第四十二話
──尋問は、数日にかけて行われた。
捕らえた盗賊たちの内、恐らくは御庭番──謎の男に引き取られていった弓使いの女を除き、主犯格と目されているのは二人。
──尋問を受けているのは巨漢の男と、浪人。あの御用改めの夜、源一郎が相手をした二人だった。
二人の処遇は、ほぼ決まっていた。死罪──それは覆らない。主犯として盗みを働き、五人もの社人を殺めた者への当然の裁きだ。犯行の自白についても既に御用改めの際に言質を取っていた。
だが──源一郎には聞き出したいことがあった。あの廃寺にあった須弥壇。弥勒菩薩像。何かの燃え滓。そして、薬物の中毒症状が見られた無宿人たち。それらの意味を知らねばならなかった。
最初の尋問では、巨漢も浪人も頑なに口を閉ざしていた。何を聞いても答えず、責めにあってもただ黙って吟味方の同心を睨みつけるだけ。
だが――予想外のことが起きた。
二日後の朝。源一郎が与力部屋で報告書を作成していると、吟味方に呼ばれたのだ。曰く、主犯の盗賊たちが源一郎に話したいことがあると──。
「……ようやく来やがったか。あんたに話がある」
源一郎が取り調べの現場に赴くと、主犯の二人が縄を打たれた状態で座らされていた。二人が源一郎の姿を認め――巨漢が声を低く発した。その声には何かしらの覚悟が込められた響きを感じる。
「話す気になったということか」
「……ああ。話してもいい。だが、あんたに頼みたいことがある」
「頼みたいことだと?減刑のことなら残念だが不可能だぞ」
「そんなことは今更どうでもいい。どうせ死罪なんだろう。分かってる」
巨漢は源一郎を真っ直ぐに見つめる。その盗賊とは思えない真摯な視線に源一郎は訝し気にする。それから、巨漢が間を溜めて『頼み』について口にしだした。
「……仲間たちのことで頼みがある」
「……仲間?お前たちの他に盗みに加担した者たちがいるということか」
「違う。そうじゃない。あの夜、俺たちの他に捕まえられた無宿人たちのことだ」
「どういうことだ。その無宿人たちも実は窃盗に関与していた仲間と言いたいのか」
「違うんだ。そうじゃねぇ、聞いてくれ。あいつらは……俺たちが盗みをやったことには一切関わってねぇ。調べりゃ分かることだろうが……あいつらはただあの場所を寝床にしてたってだけだ。でも、あいつらは仲間なんだよ」
妙な話だった──盗賊である者が無宿人たちを仲間と言う。しかも、窃盗には一切関知していないとも。しかし、巨漢の声には切実な響きがあった。目を見れば分かる。嘘ではない。だが何故、その無宿人を仲間と呼ぶ――?
源一郎が混乱したような表情を浮かべた。
「あいつらに……少しでも便宜を図ってやって欲しい。もう面倒は見てやれねぇだろうからよ。頼みを聞いてくれたら、全てを話す」
面倒を見る――盗賊が無宿人たちに情けをかけ、生活の面倒を見ていたとでもいうのか。
源一郎は黙って巨漢を見つめた。その目には自身よりも他者を思う意思が感じられる。そしてそれは隣にいる浪人も同じだった。
それには破れ寺にいた者たちがどのような集まりであったのかが関係しているのだろうか。
「……いいだろう。出来る範囲で頭取に掛け合ってみよう。人足寄場に送られることは変えられないが……真面目に働き、手に職を付けた者は人別帳への復帰を許す。さらに、故郷に帰りたい者には名主宛に、故郷の人別帳への復帰を願う書状を持たせられないか掛け合ってみよう」
「本当かっ」
「……ただし、頼みを聞くのは全てを聞き終えてからだ。隠し事もなし。お前たちの抱える事情まで全て話せ。それができるなら、頭取に掛け合うことを考える」
無宿人にとって、戸籍を得るということは、人として認められるということだ。宿を借りることも、仕事に就くことも、結婚することだってそうだ。全ては戸籍があってこそ。戸籍のない無宿人は、社会の外側に追いやられた存在に過ぎない。
源一郎がチラつかせた飴。巨漢と浪人の目に僅かな光が宿った。
「……分かった。それでいい。全て話す」
§
巨漢は元力士だった。
かつては江戸相撲の力士として土俵に上がっていたが、賭場で喧嘩沙汰を起こし、角界を追われた過去がある。相撲取りとしての体格は今も健在で、その巨躯は牢の中でも圧倒的な存在感を放っていた。
角界を追われた後は博徒の用心棒などをしていたが、やがてそれも行き詰まった。賭場の揉め事に巻き込まれ、人を殺めかけたことで江戸にいられなくなり、各地を転々とした末に無宿人となった。
浪人は元は小藩の武士だった。
藩の取り潰しで浪人となり、各地を流れ歩いていたという。剣の腕は立つが、仕官の口は見つからなかった。浪人が溢れかえるこの時代、腕が立つだけでは仕官などできない。縁故もなく、金もなく、日銭を稼ぐために様々な仕事に手を出した。用心棒、賭場の見張り、時には盗みの手伝いまで。
――その二人の出会いは、富士講の会合の場だった。
富士講──富士山を信仰する民間信仰の講――つまりは、サークルやグループ、コミュニティとも言い換えられる。江戸には『富士講は八百八講』と言われるほど多くの講が存在し、町人から武士まで幅広い層が参加していた。講によっては富士山への登拝を行い、講によっては江戸に築かれた富士塚への参拝で済ませる。いずれにせよ、信仰を通じて多種多様な『属性』を持った人々が繋がる場であった。
「講で顔を合わせるうちに、意気投合してな」
巨漢が語り始めた。その声は低く、どこか遠くを見つめるような目をしていた。
「俺もそいつも、行き場のない身だったからな。講には無宿人、流れ者、世間から爪弾きにされた者たち……そういう連中が身分を隠して集まっていたんだ」
「そこで俺たちは互いに助け合い、仕事を紹介し合い、食い扶持を分け合った。世間から見捨てられた者同士ばかりで、助け合わないと生きていけなかったからな」
巨漢と浪人の声には、懐かしむような、それでいて苦いものが混じっていた。
「だが……助け合いの講を維持するにも金がかかる。食い物、寝床、病人の薬代。着る物、履く物。些細なことでも、金がなければままならない」
「それで、盗みを始めたのか」
「あぁ……最初は小さな盗みからだ。商家の裏口から食い物を失敬したり、酔っ払いの懐を探ったり、巾着切りをしたり。だが、それだけでは追いつかなかった。仲間はどんどん増える。飢えた者、病んだ者、追い詰められた者……放っておけなかった」
巨漢の目が、僅かに潤んでいるように見えた。
彼らなりに仲間を守ろうとしていたのだろう。世間から見捨てられた者たちが、互いに手を取り合って生きていこうとした。その志は決して間違ってはいなかった。だが、他に方法がなく追い詰められていたとは言え、その方法は間違っていた。
──源一郎は、ここで気になっていたことを問うた。破れ寺に集まっていた者たちを講のメンバーとするならば、その中に異常な者たちがいたことを。
「待て――捕らえた無宿人の中に、様子のおかしな者が何人かいただろう。反応が薄く無気力に近い者。苛立ち落ち着きのない者。目の瞳孔が異常に小さくなり、顔色悪く油汗を流していた。あれは何だ。阿呆薬や狂い薬と呼ばれる物を無理やり使わせていたのではないのか」
巨漢と浪人が呆けたように顔を見合わせた。
「狂い薬……?なんだそりゃ……あれは痛み止めのせいだ」
「何?」
「ああ。ある男から譲り受けた物だ。線香のように焚いて煙を吸わせると、痛みが和らぐ。病の者や怪我人の苦しみを取ってやるために使っていた」
源一郎は眉を顰めた。
「痛み止め、だと」
「そうだ。無宿人の中には、病を抱えた者が多い。まともな医者にかかる金なんてねぇ。だから、あの煙で痛みを紛らわせるしかねぇんだ」
「だが……あれを使い続けると、体がおかしくなる。煙を吸わないと落ち着かなくなり、震えが止まらなくなる。あの夜、様子がおかしかった者たちは……煙の効果を切らして、苦しんでいたんだ」
源一郎は頷いた。禁断症状──前世の知識で言えば、麻薬の離脱症状に近いものだろう。しかし、二人の言葉を信じるのであれば、薬は洗脳や服従させるためにではなく、最初から痛み止めとして使っていたことになる。
「その薬を譲った男とは、誰だ。名前は――」
「……他所の富士講で知り合った男だ。名前は……わからん。周囲から御師と呼ばれていた」
浪人が答えた。あまり触れたくないという顔だ。
「どの講の者かは詳しくは知らん。だが、同じ富士講に属していると言っていた。俺たちが困っていると聞いて、色々と物を融通してくれていた」
「融通?」
「ああ。講で使う道具や、生活に必要な物を。薬もその一つだった。『病の者に使えば、苦しみが和らぐ』と言って、使い方を教わった」
源一郎は考え込んだ。聞けば御師と呼ばれる謎の男は、かなり前から講に関わっていたらしい。物を融通し、助け合い、彼らと信頼を築いていたということだ。
「その男との付き合いは、いつ頃からだ」
「二年……いや、三年ほど前からか。最初は、講の集まりで顔を合わせる程度だった。だが、俺たちが困窮していると知ると、色々と手を差し伸べてくれるようになった。俺たちが無宿人だと気づいていただろうに……表では何も手助けできないからと、講の繋がりで助けることをしてくれたんだろう」
巨漢がいい奴だったと言った。しかし、反対に浪人の方は顔を顰めていた。その差に違和感を持つ。
「……あの男は恐らく金持ちだったんだろう。身なりは質素だが、金に困っている様子はなかった」
「その御師とやらの顔は覚えているか」
「……中背、中肉。これといった特徴のない男だった。年の頃は三十か、四十か……」
「そうだな。どうにも印象に残らない奴だった。気づくといて、気づくといなくなっている。そんな感じの奴だ」
源一郎は歯を噛み締めた。特徴がない。印象が残らない。そんな人間がいるだろうか。あるいは──最初から意図的に印象を残さないようにしていたのか。
「もしや、その男が日枝神社の元神官――兼嗣なのか」
「あ――?何で兼嗣のことを知ってんだ。違ぇよ。別人だ」
「ああ……兼嗣は私たちの仲間だった者だ」
その事実に源一郎は一瞬、思考を止めた。名前ばかりが出てきて、その行方は知れないままになっていた存在。日枝神社の巫女――千鶴などは兼嗣が神社の情報を漏らしたのではないかと不安に思っていたほど。それが仲間?彼らの仲間ということは、やはり――。
「――兼嗣も窃盗の共犯者ということか」
「……違ぇよ。兼嗣はこの盗みに関わっちゃいねぇ」
「おい……本当だろうな?最初に隠し事はするなと言ったはずだ……!俺に頼み事をするんだろうッ……!」
源一郎が兼嗣を庇っているものと思い込み、二人を威圧した。
「ま、待ってくれ!事情があるんだ!落ち着いて聞いてくれっ」
「…………話せ」
「――俺たちが金に困っていると話した時、あの男が言ったんだ。『浅草の料理茶屋に、金遣いの荒い男がいる。そいつを調べてみろ』と」
「それが兼嗣か」
「ああ。調べてみると、そいつは大きな神社の神官だった。日枝神社──将軍家の産土神を祀る、格式高い神社だ。その神官が夜な夜な女遊びに金を注ぎ込んでいた」
浪人の目が、僅かに曇った。それから困ったような、それでいて寂しげな笑みを浮かべる。
「俺たちが生活に苦しんでいるというのに、あの男は贅沢三昧だ。いけ好かない奴だと思った」
「それで、脅したのか」
「あぁ――。講で面倒を見ている若い夜鷹に、兼嗣を客として誘うように言ったんだ。奴は女に滅法弱かった。すぐに夜鷹に入れ込むようになった」
巨漢が続けた。
「それから直に接触して、神社に夜鷹を買ったことをバラすと脅した。神官という立場で、そんなことが知れれば……分かるだろう。兼嗣の奴は震え上がった」
クツクツと巨漢が笑う。それ以来、講は兼嗣から定期的に金を引き出すようになった。神官としての俸禄から、少しずつ。兼嗣にとっては苦しい出費だったろうが、講にとっては貴重な収入源だったと。
「だが……」
巨漢が言葉を継いだ。その声には浪人と同じように、兼嗣に対しては柔らかな響きがある。それはまるで――。
「最初は恐喝する仲だった。だが、兼嗣は……思っていたような男ではなかった」
「どういうことだ」
「あいつは金を渡しに来るうちに、俺たちの暮らしを見るようになった。無宿人たちが寄り集まって、肩を寄せ合って生きている姿を。飢えた子供、病んだ老人、身寄りのない女……そういう者たちを」
そこまで言うと巨漢は目を伏せた。
「はじめの頃は、嫌々金を渡していた。だが、無宿人たちと関わるうちに……次第に変わっていった」
「変わった?」
「ああ。自分から無宿人たちに話しかけるようになった。子供たちに飴を買ってやったり、病人に薬を持ってきたり。神官の知識を活かして、無宿人たちに文字を教えることもあった」
「気づけば――脅す相手ではなくなっていた。いつのまにか仲間になっていた」
源一郎は眉を上げた。恐喝の相手から仲間に――意外な展開だった。
「仲間に?」
「ああ。奴は言っていた。『神社の中で、形ばかりの祈りを捧げているより、ここで困っている人を助ける方が、余程仏の道に近い』と」
巨漢が苦笑した。そんなことを言う神官など他にはいないと。
「神官なのに仏の道とは、妙な話だがな。祭神が山王大権現だからいいんだとよ――だけど、兼嗣は本気だった。無宿人たちのために、自分にできることをしようとしていた」
「あぁ……自分のことに金を注ぎ込むよりも気分がいいなんて言ってたな……」
「ふむ……それで、どうしたのだ」
「最初のうちは兼嗣の手取り金で無宿人たちを養っていた。だが……無宿人の数が増え続けた。飢饉で農民であることを止めた者、奉公先で苛められて夜逃げした者、罪を犯して江戸に流れてきた者……次から次へと、行き場のない者たちが話を聞きつけて俺たちの講に集まってきた」
巨漢が拳を握り締めた。
「兼嗣の手取り金だけでは、とても足りなくなった。やむを得ず……兼嗣は神社の奉納金に手を出してしまった。止めろと言ったんだ、もう十分だと……」
源一郎は眉を顰めた。
兼嗣の姿が、少しずつ見えてきた――。最初は脅されて金を渡していた。だが、無宿人たちと関わるうちに心を動かされ、自ら進んで彼らの仲間となった。そして、自分の金では足りなくなると神社の金に手を付けた。
それは罪だ。神社の奉納金を横領した罪。
だが、その動機は──私欲などではなかった。
「だが、それも長くは続かなかった――とうとう兼嗣が神社の奉納金に手を付けていたことが発覚した。兼嗣は神社から追放された。俺たちの生活の綱は断たれ、兼嗣自身も行き場を失った」
「それで、兼嗣は講に身を寄せた──」
「ああ。神社を追われた後、俺たちの元に来た。『もう神官ではないが、できることがあれば手伝わせてくれ』と」
巨漢が言った。懐かしむような遠い目で。
「兼嗣は講の一員になった。無宿人たちと同じように、廃寺で寝起きし、同じ飯を食い、同じ苦労を分かち合った。あいつは……最後まで、仲間だった」
最後まで――?疑問に思ったが、源一郎は黙って聞いていた。
兼嗣という男の姿が、実像として浮かび上がってくる。世評では素行が悪く、女遊びに溺れた男。だがその実態は、無宿人たちに心を寄せ、自らも仲間となった者。人は、一面だけでは語れないのだと思い知らされる。
「それで、講は再び困窮した」
「ああ。仲間の数は増え続けていたのに金がない。このままでは皆飢え死にするしかなかった」
巨漢が深く息を吐いた。重い重い溜息。
「そんな時だった。『あの男』が現れて……山王祭のことを教えたのは」
源一郎の目が鋭くなった。
「あの男――?御師か」
「……ああ。以前から物を融通してくれていた、別の富士講の男だ。あの男が言ったんだ、山王祭には莫大な奉納金が動く。四千両を超える大金が、神社の蔵に納まると」
浪人は続けた。目を吊り上げ、憎々し気な低い声で。
「奴が言うには兼嗣なら神社の内情に詳しいはずだと。警備の配置、番人の交代時間、蔵の錠前の仕組み、人の目の減る時間……そういうことを知っているはずだってな」
「それで、兼嗣に聞き出そうとしたのか」
「ああ……だが、兼嗣の奴は答えなかった」
巨漢が言った。後悔が滲むような声。
「あいつは、仲間として俺たちと苦楽を共にしていた。だが、神社の警備について話すことは、頑なに拒んだ。それだけは、どうしても口を割らなかった」
「神官としての矜持か」
「かもしれん。追放されたとはいえ、兼嗣にとって日枝神社は神聖な場所だった。その神社を襲う手助けをすることは……できなかったんだろう」
浪人が目を伏せた。
「俺たちも、最初は無理強いするつもりはなかった。兼嗣は仲間だ。仲間を苦しめたくはなかった。だが……」
「だが?」
「仲間たちが飢えていた。病んだ者が増えていた。幼子たちが弱っていた。このままでは、皆死んでしまう。四千両あれば、皆を救える。そう思った」
浪人の声が苦渋に満ちていた。他に道はなかったのだと。
「それに――御師が言っていたんだ。『兼嗣が答えないようなら、あの薬を使え。煙を多めに吸わせれば、何でも喋るようになる』と」
源一郎は眉を歪めた。その悪意を感知して。
「痛み止めに使っていた……あの薬か」
「ああ。俺たちは……迷った。だが、他に方法がなかった……仲間たちが弱っていくのを、黙って見ていることはできなかった。だから──兼嗣に、あの薬を嗅がせた」
「……」
「薬を嗅がせると、兼嗣は……夢を見ているような顔になった。そして、聞いたことに何でも答えるようになった。警備の配置、番人の交代時間、宿直の人数、警戒してること、起こると困る問題……思いつくことは全部、聞き出した」
浪人が目を伏せた。その声は震えていた。
「俺たちは……仲間を裏切ったんだ。兼嗣の意思を無視して、無理やり秘密を聞き出した」
源一郎は黙って聞いていた。
「……それで、兼嗣はどうなった」
浪人と巨漢の表情が、さらに暗くなった。二人とも、俯いて黙り込んだ。しばしの沈黙の後、浪人が声を震わせて語り始めた。
「……奴に言われた通りにしたのだ」
「どういうことだ」
「奴は言っていた。『話を聞き出せたら、薬を深く嗅がせて記憶を消せ』と。そうすれば、兼嗣は何も覚えていない。秘密を話したことも、罪の意識を持つこともないと」
「それで、どうなった」
「……言われた通り、薬を深く嗅がせた。すると、兼嗣は……」
言葉が途切れた。浪人は唇を噛み締め、何かを堪えるように肩を震わせている。巨漢が、代わりに続けた。
「兼嗣は……眠るように、死んでいった――」




