛門。お前の悪事は、今ここで終わる。天網恢々、疎にして漏らさず。火盗改の詮議からは逃れられぬと知れ」
宗右衛門の顔が、怒りと絶望の間で歪む──。弥平の証言。従兄弟の証言。偽の遺言状と本物の遺言状。背中の刺青。毒の出所。証拠は積み重なっている。それは分かっているのに──男は諦められなかった。
「……ふざけるなっ……ふざけるんやないっ……!!お前らみたいな武士連中が何の苦労をしたっちゅうんやっ……!生まれた時から上の方にいる奴らが、這い上がろうとした俺の何が分かるっちゅうんやっ……!」
宗右衛門の声が裏返る。心の奥底で淀み溜まっていた怨念が一度に吹き出していた。
「そんなん……認めてたまるかぁぁぁ!死ねやぁぁぁっ!」
懐に手が伸びた。匕首を抜き、飛びかかってきた。追い詰められた獣の、最後の一咬み──。
だが源一郎の動きの方が速かった。腰の刀を鞘ごと振り抜き、その一撃が宗右衛門の腕を打ち据えた。鈍い音と共に匕首が弾け飛ぶ。
「ぐあっ……!」
衝撃に宗右衛門がよろめく。
──その瞬間だった。
源一郎の右手が柄にかかった。
左の親指で鍔を押し上げる──鯉口が切られ、カチと微かに鳴る。わずかな動作だった。だが宗右衛門の目に、それが映った。
次の刹那──宗右衛門は見た。
刀が抜かれる。音もなく、月光を反射し銀の光が走るのを。剣閃──水中の魚が鱗で陽の光を反射するような、一瞬の煌めき。
刃が体を通る感覚がし、真っ二つに断たれたと認識した。切先は既に振り抜かれ、血飛沫が月に散る──自分の体が左右に分かれて崩れ落ちていく。痛みすらない。ただ、自分が死んだという事実だけが、強烈に脳裏を焼いていた。
そして──源一郎の顔が見えた。
それは人の顔ではなかった。鬼の相貌。怒りもなく、憎しみもなく、ただ切ることだけを知っている剣鬼のそれ。鬼切の血を引く者が放つ、人ならざる圧。月明かりの下、その目が冷たく宗右衛門を貫いていた。
十数年、裏の世界を生き延びてきた本能が叫んでいた。
──逃げられない。
宗右衛門の体から力が抜けた。膝が折れた。声が出なかった。言い訳も、怒りも、諦めも、全てが一瞬で消えた。ただ恐怖だけが残り、そのまま──意識が断たれた。
地面に崩れ落ちる体を源一郎は静かに見下ろした。
刀は、抜かれていなかった。鯉口に指をかけ、刀を抜く素振りをしただけで宗右衛門は『勘違い』し、昏倒していた。それはまるで、狐狸の化かしのように──。
源一郎は小さく息をついた。そして配下の同心を呼び、宗右衛門を捕縛させた。縄をかけられ、引き立てられていく背中を──源一郎は無言で見送ったのだった。
§
屋敷を一通り片付け終えた後、源一郎は裏庭に出た。
いつの間にか夏の盛りはすぎ、夜気が冷たくなってきている。捕縛した者たちは既に同心や岡っ引きが引き立てていき、屋敷には源一郎が残るのみとなっていた。
縁側に腰を下ろすと、庭の奥の暗がりで何かが揺れた気配がした。
「──終わったぞ」
源一郎は暗がりに向かって声をかけた。
しばらく間があった。それから、ふるふると空気が揺れ、一匹が姿を現した。腹の太った大きな老狸だ。白い腹毛が月明かりに光っている。どっしりとした体躯に、あるじ格の風格がある。その後ろから、子狸が三匹ほど、おそるおそる顔を覗かせた。
「──おう、源坊」
老狸が立ち上がり、人の言葉を話した。のんびりとした声だった。こちらが捕物を終えたばかりだというのに、まるで呑気に縁側で茶をすすりながら観察していたかのような調子。
「今夜はよく働いてくれた。礼を言う」
「なんの、礼ならば既に受け取ってしまったからのう」
老狸が満足そうに腹を撫でた。
「約束の一斗樽。あれは良い酒じゃった。灘の辛口を選ぶとは、源坊も粋になったものよ。こう、手が止まらんでな?すぐに無くなってしまったよ」
「……一斗もあったのに、もう飲んだのか」
「半分は儂が飲んだ。残りは子供らと分けた」
老狸がぽんぽんと腹を叩いた。子狸たちがきゃっきゃっと笑い転げている。まだ酒が抜けていないのか、一匹がころころと足元で転がっている。
源一郎は呆れた。だが、その呆れの中に苦笑が混じる。この狸たちとの付き合いは長い。源一郎が物心ついた頃から──いや、本所に生まれ落ちた時から、この老狸はそこにいた。
「ところで」
源一郎は口調を少し改めた。
「今夜、あの男たちに──盗賊どもに何を見せたんだ?中からの悲鳴が凄まじかったぞ」
老狸の表情が一瞬だけ変わった。いつもの飄々とした顔に僅かな焦りが差す。
「……うむ。まあ、あれよ。人の心を覗いて、恐ろしいものを見せてやったまでのこと。大したことはしておらん」
「大したことはしていない、にしては随分と効いていた様子だが」
「うむ……まあのう……」
老狸が腹を掻いた。歯切れが悪い。この狸がこういう態度を取る時は、大抵ろくなことをしていない。源一郎は目を細めた。
「何を見せた」
「…………」
「爺」
「……分かった、分かった。言うわい」
老狸は観念したように、ぽりぽりと耳の後ろを掻いた。
「実を言うとのう。あの男どもに見せた幻は──源坊、お前さんの記憶を元にしたものじゃ」
源一郎の眉が動いた。
「……俺の記憶、だと?」
「うむ。覚えておるかのう。源坊がまだ小さかった頃、一度だけ──お前さんの心を覗いたことがあったろう」
──覚えている。
忘れるはずがなかった。幼い頃のことだ。まだ前世の記憶が鮮烈に残っていた時期。本所の屋敷の裏庭で、この老狸が現れ源一郎の心を覗き込んだ。
そこにあったのは──前世の記憶だ。天を突き刺す高い建物。地を這う鉄の龍。轟音を立てて走る光の箱。夜を昼に変える無数の灯り。信じがたい人の世の光景が、源一郎の心の中にぎっしりと詰まっていた。
「あの時は儂も驚いた。人の子の心に、あんな途轍もないものが詰まっておるのを見たのは初めてじゃった。高い櫓に、光る板に、轟音を立てて走る鉄の龍──どれも、この世の物とは思えんかった」
「……それを、盗賊どもに見せたのか」
「全部ではない。あの中にあった──轟音と、光と、この世のものとは思えぬ圧。それを取り出して、源坊の記憶の中にあった恐怖心を重ねてやったのよ。お陰で、奴らは未知の恐怖を味わったことだろうさ」
源一郎は目頭に指を当てた。
道理で悲鳴が凄まじかったわけだ。前世の記憶に含まれる現代の都市の光景──踏切の警報音、電車の走行音、聳え立つビル群の威圧、車のヘッドライト──そうしたものを江戸の人間に見せれば、それはまさに未知の恐怖そのものだろう。
「……爺」
「いやいや、よう効いたではないか。あの男どもは腰を抜かし、中には念仏を唱えておる者までおったぞ。儂としては会心の出来じゃったのじゃが──」
「問題はそこではない」
源一郎の声が低くなった。老狸の表情が、ぴくりと引き攣った。
「俺の心を覗いた時に見たものを、他に漏らしてくれるな。あの記憶は──俺の秘密だ」
老狸は源一郎の目を見た。笑いごとでも、冗談を言い合っている時の空気でもない。源一郎の目の奥に本気の光がある。
「……うむ。それは分かっておる」
老狸が、珍しく神妙な声で言った。
「あの時、源坊の心を覗いた時から──儂はお前さんが普通の人の子ではないと気づいておった。だが、誰にも言うてはおらんよ。狸の義理にかけての」
老狸はそう言って、ぺちんと自分の腹を叩いた。狸が腹を叩くのは、誓いの所作だ。源一郎はそれを知っている。
「……分かった。信じる。だが、俺の記憶を使うのはほどほどにしてくれ」
「うむうむ、気をつける。……正直に言えばのう、源坊に本気で怒られるのが一番怖い。あの時も──」
老狸の声が、少し小さくなった。
「──あの時も、えらい目に遭ったからのう」
源一郎は押し黙った。
──覚えている。幼い頃、心を覗かれて幻を見せられた時。泣きはしなかった。そのかわり──激怒した。
前世の記憶を暴かれたことへの怒り。この世界での居場所を脅かされたことへの恐怖。それが全て、怒りに変わった。幼い体で家伝の刀を引きずり出し、本所を逃げる老狸を追い回した。子狸たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ回り、老狸は必死に化けて逃げたが──結局、源一郎に追い詰められ、尾を掴まれ、さんざんに成敗された。
本所の狸たちの間では、今でも語り草になっているらしい。「源坊は綱の生まれ変わりだ」と。
「……あれ以来、儂はお前さんの心を勝手に覗いたことはない。今回は、あの時の記憶を使っただけじゃ。それでも──今回はちと、やり過ぎたかもしれんのぅ」
老狸がしょぼんと耳を伏せた。反省しているようにも見えるが半分は芝居だろう。この狸は昔からそうだ。叱られると殊勝な顔をして、次の日にはけろりとしている。
「……まあ、結果としては助かった。今回はそれで良しとする」
「おお、そうか。それは良かった」
老狸がぱっと顔を上げた。立ち直りが早い。
子狸の一匹が、とことことと縁側に腰掛ける源一郎の足元に近づいてきた。くんくんと匂いを嗅いでから、ピョンと膝の上に乗っかった。ずしりと重い。
「こら、乗るな」
「ほっほっほ。あやつは源坊が好きなのじゃ。酒をくれる人間は好かれるに決まっておろう」
「酒目当てか」
「狸じゃからのう」
老狸はからからと笑った。憎めない。昔からそうだ。ちゃっかりしていて、図々しくて、だがどこか温かい。人の心を覗く神通力を持ちながら、それを悪意に使わない──使ったら成敗されると知っているのか。ただ面白がり、時に手を貸し、そして──きっちり対価は取ってゆく。
源一郎は膝の上の子狸をそっと降ろした。子狸は名残惜しそうに、くぅと小さな声を上げた。
「今回の協力、改めて礼を言う」
「なんの、造作もないことよ。──それより源坊」
老狸が、ふと思い出したように言った。
「次にお願いされた時の、対価じゃがのう」
「……もう次の話か」
「お前さんの心を覗いた時にのう──見えたものの中に、途轍もなく美味そうな酒があったのじゃ。透き通るように澄んで、花のように薫り、口に含めば水のごとく消えていく──あれは何という酒じゃ」
源一郎は一瞬、虚を突かれた。
──吟醸酒のことだろうか。
前世の記憶の中にある、精米歩合を極限まで高めた日本酒。低温長期発酵で醸された、現代の醸造技術の粋。それをこの狸は、源一郎の心の中で見ていたのだ。
「……あれは、この世にはまだない酒だ」
「ないのかっ……!」
老狸が愕然として、本気で落胆した。耳がぺたんと垂れ、尾までしょぼくれている。
「そうか……ないのか……あんなに美味そうじゃったのに……」
「代わりに伊丹の酒はどうだ。灘とはまた違う、柔らかい味わいの酒と聞く」
「……伊丹か。まあ、悪くはないが……」
老狸は未練がましく鼻をひくひくさせた。
「しかし、あの透き通った酒は諦められんのう。源坊、お前さんの知恵でなんとか作れんのか」
「無茶を言うな」
「けち」
「けちではない。作れんものは作れん」
老狸はぶつぶつ言いながら、ゆっくりと立ち上がった。
「まあよい。伊丹で手を打とう。──ただし、一斗樽じゃぞ。二升三升では足りんからのう」
「分かった、分かった」
老狸はそう言い残して、ゆっくりと本所の闇の中に溶け込んでいった。子狸たちもその後に続く。
最後の一匹が振り返り、ちらりと源一郎を見た。それからぺこりと頭を下げ──消えた。
──秋の到来を報せる風が吹いた。
どこかで、下手くそな狸囃子の音が微かに聞こえる。だが振り返っても、そこには何もない。ただ本所の深い夜の闇が、静かに広がっているだけだった。
源一郎は空を見上げた。白い月が高く静かに輝いている。
源一郎は小さく息をつき腰を上げた。
本所の夜は深く、静かに更けてゆく。




